ロボットと一緒につくる今よりちょっとご機嫌な日々| ユカイ工学代表・青木俊介さんとの対談(第1回/全4回)

2022.08.29

「コミュニケーションロボットって何? どんなことに役立つの?」そんな疑問に迫るべく、ロボティクス・ベンチャーのユカイ工学株式会社代表の青木俊介さんと、ロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発を行う株式会社こころみ代表の神山晃男の対談を2022年7月に開催しました。

役立つロボットや、ロボットとのコミュニケーション、どんなロボットがあったら将来みんながご機嫌に過ごせるのか……2人の話はつきません。4回に分けてお届けする「ロボットと一緒につくる今よりちょっとご機嫌な日々」。今回はその1回目「幸せ感のあるロボット」です。難しいプログラミング用語も数式も出てこない、ロボットのカクカクしたイメージをまるーくお伝えします。

<目次>
ロボットと一緒につくる今よりちょっとご機嫌な日々
第1回  幸せ感のあるロボット←★今回はココ★
第2回  人とロボットのコミュニケーション 9月5日(月)配信予定
第3回 モチベーションを上げるロボットと会話シナリオ 9月12日(月)配信予定
第4回  ロボットと共にあるちょっとハッピーな暮らし 9月20日(火)配信予定
※2人のプロフィールは文末をご覧ください。

2人の出会い

神山    僕たちの出会いは、初代BOCCOが出た直後ぐらいからだから、もう6年ですかね。

青木    関西のイベントかセミナーで、テレノイドの話をしたんですよ。

神山    それで「BOCCOいいですよね」って話になって、一緒にご飯食べさせてもらって。

青木    ああ、行きましたね、ご飯。

神山    そのとき話がすごくあって、「いつか一緒に仕事できたらいいですね」と話したんですよね。

青木    そうそう。

神山    でもその後なかなか機会はできず、2年くらい前にやっとコミュニケーションロボット開発のプロジェクトが始まって、ご一緒できるようになった。

青木    そうなんですよ。そのときまでずっと、お互いの興味の方向性が変わってなかったんですよね。

神山    そうですね。

視覚ではなく身体的な感覚に訴えるロボット

神山    方向性と言えば、突然に聞こえるかもしれませんけど、2022年7月27日に発売された甘噛みハムハム、めっちゃいいですよね。

青木    ありがとうございます。わりと好評ですね。

神山    見た瞬間、「これだ!」ってなりましたもん。ユカイ工学さんがやりたいことがまったく変わっていないことが見た瞬間にわかりました。
青木さんは、なぜこういう身体的なロボットに人生を突っ込んでいこうと思ったんですか? スマホではない、立体的なものを作ろうというのは意識的なことだったんでしょうか?

青木    それはそうですね。
社内でも、なるべく視覚や聴覚に頼らないものを作ろうとは言っています。今ってモニターが身の回りに溢れてて、視覚情報だらけじゃないですか。一方で、身体的な情報のスペースがけっこう空いている。だから、身体的な感覚に訴えるものを作ろうっていうのは、かなり意識的でした。

神山    その身体的な感覚っていうのは、視覚や聴覚とどう異なるのでしょうか?

青木    たくさんの視覚や聴覚の情報が、必ずしもQOLを上げるものではないし、人間が人間らしく生きるには、身体の方が重要なこともいっぱいあると思うんです。だからそういう、自分の身体感覚を取り戻せる場面をもっと増やしたいというのがありました。

神山    身体感覚が幸せにつながるっていうことなんですね。

青木    そう思いますね。たとえばMicrosoftが昔、Future Visionっていう、未来の生活がこうなるみたいな映像を作ったんですよね。それが、壁もテーブルも全部タブレットになってて、スクリーンでなんでも情報が出るよみたいなやつだったんですけど、そんなのテーブルがWindowsで壁がAndroidだったらどうしようという感じじゃないですか(笑)

神山    たしかに(笑)

青木    両方アップデートが始まったとか。

神山    地獄ですね。

青木    人間が心地よく過ごせる空間に、スクリーンはあまり必要ないと思うんです。逆にロボットなら、身体感覚を通して人を幸せにするという場面で活躍できると思います。

神山    身の回りに置いておけて、幸せになるものを作ろうということですね。それって、すごくわかる気がします。ハムハムとか、幸せ感ありますもんね。僕最近、こうやって寝かしてやるのがお気に入りなんですよ。

青木    なんかにやけちゃうんですよね。

神山    なんかにやけちゃう感ありますよね。

青木    神山さんは、ロボットの、特にコミュニケーションにフォーカスをしているんですよね。

神山    そうですね。僕は最初からコミュニケーションにフォーカスした会社を作って、その中で、ロボットを使ったコミュニケーションに注目しています。コミュニケーションだけだったら、スマホでいいという人もいるかもしれないんですけど、やっぱりスマホ越しだと伝わらないものがありますよね。昔でいうとテレノイドはまさに身体感覚と一緒にコミュニケーションを実現するツールだったので、ロボットにすごく惹かれました。

青木    身体感覚が幸せにつながるって話なんですけど、ツイッターで知り合いが面白いことを言っていたんです。「今日はもう本当やる気なくて死にたい気分になって、カウンセラーでも受けようかと思ったんだけど、エアコンつけたら治った」っていう。

神山    あはは(笑)でもあるある、そういうこと。

青木    落ち込んだ気分になっても、別に何か深刻な原因があるとかじゃないなら、簡単な、身体的なことで治ったりするんですよね。

神山    たしかに。

青木    知り合いの作家さんで、やる気出ないときはお腹をドライヤーであっためるって人もいましたよ。お腹をドライヤーで温めると前向きな気分になって、仕事が進むらしいです。

神山    へぇ〜! それは効果ありそうですね。

青木    人間もやっぱり動物だから、環境に左右されてると思うんです。気温とか明るさとか。そういうもので、人間が自然にポジティブになれるような環境を作れるといいですよね。

神山    それでいうと、まさにハムハムは癒やされますよね。どれくらい癒やされてるのかとか、実証実験をやると面白そうですけど、されたんでしょうか?

青木    まったくやってないので、やりたいなとは思ってます。

神山    ハムハムしないぬいぐるみに指突っ込んで1カ月過ごす人と、ハムハムするぬいぐるみに指突っ込んで1カ月過ごす人で情緒に変化があるかやったら、なにか見つかりそうですよね。

青木    ハムハムしないぬいぐるみを用意しないといけないですね。

神山    電池抜いたやつでいいんじゃないですか。

青木    ああ、そうか。

神山    こうやってハムハムしながら話をするのもいいですね。強制的にリラックスしながら話をできる感覚があります。

青木    そうですね(笑)。

言語化しないでも価値を共有するには?

青木    甘噛みハムハムとQooboは、通じるものがあるよねってよく言っていただけるんですけど、自分たちではそんなに意識してないんです。

神山    それは意外です。甘噛みハムハムもQooboも、癒やしで非言語で、「弱いロボット(周りの手助けに支えられて目的を達成するロボット。豊橋技術科学大学 岡田美智男教授が提唱)」じゃないですか。一瞬の楽しみという高尚な目的を持っているというか。そういうのを意識的に考えられているのかなと思ったのですが、そうではないんですか?

青木    「ユカイ工学らしいよね」とは社内で思ってたんですが、そこまで言語化してないですね。

神山    それは言語化をしない方がいいということですか?

青木    あまり言語化しなくていいよね、ということは言ってますね。無印良品とかも、無印良品らしさっていうのは言語化してなくて、デザイナー任せらしいんです。デザイナーはバラバラだけど、なんとなく無印良品っぽいのが出てくる。

神山    言語化しないでどうやって方向性を合わせるのでしょうか?

青木    カルチャーですかね。

神山    カルチャーをつくるのに意識的にやってることってあるんですか?

青木    えっと、ベースとしてうちは、ユカイ工学のプロダクトを見てかかわりたいなと思って入ってくれた社員が多いので、みんなユカイっぽいものが好きっていうのはあると思うんです。
あとはそうですね……ユカイ工学では毎年、社内で開催しているものづくりイベント「メイカソン」をやっていて、全社員そこで新しいものの試作品を実際に作ったりしてます。

神山    じゃあそのメイカソンの場で価値観が共有されたり、「これはユカイらしくないよね」っていう話がされたりするんですね。

青木    それはあると思います。

神山    そういうときの評価や議論というのは、青木さんがイニシアチブを取られるんですか?

青木    いや、僕個人がっていうのはそんなにないですね。みんなで投票するんで。

神山    そうか、みんなで投票して方向性が決まっていくんですね。

青木    そうですね。

神山    なんで僕がこの話にここまで突っ込んでいるかっていうと、うちの会社が、言語化しないと伝わらないものがある、っていうスタンスのサービスを提供しているからなんですよね。

青木    あはは(笑)なるほどですね。

神山    うちは、ディープリスニングっていう手法でとにかく人の話を聞いて、企業のノウハウや思いを言語化していくというサービス「DL+Consulting」を提供していて、言語化にはすごく価値があるのを感じているんです。それなのに、いきなり真逆の話になったので、興味深いと思いまして。

青木    言語化が重要だっていうのは、わかる部分もすごくありますよ。

神山    青木さんが言語化しようとしている領域ってありますか?

青木    うーん、僕がそんなにそれが得意なタイプでもないので、やってないです。面倒臭いからやってないだけかもしれないですけど(笑)

神山    そうなんですね。いや、Qooboと甘噛みハムハムの共通点をすごく感じるのに、それが言語化せずにされているというのは本当にすごいですね。

青木    それは嬉しいですね。やっぱりQooboや甘噛みハムハムのようなロボットはすごく身体的なので、言語化しづらい領域ではあるかもしれないです。

……つづく

>>第2回「人とロボットのコミュニケーション」は9月6日(月)配信予定です。

 

プロフィール

■青木 俊介●あおき しゅんすけ
ユカイ工学株式会社代表
1978年神奈川県生まれ。東京大学在学中にチームラボ株式会社を設立、CTOに就任。2007年「ロボティクスで、世界をユカイに。」というビジョンのもとユカイ工学株式会社を設立。コミュニケーションロボット「BOCCO」や「BOCCO emo」、しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo(クーボ)」「Petit Qoobo」などを開発・販売。2022年7月に発売された「甘噛みハムハム」は初回出荷台数が2万匹を超える大ヒット商品に。
自社製品の開発・販売のほか、企業向けサービスとしてIoT・ロボット技術を活用したサービス開発支援や製品開発支援も行う。パートナー企業である東京ガス株式会社や矢崎エナジーシステム株式会社、合同会社ネコリコと「BOCCO」「BOCCO emo」を利用した新サービスの提供や、popIn株式会社が提供するシーリングライトの「popIn Aladdin」の開発支援を行う。
■神山 晃男●かみやま あきお
株式会社こころみ代表取締役社長
1978年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、コンサルティング会社勤務を経て、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズに10年間勤務。コメダ珈琲店、ウイングアーク1st等を担当。2013年「すべての孤独と孤立なくす」ことを目的に株式会社こころみを設立。一人暮らし高齢者向け会話サービス「つながりプラス」、親のための自分史作成サービス「親の雑誌」やインタビュー社史作成サービス「創業の雑誌」を提供する。
2017年より、高齢者会話メソッドによるロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発サービスの提供を開始。株式会社NTTドコモが提供するクマ型ロボット「ここくま」の開発支援や、モバイル型コミュニケーションロボット「ロボホン」を活用した自分史作成のサービスの企画を担当。