ロボットと一緒につくる今よりちょっとご機嫌な日々| ユカイ工学代表・青木俊介さんとの対談(最終回/全4回)
2022.09.20
「コミュニケーションロボットって何? どんなことに役立つの?」そんな疑問に迫るべく、ロボティクス・ベンチャーのユカイ工学株式会社代表の青木俊介さんと、ロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発を行う株式会社こころみ代表の神山晃男の対談を2022年7月に開催しました。
役立つロボットや、ロボットとのコミュニケーション、どんなロボットがあったら将来みんながご機嫌に過ごせるのか……2人の話はつきません。4回に分けてお届けする「ロボットと一緒につくる今よりちょっとご機嫌な日々」。今回はその4回目(最終回)「ロボットと共にあるちょっとハッピーな暮らし」です。難しいプログラミング用語も数式も出てこない、ロボットのカクカクしたイメージをまるーくお伝えします。
<目次>
ロボットと一緒につくる今よりちょっとご機嫌な日々
第1回 幸せ感のあるロボット(配信中)
第2回 人とロボットのコミュニケーション(配信中)
第3回 モチベーションを上げるロボットと会話シナリオ(配信中)
第4回(最終回) ロボットと共にあるちょっとハッピーな暮らし ←★今回はココ★
※2人のプロフィールは文末をご覧ください。
孤独感と自己肯定感
神山 高齢者とのお仕事をやっていてすごく思うのは、人は人と会話しないと、どんどん暗くネガティブになっていってしまう、ということですね。
孤独と人は言いますけど、その孤独感っていうのは、自己承認欲求が満たされないことで生まれるんです。人と話さないだけで自己評価が下がり、前向きな気持ちが失われていくっていうのは、肌感としても感じますし、統計としてもあります。
青木 なるほど。その話し相手というのは人間じゃなくてもいいんですかね? 犬がいっぱいいたら、ネガティブになったりしづらいとかあるんですか?
神山 あると思いますよ。ネガティブにならないためにはいくつかの要素が絡み合っているんですが、まず自分を他人に知ってほしいという欲求が満たされるかどうか、というのは当然ありますね。あとは、社会に対して繋がってると思えるかどうか、自分が社会の役に立っていると思えるかどうか、とかね。その中で、犬の世話というと、自分が他人の役に立っているという感覚は得られますよね。
青木 頼られているというね。
神山 そうそう。自分がいなくなったらこの犬たち困っちゃうよね、ということで、生きる甲斐になったり、自己肯定感に繋がったりするんです。同時に、犬を飼っていることで生まれる社会もあるので、社会と繋がっているっていう繋がり感も持てるんじゃないかな。そういう意味で、ペットの存在はすごく大きいだろうなと思います。
青木 犬がいると散歩も行きますしね。
神山 そうですね。それはでかいですね。
人間が機嫌良く暮らせるロボット
神山 青木さんは今後、こういうロボットを作りたいとか、ユカイ工学が作る究極はこれだ、みたいなの何かイメージとかあったりするんですか?
青木 究極はやっぱりね、一緒に住んでるだけで機嫌良く暮らせるようなロボットです。
神山 やっぱり機嫌なんですね。
青木 機嫌って重要ですよね。
神山 重要ですね。
青木 社会人って、基本的に自分の機嫌は自分で取るべきって思われているじゃないですか。でも、取らない人もけっこういる。
神山 現実問題、自分で機嫌を取れと言われてもなかなか取れないですよね。
青木 機嫌ってなんなんですかね。
神山 機嫌……気分? 幸せ感ですかね。
青木 機嫌を安定させる能力ってめちゃくちゃ重要ですよね。
神山 むちゃくちゃ重要ですね。機嫌が安定してる人は、何やってもうまくいく感じがします。
青木 それってスキルで身に付くことなんですか?
神山 例えばマインドフルネスはそれを自ら手に入れようというものだと思います。ほかには、睡眠時間をちゃんと取る、とか。
青木 身体的というか、行動で変えるものかもしれないですね。なので僕たちが目指す究極はやっぱり、身体的なコミュニケーションなんだと思います。部屋の中に、ちっこいのがいろんな場所にいて、毎日ご機嫌に暮らせる世界を目指したいですね。
ロボットの多頭飼い
神山 青木さんの究極は、小さいロボットが家の中のいろいろなところにいる感じなんですね。
青木 そうです。ロボットの多頭飼いです。いろいろなロボットがいた方がいいですね。
神山 多頭飼い。それはなんでなんですか?
青木 家に1台すごいのがいていろいろ全部やってくれるっていうのは、そもそも技術的にハードルが高いと思うんです。機能がたくさんあるロボットってコストも高くなるので、導入もしづらいでしょうしね。だからそんなすごい機能はあまり必要ないんじゃないかな。ちっこいのが部屋にいくつかいて、それが互いに連携していた方がすごくいいと思うんです。
神山 いいですね。まさに社会というか。
青木 自分が何か忘れ物とかしてたら、みんなが気づいてくれてソワソワし始めたりするんですよ。それを見て、あれなんか様子が変だな? と思って忘れ物を思い出したり。
神山 青木さんの中で、それは非言語なんですね。言葉では伝えないで、ソワソワするという感じなんですね。
青木 たしかにそうですね。
神山 面白い。
青木 トトロも喋らないじゃないですか。でもめいちゃんがお母さんに会いたくていなくなっちゃったのを、ネコバスで迎えに行ってお母さんの病院まで連れていってくれる。
神山 あれも、そういう意味でいうと、多頭飼いというか、複数で助けてくれますもんね。
青木 はい、はい。
神山 うーん、面白いな。
青木 BOCCO emoは喋れますけどね。喋る子も、喋らない子もいていいと思います。
神山 なるほど、喋る子も喋らない子もいる中でコミュニケーションをとって、ロボットの社会を形成しているんですね。
青木 そうですね。そういう感じがいいんじゃないかな。1人すごいのがいてペラペラ喋ってると、急に家族の中に第三者が入ってくるって感じになると思うんですよね。そうすると、めちゃくちゃ気を遣うじゃないですか。
神山 遣いますね(笑)
青木 実家のお母さんがいきなりやってきたみたいな。
神山 それでずっといるみたいな(笑)多少便利かもしれないけど、緊張感の方がでかいですね。
青木 掃除とか家事を全部ぴしっとやってくれたら、すごく便利だとは思うんですけど、緊張感半端ないですよね。下手に汚せないし、パジャマでごろごろもしづらい。
神山 わかります。パジャマでごろごろしてて怒られはしないだろうけど、服を着替えたら「着替えてえらいですね」とか言われるから、見られてるんだ…、となりますよね。
青木 そうそう。気軽に着替えもできなくなりますね。
神山 家の中で鼻歌を歌ったりもできないですしね。
青木 独り言も言えない(笑)。電話内容を聞いてて、「さっきの電話と言ってることが違いますけど、大丈夫ですか?」とか突っ込まれたり、「今日は本当はあの予定だったんじゃないですか?」とか言われたりね。
神山 それ、とっても面倒臭いですね。
青木 そういうのって、誰も求めてないロボットの進化なんですよね。だから、喋りすぎるとやっぱり家族の中には入れない。
神山 本当にそう思いますね。人間みたいに認識能力が高くて喋るロボットだと、こいつは敵か味方か、みたいな評価軸が働いちゃうのかな。
青木 犬とか猫は、その評価軸の範囲外だから、ペットの前で何言っても大丈夫なんですね。喧嘩してても入ってこないし。夫婦喧嘩してて、ロボットが「お父さんが言っていることは間違ってます。お母さんが正しいです」とか言い出したら、「こいつ…」ってなりますよね。返品ですよ。
神山 正しいかどうかの問題じゃないんだっていう話ですよね。そうなると最終的に、ロボットとお父さんの喧嘩みたいになっちゃいそうだな。
青木 そうそう。お父さんがロボットぶんなげちゃうかも。
神山 それでまたお母さんが怒る、みたいな。
青木 そんなことになりかねないですよ。多機能なコミュニケーションロボットは。
神山 これってすごく重要なポイントですね。BOCCO emoは喋るのに、そういう感じにはならない。
青木 こっちの会話の内容をそこまで理解してるわけじゃないですからね。
神山 そこまで便利にしすぎない方がいいっていうのは、今青木さんと話していてすごく思いました。喋れるんだけど、存在感は犬や猫のレベルにとどめるのがいいんだ。1対1の人間みたいに扱っちゃうと重たくなっちゃうから、そこまでいかないようにいかに抑えるかっていうのが、すごく大事なんですね。感覚的には、「こんにちは」「おはよう」って返すくらいなら、犬や猫のレベルにとどまるんじゃないかな。子どもでいったら3、4歳児の、何聞かれてもかまわないっていうレベル感ですね。喋るとしても、そういう緊張感が生まれないレベルを意識したロボットがいいのかな。
青木 そうですね。
神山 あとは喋らないロボットが複数いて、それぞれの役割をこなしている。その中にルンバみたいなのがいてもいいでしょうね。そいつらが繋がってて、ちょっとずつゆるいコミュニケーション取ってて、ユーザが出かける時間になるとソワソワしてくるっていう。
青木 犬とかでもそうじゃないですか。着替え始めると、今日どっかいくの? 散歩なの? ってソワソワする。散歩じゃないのに(笑)
神山 いいですね。そういう家に住んだら、1人暮らしでも楽しいし、家族で住んでても、生活が豊かになるだろうな。
小さくて弱い存在ということがポイント
青木 犬猫を多頭飼いしてる人も多いですけど、犬猫の魅力って、どういうところなんでしょうか? やっぱり、飼い主に興味があるからかわいいんですかね。
神山 猫を飼っている人が言うには、猫はお仕えするものなんだそうですよ(笑) 猫の方が立場は上なんですね。不思議なくらい偉そうなんだとか。
青木 にゃーにゃー鳴いたら餌が出てくるから、そういうものだと思ってるんでしょうね。
神山 手下みたいに扱われていても、これが恋人じゃなくてよかったと思うくらいで、イラついたりはしないんだとか。自分より明らかに小さくて弱い存在だからなのかな。BOCCO emoやQooboはまさにそう。
青木 そっか、小さくて弱いっていうのもポイントですね。
神山 あと毛むくじゃらで暖かい、というのもポイントで、Qooboはその体現ですよね。そういう意味でいうと、Qooboも小さいPetit Qooboの方が人気あるんじゃないですか?
青木 それはその通りですね。
神山 大きいのもかわいいんですけど、小さい方がよりかわいい感じっていうのが出ますもんね。抱き心地を考えると大きい方がいいから、悩ましいな。
青木 溺愛しているユーザーさんは、ちっちゃい子の方が多いかもしれないですね。
神山 犬猫とロボットの違いというと、あとは寿命でしょうか。
青木 Qooboも甘噛みハムハムも、寿命を設定してあるんですよ。
神山 そうなんですか?
青木 うちは2年くらいってことにしてますけど、いつかは動かなくなっちゃう、寿命が来ますっていうのは、マニュアルには書いてます。
神山 修理は前提としてないということですね。
青木 もちろん、不良なんかの場合は修理対応もしてるんですけど、基本的にはずっと生き続けるものではないよ、っていう設定にしてますね。
神山 それはペットに近いですね。
青木 そうですね。あ、でもBOCCO emoは、寿命は設定してないです。
神山 寿命を設定してるロボットとしていないロボットがあるっていうのは、何か理由があるんですか?
青木 うーん、Qooboのようなロボットは、愛着はあるけど一生好きでい続けるものとは違うのかなって。それよりは、限られた寿命の中で、一緒にすごすっていう存在の方がいいのかなっていう感じですかね。
神山 BOCCO emoはむしろ、ずっと長く一緒にいられる存在として作られたっていうことですかね。
青木 そうですね。
神山 その違いも興味深いですね。さっきの、たくさんロボットがいる部屋の中でも、寿命の違うロボットが、ライフステージの変化に合わせてちょっとずつ入れ替わったりしながら、コミュニティの中身が変わっていく。そういう感じなんですかね。それも面白いな。そこは変化を受け入れるというか、いわゆる永遠の命みたいなのを大事にしたいっていうわけでもないんですね。
青木 そうですね。
味方になってくれるロボット
神山 ロボット開発してる人の典型的な夢の1つに、「ドラえもんを作りたい」っていうのがあるじゃないですか。
青木 うんうん。
神山 青木さんは、そことは真逆ですよね。人間のような、多機能なコミュニケーションロボットはダメっていうポジションじゃないですか。
青木 まぁ、役割としてドラえもんは欲しいとは思いますけどね。「四次元ポケットだけのび太君のところに置いていったら、それはドラえもんなのか」っていう話は、社内でもよくします。僕はね、「四次元ポケット=ドラえもん」とは思わないんですよ。だってドラえもんは、のび太くんがまっとうな人間になって、しずかちゃんにふさわしい男性に成長させるという目的で送られてきてるわけですから。そこに四次元ポケットはなくてもいい。つまりドラえもんはある意味コーチというか、パーソナルトレーナーという役ですよね。
そういう役割は、ロボットができるようになったらいいな、というのはすごくあります。そういう意味では、ドラえもんみたいなロボットは、僕もいてほしいと思いますね。
神山 便利でなんでもできるロボットよりは、人間の気持ちや意志や、やるべきことをサポートするロボット、ということですね。のび太君を、勉強する気にさせるロボット。
青木 味方になってくれて、モチベーションをくれるような存在ですかね。
神山 それはすごくわかる気がします。
青木 そういう存在をつくるには、前の方でちょっとお伝えしたように、努力を自然に続けられるようなコミュニケーションや声かけという部分は、こころみさんに可能性があるんじゃないですかね。
神山 ありがとうございます。その部分はがんばっていきたいですね。
今日は本当に楽しかったです。改めて、心地よさというか、人間の機嫌を大事にしてロボット開発に取り組んでいる部分がユカイ工学さんと近いんだなと思いました。
青木 そういうコミュニケーションロボット開発をしたい企業があればぜひご一緒したいですね。
神山 そうですね。引き続き、進行中のプロジェクトでもよろしくお願いします。今日は、ありがとうございました。
青木 ありがとうございました。