AIにワクワク?ドキドキ?|会話型AI構築プラットフォーム『miibo(ミーボ)』の生みの親・功刀雅士さんとの座談会【第2回/全5回】

2023.06.13

「もし自分がもう1人いたら、その人にお仕事をしてもらって、自分は好きなことだけをしたいなあ」。そんなことを考えたことはありませんか? それが夢物語でなくなる日が近づいてきました。AIによるチャットボットサービス「ChatGPT」の登場が理由のひとつです。会話を生成する「ChatGPT」のような会話型AIや、画像生成AIなど、今、AIが最高に注目されています。AIの進化によって、どんな未来になるのかワクワクする期待がある反面、私たちの仕事がなくなるんじゃないかドキドキする不安もあります。そんなワクワクやドキドキ、AIによる会話やチャットボットの開発を行ってきた人たちはどう思っているのでしょうか。

今回は、誰でもGPT-4を利用した会話型AIを構築できるサービス『miibo(ミーボ)』を生み出した株式会社miibo代表の功刀雅士(くぬぎまさし)さんと、ロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発を行う株式会社こころみ代表の神山晃男、取締役COOの森山裕之が、「会話型AIでできるワクワク・ドキドキする今と未来」をテーマに話し合いました。

ワクワクが勝つかドキドキが勝つか、未来をつくるのはAIなのか私たちなのか、それともぜんぶごちゃまぜで共存していくのか……、3人の話は尽きません。5回連載の「AIにワクワク?ドキドキ?|会話型AI構築プラットフォーム『miibo(ミーボ)』の生みの親・功刀雅士さんとの座談会」の第2回は『会話型AI構築プラットフォーム『miibo』の魅力はズバリコレ!』です。ぜひ最後までお楽しみください。

<目次>
AIにワクワク?ドキドキ?座談会
第1回 AIを利用して人間の会話を模倣できる技術「会話型AI」の可能性  配信中
第2回 会話型AI構築プラットフォーム『miibo』の魅力はズバリコレ! ←★今回はココ★
第3回 会話型AI構築プラットフォーム『miibo』と「こころみ」の相乗効果 6月20日(火)配信予定
第4回 AIと共に歩む未来の世界 仕事も私もどうなるの?  6月27日(火)配信予定
第5回 人間?AI?これは誰? これから『miibo』でできること  7月4日(火)配信予定
※3人のプロフィールは文末をご覧ください。

ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)登場での衝撃

神山    ChatGPTとかGPT-3とかが出てきたとき、1番衝撃的だったのはどの段階だったんでしょうか?

功刀    GPT-3ですね。2020年のリリースだったと思うんですけど、あれは革命だなと思いました。

神山    なるほど。それはどうしてですか?

功刀    GPT-3というのは、誤解を恐れずに言うと、従来のマルコフモデル(*1)を始めとした確率的に文章生成をするアプローチと変わらないのです。今の文章の「次に来るワードは何か?」という推論を繰り返しているだけです。もちろん、従来のアプローチと比べ、規模や細部のアルゴリズムは異次元の進化をしているわけですが、「確率的に文章を並べたら、あたかも人間かのように賢くなった」ことにみんな驚愕しているわけです。そうなってくると、もしかしたら人間が考える仕組みも意外とそういう単純な仕組みなんじゃないかと思って、衝撃を受けたんです。

神山    それは私も、GPTを触っているときに思いました。「人間も、なんとなくで会話している部分の方がはるかに多いんじゃないか?」とね。

功刀    GPT-4はパラメータ数は公開されていませんが、半端ない数のパラメータを持っているわけです。1兆パラメータを超えるという予測もあります。仮に「人間もGPTのようなLLMなのでは?」と仮定すると、いろいろと考えさせられることがあるのですよね。
たとえば、人間にも自分の脳に指令を与える「プロンプト」があるとします。そのプロンプトには、本能的な情報から今までの経験・記憶、遺伝情報などさまざまな情報が入っています。そこに、視覚・聴覚・味覚・嗅覚などさまざまなマルチモーダルなインプットが行われ、プロンプトエンジニアリング(*2)による応答が生成されると考えると、GPTと規模感は全然異なりますが、究極人間もそういった思考プロセスで自分の考えを生成しているのかもしれない……そんなことを考えちゃいました。だとすると、自覚はないけれど、人間もかなり単純な仕組みで動いているのではないかと。

神山    人間に対する見え方が変わったということですね。

功刀    それって、いいのか悪いのかわからないですけれどね。悲しいというか……人間に対する失望もありつつ、すごく楽しみな未来もありつつ、という感じでした。

神山    功刀さんはさらにそこを掘り下げていこうと思ったわけですよね。

功刀    それまでは、人間とロボットには上下関係がありました。「弱いロボット」(*3)というキーワードの本があるくらいですから。でも、互いに拡張し合えるAIと共生していく社会というのは、上下関係のある世界観とは違いますよね。「人間ってそんなにすごい存在じゃないんだな」という気づきって、悲しいけれどポジティブなことだと思います。人間とAIが対等になれるということですから。

神山    私もそう思います。

功刀    だからGPT-3などの大規模言語モデルが出てきたときは、真の意味で、人間とAIが拡張し合うという状態に近づけるな、という感覚がありました。「人間ってそんなにすごい生命体じゃないから、そんなに気張らないで、AIにどんどん頼っていいじゃん」くらいの感覚になったんですね。それで、そのための技術開発に今のめり込んでいるところです。

神山    興味深いですね。

功刀    でもそれは、日本人だから得られた感覚、というのもあるかもしれないです。アメリカなんかだと、受け入れづらい発想なんじゃないですかね。

神山    詳しく聞いていいですか?

功刀    アメリカで生まれるSF映画では、AIが人間の敵として描かれることが多く、そのとき最後に死ぬのはAIなんですよ。 AIは人間のアイデンティティを傷つけるもので、人間は負けてはいけないという構図があるんですよね。でもロボットにアイデンティティがあると、人間だけがすばらしくてAIはすばらしくない、という発想は覆されると思うんです。

神山    日本にはドラえもんも鉄腕アトムもいますもんね。アイデンティティのあるロボットが。だからかどうかはわかりませんが、日本人にはロボットは友達だという感覚がある気がします。

功刀    そうですね。それに、宗教観の違いもあるかもしれないです。多神教だと、人間は神が作ったすばらしい存在だ、という感覚はないですから。

神山    面白いですね。囲碁や将棋の世界で、「AIが世界一の人間に勝てるようになりました」というニュースがありましたよね。でもAIが人間に勝ったからといって囲碁将棋が廃れるわけではなく、むしろ今、藤井聡太さんのような人が現れて、将棋がめちゃくちゃ面白くなってきている。あれは、現代の棋士がAIを活用しているからなんですよね。つまり、AIを使うことによって人類が進化しているんだと思うんです。

功刀    おっしゃる通りですね。

神山    それと同じようなことが、会話の世界で起きるかもしれないですよね。

功刀    はい。

神山    そういうところから、世界もよりよくなっていくのかもしれない。

功刀    その兆しがGTP-3だったんですよね。GTP-3からさらに先への進歩はみんなまだ先だと思っていたら、2年後にChatGPT-3.5が現れた。そこで、拡張し合う未来がバチっとやってきたという感じですね。

神山    そうですね。

功刀    UIも対話に変わったじゃないですか。あれは本当に、「一気に来たな」って思いましたね。

*1 マルコフモデル…確率的に次はこうなる、次はこうなる、というのを連鎖させていくもの。詳しくは以下のウェブサイトをご覧ください。
▶︎日本薬学会の機関誌「ファルマシア」より
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/51/12/51_1160_2/_pdf/-char/ja

*2 プロンプトエンジニアリング…テキストなどを生成するAIに対して人間がイメージしているコンテンツを適切に回答できるように質問の指示を与える技術。

*3 弱いロボット…完璧でないローテクノロジーで、1人ではなにもできないロボット。

miiboによって実現できる世界観

神山    miiboは2020年リリースですけれど、今でも、miiboに似ているサービスってあまりないですよね。一般的には、機能側に寄ったサービスが多いと思います。miiboのような、キャラクターやシナリオを作りやすくします、使い方はユーザに任せますよ、というコンセプトのものってないんですよね。

功刀    はい。

神山    だからこそ、miiboのようなコンセプトに着目した功刀さんのセンスってすごいなと思いました。

功刀    2020年時点でmiiboのようなサービスがリリースできたのは、たまたま、というのもあるかもしれないです。仕組みをつくるのには手間暇がかかるんですよね。でも僕はたまたま、ずっと前からこの領域でプロダクトを作り続けた経験があったので、そこに行き着けていたのだと思います。

神山    そうだったんですね。

功刀    あとはもともと、Android向けの音声対話アプリ「おしゃべりアシスタント」をつくっていたので、その際にこういうこともやりたいなって思っていたのを詰め込んだらmiiboになったという感じですね。

神山    「おしゃべりアシスタント」が発想のベースにあるというのは、miiboを使っていて私も感じました。われわれは、ルールベース(シナリオ型)でチャットボットをつくるときは、キャラクターを設定するんですよ。miiboだとそういうキャラの反映がすごくやりやすかったんです。「あ、これはこうすればいいんだな、ここに入れればいいんだな」とスラスラできたので、気持ちよかったですね。

功刀    ありがとうございます。確かに、miiboにおける擬似記憶である「ステート」機能は、「おしゃべりアシスタント」からきていますね。そうか、こころみさんの会話シナリオをつくるというのは「おしゃべりアシスタント」と近い領域ですもんね。そういう、そもそもの発想が一緒だったから気持ちよく使っていただける、というのはあるかもしれないですね。

神山    それからmiiboの機能でいうと、ノーコード・ローコードでChatGPTのインターフェースを構築できるというのも特に強力だなと思います。コードを書いてシナリオをつくるのって大変ですよね。

功刀    すごく大変です。

神山    ノーコード・ローコードでサクサクできることによって、実現できる世界観がものすごく広がると思っています。GPT会話が想定されるサービスでも日常会話でも、「こういう流れで自然な会話を作りたい」というイメージがあるじゃないですか。でも、ひとつひとつの受け答えは固定されたテキストではなく自動で生成したい。そういう希望を簡単に可能にするところが、miiboの最大の特徴ですよね。たとえば、面接AIチャットボットの「山庭さくら」は、自然な流れの会話の1つです。

功刀    やっぱり、タスク指向型対話システム(*4)と、非タスク指向型対話システム(*5)の融合がいいんだと思います。ある目的は維持したまま、コントロールしたいところを自由に動かすということですね。会話って本来そうなんですよ。目的はあるけれど、その中に柔軟性がありますから。

神山    うんうん。

功刀    今までのチャットボットは命令したことだけを言わせる、というところに、本来の対話とのコンフリクト(競合)がありました。対話システムというより、ただの「対話UI」をしたシステムになってしまっていたんですよね。

神山    そうですね。

功刀    miiboにはまだバグもいっぱいありますけれど、これからも修正を重ねて、目的を維持した自然な会話を生成できる対話システム、というところを目指してやっていきたいです。

神山    目指している方向性がブレていないから、おっしゃっていることに納得感がありますね。われわれもmiiboをいじっていて信頼できるというか、安心感がありますから。

功刀    うれしいですね。ありがとうございます。

*4 タスク指向型対話システム…ユーザが何らかの情報要求を持っており,それに対してその欲求を達成するために必要な対話を行うもの

*5  非タスク指向型対話システム…対話すること,それを継続すること自体が目的であり,それを通じて人間を楽しませるようなシステム ▶︎「日本感性工学会論文誌」より

miiboで広がるAIの可能性 −面接AI、不動産AI、体重計AI、日記AI−

森山    実は今こころみは、面接AIチャットボットをさらに進化させたものをつくろうとしているんです。

功刀    おお、それはどういうものなんですか?

森山    まず、面接AIボットがユーザに、ユーザの人となりを引き出すような質問をするんですよ。たとえば、「何かみんなで協力して成果を上げたエピソードを教えてください」というような質問を投げかけて、あるエピソードを聞き出します。そこでさらに、「そのときどういう結果になったんですか」とか、「そこで発揮できた自分の強みってなんですか」とか、そのエピソードについてひと通り聞いてみるんです。

功刀    なるほど。

森山    結果、面接AIボットには「ユーザの強み」みたいなものが蓄積していきますよね。蓄積したあとでユーザに面接を想定して面接AIボットに自己アピールしてもらうと、「あなたはこの前こういうエピソードを話していたから、ここはこう言い換えた方がいいですよね」というアドバイスができるんです。

功刀    おお。

森山    ユーザのことを理解している面接AIボットが今までの会話をぜんぶ覚えてくれていて、「前に話していたこのエピソードを含めた方がぜったいにアピールできるよ」と教えてくれたら、うれしいじゃないですか。そういうものを今、作ろうとしています。

功刀    面接を上手にさせるためのAIということですね。

森山    ユーザのことを記憶していて、いろんな面接のパターンを踏まえた上でアドバイスをくれるというのは、いい使い方だと思っています。

功刀    そうですね。

森山    株式会社ULTRA CONNECTED and Guildsさんと共同で開発した、チャットGPT4を活用した新卒採用向けの会話型AIシステム「AIメンター」もその1つです。

功刀    そうでしたね。

森山    こういう使い方は、面接だけではなく、カウンセリングでも有効だと思います。以前話したことを覚えていてくれて、それを踏まえた上で、「こういう考え方もあるんだよ」と言ってくれたらうれしいんじゃないかな。miiboなら、そういう、過去に話したこととのつながりを維持したままの自然な会話が作れるので、いろいろな状況で使えると思っていますね。

功刀    たとえばmiiboの擬似記憶である「ステート」をアップデートして、過去のステートと今のステートを使って会話を展開するということもありえますね。

神山    おお、過去と現在を比較するということですか?

功刀    はい。そういうのもありかなと思います。前回の面接結果と、今回の面接結果をプロンプトに入れて対話する、という感じでしょうか。

森山    理想を言えば、同じステートに何回かアップデートしたときに、過去3回分のステートが自動的に引き出されるような仕組みにできれば、「過去3回と比べると、だんだんよくなってきているね」というようなことがわかりますよね。

神山    それいいですね。

功刀    過去のデータが蓄積すればAIが成長するというのは、経験して人間が成長するのと同じですね。

森山    そのうえ、過去の会話と現在の会話がつながっているように見えれば、生きている人間としゃべっている雰囲気が出ると思います。それって、他のChatGPTのソリューションとはまったく違っているんじゃないでしょうか。

神山    不動産屋のチャットボットだとすると、「神山さまは3日前は渋谷の不動産を見ていましたけれど、今日は三軒茶屋なんですね」みたいなことも言えますね。それってやっぱり、一般的なチャットボットと比較しても違いますよね。

森山    そうですね。過去のステートがあれば、「先日のあの物件どうでしたか?」って聞いて、「先日の物件に似た別の物件があるんですよ」なんて提案ができると思います。

神山    もしお客さまが「ああ、先日の物件は日当たりがちょっとね」って答えたなら、「それならもうちょっと日当たりのいい物件を探しましょう」という流れも簡単に作れちゃいますね。

功刀    時系列ステート管理機能ですね。面白そうです。

森山    でも、そこまでのレベルの機能を使いこなしたいと思う人が、まずそうそう出てこないんじゃないでしょうかね。

神山    あはは、そうですね。

功刀    ステートがまず受け入れられていないですからね。

神山    うーん、たとえばすごくシンプルに考えて、体重を聞くチャットボットだったらどうですかね。ユーザの体重が平均を超えたら「最近体重が増えてきたから、ちょっと気をつけましょう」って言うとか。それだったら簡単でイメージもわくし、技術的にもできますよね。

功刀    先ほどの日付ステートを使えば、できますね。しゃべる体重計、面白そうです。

森山    ダイエットアプリでも、「3日続けてくれてありがとう!」みたいなことを言われるとうれしいですもんね。それに近いことができるようになるんですね。

神山    できますね。

森山    長期記憶というか、ある程度連続した記憶を持った上でコメントができるのはいいなあ。

神山    miiboは会話の文脈から疲労度などの評価ができますよね。それなら、毎日日記をつけていたら「最近楽しい話題が増えましたね」というようなことを言う日記AIがつくれるんじゃないですか?

功刀    そうですね、できますね。

神山    それいいな。ちょっと自分で作ってみようかな。日記を見て、コメントをくれるAI。うん、いいですね。

森山    私が作りたいなと思うのは、自分を完璧に理解している相談相手ですね。まず自分史を自分で作ってそれをAIに学ばせて、相談するんです。そうしたら、「いや、君は今までけっこうがんばってきたから、今のままでもいいと思うよ」みたいに励ましてくれるとか。

神山    それいいですね。カウンセリングに相談するときだって、自分のこと何も知らない相手だったら「お前、俺のこと何も知らねぇだろ」って思うことありますもんね。

功刀    確かに。

森山    アドバイスにしても応援にしても、自分の話をちゃんと聞いて理解してくれた相手なんだ、という安心感があるからこそ、その相手の言葉が刺さるんだと思うんです。だからやはり、僕という人間の過去も経験もすべて理解したAIの自分版に、いろいろと言ってもらいたいですね。

神山    それだと、ビジネス的にはどういうことができそうですかね。もし「私はこういう人間です」という情報がすべて入ったデータがあるのなら、自分をよく知っていて相談に乗ってくれるAI、というのはすぐできそうですね。そのデータを取り込むだけでいいわけですから。

功刀    そうですね。

森山    あとは、ユーザの話をずっとヒアリングしていって、過去の話を踏まえた上で相談に乗ってくれるAI、というのもできると思います。

神山    そうですね。どっちもできますね。

功刀    ログとしてのAIというよりも、自分を知り尽くした相手がほしいからつくるAIか……。話し相手としていいですよね。あとビジネス的にいうと、たとえばインタビューの際に、自分の代わりに答えるAIとしても需要はありそうです。

神山    その使い方、できそうですね。

miiboを使うメリットは、アンコントローラルブルなChatGPTという大きな存在を、コントローラブルにできること

神山    私の中でのmiiboの特徴としては、「ノーコードで圧倒的に効率的である」「シナリオの組み合わせができる」「データストア機能」の3つが大きいと思うのですが、特に、miiboに知識をインプットできる「データストア機能」についてお伺いしてもいいですか?

功刀    はい。「データストア」はいわゆるGPTに与える専門知識のデータベースのことですね。

神山    miiboのデータストアのメリットってどんなところにあるんでしょうか?

功刀    企業がmiiboを採用して得られる最も大きなメリットは、アンコントローラルブルなChatGPTという存在を、コントーラブルにできるというところかなと思っています。

神山    なるほど。ChatGPTのアンコントローラブルな部分というと、何を言い出すかわからないとか、会話の流れをコントロールできない、といった部分ですね。

功刀    はい。そのコントーラブルにできる機能の1つが、神山さんがおっしゃったようなデータストア機能です。miiboには、その会社しかないノウハウや知識をインプットできるんです。つまり、付加価値が作れます。そして、その付加価値によってしか生まれないAIが、miiboを使えば簡単につくれるんです。

神山    はい。

功刀    ChatGPTが語るのは、いわゆる一般論になるんです。web上で導き出せる知識ですから。でもmiiboを使ってノーコードで作ったAIは、社内のノウハウをもとにアウトプットできます。ようは、その会社しか作れないAIを生み出せるのがmiiboの強みだと思います。

神山    今は、ChatGPTのプラグインでも、データ連携できるものがありますけど、それとはどう違うのでしょうか?

功刀    あれは、ChatGPTのサービス上の話なんですよね。ChatGPTのインターフェースであれば、プラグインでデータを入れて答えさせることは可能です。でもたとえば、LINEチャットボットのような外部プロダクトでは使えないんです。ChatGPTから出た瞬間、データ連携は使えなくなりますから。

神山    そうか。そういうことなんですね。

功刀    はい。でも対話というのは ChatGPT上だけではなく、いろんなところでしますよね。miiboならそれが可能になります。

神山    それはとてもわかりやすいmiiboのアピールポイントですよね。すごく平たい言い方すると、会社の中にあるデータを使ったチャットボット作ろうとしたら、miibo使うのが最適解ですよね。

功刀    そうですね。

森山    でも、ChatGPTでファインチューニング(*6)してAPI(*7)経由でデータ連携をする技術があればChatGPT上以外でも可能ではあるんじゃないですか? 

功刀    そうです。技術があればできます。

神山    でもそのつくり込みがめちゃくちゃ大変なんですよね。

功刀    そうですね。それにファインチューニングをするとなると、メンテナンスが大変なのですよ。ファインチューニングはその時点でのデータでトレーニングを行い、別のモデルを生み出す行為なのです。なので、結局は古くなり、学習をし直して新しいモデルを作り直すということの繰り返しになるわけです。それってかなりコストパフォーマンスが悪いんですよね。だからそこをリアルタイムに追いかけていくには限界があるんですよね。

森山    うんうん。

功刀    miiboが採用しているアプローチは、基本的にプロンプトエンジニアリングなんです。もう少し踏み込むと、「In-context learning(*8)」といわれるようなアプローチです。プロンプトに会話の流れに応じて最適な情報を与えてあげることで、応答をうまく制御してあげているのです。
それを行っているのが、「データストア」の機能ですね。このデータベースにデータを与えれば、リアルタイムにAIの応答を変更できるんです。

森山    なるほど。

功刀    リアルタイムにデータを変えたりするのを手軽にできるということが、miiboの1つ差別化ポイントですかね。

神山    なるほど、それは大きなポイントですね。

功刀    もちろん、エンジニアさんが何人もいる企業であれば、自分で開発できるとは思います。うちみたいなベンチャーでもできるので。平たく言えば、miiboは、力のある企業なら時間をかければできるようなことを、民主化しているのだと考えてもらったらいいかと思います。

神山    大原則として、ChatGPTという他社の技術を使いやすくしているのがmiiboなんですよね。だからもちろん、「がんばれば誰にでもできますよね」という問いに対しては、「できますよ」という答えになるんだと思います。でも重要なのは、miiboがいかにそれを、「がんばらなくても誰にでもできる」ようにしているのか、という部分なんでしょうね。

*6 ファインチューニング…訓練用のデータを追加して訓練し、特定のタスクに適応させるための手法。

*7 API…アプリケーション・プログラミング・インターフェース。ソフトウエアやアプリ同士をつなぐもの。

*8 In-context learning…詳しくは以下のウェブサイトをご覧ください。
▶︎RECRUIT「Recruit data blog」

他社とmiiboの差別化ポイント

功刀    miiboと他社の差別化ポイントとしては他にも、複数AI、複数プラットフォームに対応できる、ということが挙げられます。

神山    おお。1つずつ教えてください。複数AIに対応できる、というのはどういうことなんでしょうか?

功刀    miiboは、対応するAIをジェネレーティブで切り替えられるんですよ。もともとmiiboはオリジナルAIを使っていたから、ChatGPT特化のサービスではないんです。そういう経緯があったので、プルダウンでAIモデルを変えられるようにしています。今はGPT-3のAIを使っていますけど、新しいAIモデルが出てきてもすぐに対応できます。

神山    おお、なるほど。それは、今後すごく大きくなりそうな要素ですね。OpenAI以外の企業がばーっと勃興してくる可能性や、日本語特化型のLLMが誕生する可能性もあるわけですから。

功刀    そうなんですよね。ChatGPT特化でつくると、ChatGPTに依存した対話AIになってしまう。でもmiiboを1つ挟むことによって、miiboがラッパー(ワンクッション置いてあげる存在)となることができます。それは今後、強みになると思っています。

神山    これは差別化要因になりそうですね。

功刀    miiboは、ChatGPT系のシリーズが上がっても、ぜんぶ1週間以内に対応できてますからね。

神山    確かに、GPT-4への対応がとても早かったですもんね。

功刀    そうなんですよ。できたあとは、「早く審査通れ!」って思っていました。

神山    そうですね。それは大きいですよね。今GPT-4に対応したチャットAPIをゴリゴリがんばってつくっている人だって、明日GPT-5が出たら今度はそれに対応するためにがんばらないといけないわけですもんね。

功刀    そうなんですよ。

神山    そう考えると怖いな(笑)

功刀    GPT-3.5とGPT-4はそこまでインターフェースは変わってなかったんですけど、GPT-3とGPT-3.5は、APIのコードも変わっていたので、大変な人は大変だったと思います。まぁ当時はGPTを使ったサービスを作っている人があまりいなかったから、そこまで問題になってなかったですけどね。今のようにこれだけGPTに依存したサービスが増えていると、今後問題になってくるんじゃないかなとは思いますね。

神山    そうですね。この視点は大事だと思っています。

功刀    ああ、言っておいてよかったです(笑)

神山    あはは。

功刀    あともう1つは、複数プラットフォームに対応しているということですね。

神山    はい。

功刀    miiboは、LINEにもSlackにも対応しています。やっぱり対話は、いろんなところで起きていることじゃないですか。それらをAIという1つの脳みそに繋げてこそ、対話AIというのは成り立つと思うんです。

神山    そうですね。

功刀    遊園地ではデジタルヒューマン(人間の姿をしたAIキャラクター)が対応して、遊園地から帰ったあとのカスタマーサービスはLINEチャットボットが対応する。そういうことが必要だと思います。miiboであれば、そんなプラットフォームを横断して、API経由で会話できますから、そこを売りにしていきたいですね。

神山    確かにそこは、miiboならではの特徴ですね。

 

「miibo」と「こころみ」が協力するとどんなことができるのか!?
……つづく

>>第3回「会話型AI構築プラットフォーム『miibo』と『こころみ』の相乗効果」は6月20日(火)配信予定です。

プロフィール

■功刀 雅士●くぬぎ まさし
株式会社miibo代表取締役社長 
会話型AI領域の開発に10年以上に渡って取り組む。ヤフー株式会社でソフトウェアエンジニアのキャリアをスタートし、その後様々な企業でソフトウェア開発に従事。サラリーマンエンジニアをする傍ら、個人で2020年にmiiboをローンチし、2023年に法人化。

■神山 晃男●かみやま あきお
株式会社こころみ代表取締役社長
1978年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、コンサルティング会社勤務を経て、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズに10年間勤務。コメダ珈琲店、ウイングアーク1st等を担当。2013年「すべての孤独と孤立なくす」ことを目的に株式会社こころみを設立。一人暮らし高齢者向け会話サービス「つながりプラス」、親のための自分史作成サービス「親の雑誌」やインタビュー社史作成サービス「創業の雑誌」を提供する。2017年より、高齢者会話メソッドによるロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発サービスの提供を開始。株式会社NTTドコモが提供するクマ型ロボット「ここくま」の開発支援や、モバイル型コミュニケーションロボット「ロボホン」を活用した自分史作成のサービスの企画を担当。
■森山 裕之●もりやま ひろゆき
株式会社こころみ取締役COO
京都大学大学院情報学研究科修了。
P&G にてITプロジェクトリーダーを経て、ライフネット生命に参画。B2Cのコンタクトセンターの立上げ・運用をリード。お金のデザイン社にて、資産運用サービスTHEOの立ち上げとカスタマーエクスペリエンスの責任者として顧客接点の設計、運用を統括。Marketo社では、B2Bマーケティング全般とユーザーコミュニティ立ち上げ・運用、カスタマーマーケティングをリード。WalkMeの日本法人立ち上げでは、B2Bマーケティングの立上げ、運用をリード。2021年こころみに参画。[IT+DX] × [人・組織] × [カスタマーエクスペリエンス] × [デジタルマーケティング]の領域での事業・サービスの構築が得意領域。