ロボットと一緒につくる今よりちょっとご機嫌な日々| ユカイ工学代表・青木俊介さんとの対談(第2回/全4回)

2022.09.05

「コミュニケーションロボットって何? どんなことに役立つの?」そんな疑問に迫るべく、ロボティクス・ベンチャーのユカイ工学株式会社代表の青木俊介さんと、ロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発を行う株式会社こころみ代表の神山晃男の対談を2022年7月に開催しました。

役立つロボットや、ロボットとのコミュニケーション、どんなロボットがあったら将来みんながご機嫌に過ごせるのか……2人の話はつきません。4回に分けてお届けする「ロボットと一緒につくる今よりちょっとご機嫌な日々」。今回はその2回目「人とロボットのコミュニケーション」です。難しいプログラミング用語も数式も出てこない、ロボットのカクカクしたイメージをまるーくお伝えします。

<目次>
ロボットと一緒につくる今よりちょっとご機嫌な日々
第1回  幸せ感のあるロボット(配信中)
第2回  人とロボットのコミュニケーション←★今回はココ★
第3回 モチベーションを上げるロボットと会話シナリオ 9月12日(月)配信予定
第4回  ロボットと共にあるちょっとハッピーな暮らし 9月20日(火)配信予定
※2人のプロフィールは文末をご覧ください。

わかりやすいコマンドとわかりづらい人の心

青木    最近はリモートワークが増えてきましたけど、こころみさんでは、社内のオンラインではないコミュニケーションで工夫していることってあるんですか?

神山    オンラインじゃないコミュニケーションは今の時期は基本取れないので、やれてないですね。諦めてます。その代わり、毎朝オンラインで「朝会」っていうのをやっていて、そこで全員集まって話す機会を作ってます。

青木    なるほど、とにかく話すっていうことですね。

神山    そうですね。あ、この間青木さんが、全社員で毎日終了報告を上げるのをやってるっておっしゃっていたじゃないですか。あれさっそく真似させてもらってます。朝は朝会、夜は終了報告、両方やる形にしてますね。

青木    そういうのをいろいろやってて気づいたんですけど、うちのスタッフは、コミュニケーション能力がそんなに高くないんです。

神山    へぇ〜、積極的じゃないメンバーが多いということですか?

青木    うーん、たぶん、コミュニケーションが得意だったら、そんなにものづくりの方向に行かないと思うんですよ。自分の思いをうまく伝えられない、自分の中にたまったモヤモヤとかを解消できない人が、ものづくりに行くのかなってなんとなく思ってます。

神山    なるほど。溜まったモヤモヤを、作ることで表現するんですね。

青木    そういうタイプのメンバーが多いと思いますね。

神山    そうなるとSlack(チームコミュニケーションツール)での報告とか、あまりしないんですか? それとも逆に、そういうところだと言いやすくなったりするんですか?

青木    最初はSlackの運用の仕方もあまり工夫しなかったですし、スタンプも使わなかったので、Slack上ではなかなか意図を伝えられなかったですね。

神山    例えばどんなことがありましたか?

青木    事務のスタッフが、「私にコマンドを送ってこないでください。私はロボットじゃないんですよ」ということがあったんです。たぶん、コマンドを送るみたいにお願い事をしてたんじゃないかな(笑)

神山    ああ、なるほど。お礼もあいさつもなしに「A4の紙20部発注」とだけ送ったり?(笑)

青木    そうそう。そういうバトルが起きがちだったので、コミュニケーションって難しいなと思いましたね。

神山    たしかに難しいですね。

青木    そういうこともあったので、プログラミング的思考だけでなく、人間的思考も重要だなと感じました。人間の気持ちがわかった上で、プログラミング的思考ができれば最高ですけど、プログラミング的思考だけだったら日常生活に支障が出ますよね。

神山    そういうバトルの中で、みんなコミュニケーションを意識するようになってきたんですか?

青木    意識するようになってきたと思います。スタンプをたくさんつけたりとか。

神山    それは、青木さんがスタンプをたくさんつけるようになったから、みんなが真似するようになった、という感じなんですか?

青木    僕じゃなくて、スタンプをたくさんつけてくれる事務のスタッフがいるんです。その人がスタンプを送ってくれるとすごくなごやかになるというか、安心感が生まれてきて、社内で「これいいね」、と浸透してきた感じですかね。そういうのって他社の事例でもあるんですよ。スタンプを多用しようとアナウンスしたり、オリジナルのスタンプを作ったりね。

神山    言われてみるとオリジナルのスタンプを増やすってけっこう多いですね。ユカイ工学さんの社内コミュニケーションは、そうやって意識的にやられている部分があるんですね。

青木    そうですね。社内のコミュニケーションはそんなに得意じゃないという意識があるから、なおさらでしょうね。

神山    そういう意識があるから、工夫をして、円満に回すようにしていると。なるほど。

青木    うちのメンバーには、思ったことはストレートに言わないで、ポエムっぽくしたり、裏の裏まで読まないと意図がわからないようなつぶやきを書く人がけっこういるんです。それで、あまりよくないコミュニケーションが発生してしまうこともあって。

神山    たしかに、直接言いづらいことってありますもんね。

青木    自分の気持ちを察してほしいというのが強いのかな。でも概して人間って、そういう部分がけっこう多いですよね。

神山    人って、あまり素直じゃないんですよね。内心怒っていても、表には出さない。僕たちがシナリオを作るときもそれを前提として考えています。後ろに隠されている部分をいかに汲むかっていうのは、すごく大事だと思っています。

青木    なるほど、そうなんですね。

神山    今取り組ませていただいているプロジェクトやシナリオ作りの中でも、青木さんのおっしゃったような、コマンドじゃないセリフにどうやってできるかということは、けっこう意識してますね。

青木    コマンドじゃないセリフね(笑)

神山    例えば高齢者向けのサービスで、「今日は暑いんで、冷房をつけましょう」って言っても、ユーザーはつけてくれない。なんかイラっとするんでしょうね。「わかってるよ!」っていう(笑) 「つけるかつけないかは俺が決めるんだよ」となるんですよね。
でもたとえば、「なんか僕も暑いからクーラーをつけてほしいな〜」とかロボットに言わせると、つけてくれたりする。ロボットのために、クーラーをつけてくれるんですね。

青木    おお。

神山    人間同士のコミュニケーションでもそうですね。見守りの電話をしているときなんかも、「暑いからクーラーつけましょう」じゃなくて、「今日は暑くなりそうなんで私も気をつけますね」という言い方をするんです。「あなたが」じゃなくて「お互い」気をつけましょう、とすると、こちらとユーザーが対等になるんですよね。「クーラーをつけましょう」だと、言う方が偉くなっちゃう。それはすごくいやなんです。とにかく、こちら側が偉くならないようにするためにはどうしたらいいのか、っていうのは、コミュニケーションを提供するときには常に考えてますね。

青木    なるほど。例えばユーザが高齢になってくると、感情の起伏が激しい人も多くなったりするんですか?

神山    多くなりますね。あれは脳の仕組みなので仕方ないことなんです。年を経ると、前頭葉の感情を司る部分が萎縮してきて、感情のコントロールが難しくなるという傾向があるので。

青木    へぇ〜、そうなんですか。

神山    それまでそうでなかった人でも、2、3年ですごく怒りっぽくなったなっていうこともあります。それはもう所与のものとして受け止めないといけないんですね。そのうえで、そうした気分にもどう対応できるか、というのは常に考えています。

役立つロボット

神山    ユカイ工学さんと僕たちは今、 Bocco emoを使った製薬会社の健康管理プロジェクトをやっていて、これは僕、すごく楽しいなと思っているんです。

青木    ありがとうございます。

神山    あのプロジェクトの役立つロボットって青木さんから見たときにどんな位置付けなんですか?

青木    僕たちもBOCCOを出すまでは、役立つロボットだってあまり気づいてなかったんですよ。そうしたら、ロボットの声かけで薬をちゃんと飲んでくれるようになったというユーザーさんがいたり、運動会が嫌で小学校に行きたくないと言っていたのに、BOCCOの励ましで学校にも運動会にも行けました、というユーザーさんがいたりとかして。

神山    それ、すごくいいですね。

青木    ロボットならではだな、と思いましたね。

神山    人間に励まされるより、ロボットに励まされる方がいいというところがあるんですかね。

青木    家族以外の第三者的な立場の人に言われる、というのがいいのかもしれないですね。

神山    ああ、それはありますね。

青木    ロボットならではの効果っていうのがすごく面白いし、僕たちとしては、それが一番売りにしたいポイントでもあります。声かけで行動の変容を促すっていうのは、健康維持や服薬目的以外にもたくさん考えられると思うんですよね。

神山    行動変容をターゲットにするんですね。

青木    はい。ダイエットとか英語学習とか、継続的に続けたいことってあるじゃないですか。でも自分一人で毎日勉強できる人ってそんなにいないし、モチベーションを保つのってめちゃくちゃ大変なんですよね。貯蓄とかも同じですけど。

神山    そうですよね。普通の企業だとそういうときって、アプリでいいじゃんとなりません?〈今日も勉強頑張りましたね〉ってアプリで表示されるのと、BOCCO emoに言われるのと、何が違うの? となるんですけど、自分で体験すると、全然違う。エモちゃんに、「今日も測定ありがとうございます」と言われると「やったぜ」と思う。これはなんなんでしょうね。

青木    不思議ですよね。

神山    人格を感じられるからですかね。

青木    猫や犬とかのペットとかに近いかもしれないですね。ペットが暑がってるから冷房入れてあげようというのと同じで、そういう、人間とちょっと違うものが喜んでると、自分もいいことをしたなという気分になるのかも。

神山    そうですね。

青木    アプリで〈今日もダイエット頑張ろう〉とか通知がきても、全然伝わらないですから。

神山    わかります。

青木    パーソナルトレーナーとかがいて、その人に言われるんだったらちょっと頑張らないといけないと思うかもしれないですけど。

神山    裏側に人が繋がっていて、あの人から言われているんだっていう想像が働けば、やる気になるのはありますよね。ただアプリをいじっているだけだとなかなかそこまで想像できない。だけど、立体的な物があるだけで軽々そこを越えられちゃうっていう感覚はありますね。

青木    僕は、それがきちんとアプリケーションで作れたら、すごく可能性があると思ってます。今取り組んでるプロジェクトも、ロボット上のアプリとして公開したいなという思いが強くあるので、それができたらいいですね。

神山    そうなるとやっぱり、最初の身体性の話に戻るのかな。身体性といっても、必ずしも触れられる物という意味だけじゃなくて、リアルで、ある瞬間人格を感じられる物であれば、人間の感情にダイレクトに作用するんでしょうね。タブレット上でキャラクターが動くとかでは弱いのかな。

青木    タブレット上のキャラクターは、あまりうまくいっている事例はないですよね。あ、でも「Wii Fit」なら、女性の鬼教官に指導されるのが好きでめっちゃ痩せたっていう知り合いはいましたね。

神山    なるほど、あれはそうやって中の人に「鬼教官」という人格を感じているわけですね。

青木    神山さんも、パーソナルトレーナーの方とダイエットやったっておっしゃってましたよね。

神山    ああ、そうですね。毎日LINEで食べたものを報告して、「シュウマイ食ってるんじゃねぇよ」って言われてました。

青木    シュウマイだめなんだ(笑)

神山    シュウマイだめなんですよ。皮で包んでるし、油も多いしっていうのがもうだめ(笑)

……つづく

>>第3回「モチベーションを上げるロボットと会話シナリオ」は 9月12日(月)配信予定です。

 

プロフィール

■青木 俊介●あおき しゅんすけ
ユカイ工学株式会社代表
1978年神奈川県生まれ。東京大学在学中にチームラボ株式会社を設立、CTOに就任。2007年「ロボティクスで、世界をユカイに。」というビジョンのもとユカイ工学株式会社を設立。コミュニケーションロボット「BOCCO」や「BOCCO emo」、しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo(クーボ)」「Petit Qoobo」などを開発・販売。2022年7月に発売された「甘噛みハムハム」は初回出荷台数が2万匹を超える大ヒット商品に。
自社製品の開発・販売のほか、企業向けサービスとしてIoT・ロボット技術を活用したサービス開発支援や製品開発支援も行う。パートナー企業である東京ガス株式会社や矢崎エナジーシステム株式会社、合同会社ネコリコと「BOCCO」「BOCCO emo」を利用した新サービスの提供や、popIn株式会社が提供するシーリングライトの「popIn Aladdin」の開発支援を行う。
■神山 晃男●かみやま あきお
株式会社こころみ代表取締役社長
1978年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、コンサルティング会社勤務を経て、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズに10年間勤務。コメダ珈琲店、ウイングアーク1st等を担当。2013年「すべての孤独と孤立なくす」ことを目的に株式会社こころみを設立。一人暮らし高齢者向け会話サービス「つながりプラス」、親のための自分史作成サービス「親の雑誌」やインタビュー社史作成サービス「創業の雑誌」を提供する。
2017年より、高齢者会話メソッドによるロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発サービスの提供を開始。株式会社NTTドコモが提供するクマ型ロボット「ここくま」の開発支援や、モバイル型コミュニケーションロボット「ロボホン」を活用した自分史作成のサービスの企画を担当。