心が読める人と聞き上手

2022.08.21

心が読める人、人の気持ちが魔法のようによくわかる人って、いますよね。「いまこういう風に考えているんでしょう」とか、「あなたのそれは、嫉妬よ」とかずばりと言い当てて、言われた方もああ、そういうこと!と思えるような人。人の気持ちを決めつけたりステレオタイプに処理しているのではなく、その人をしっかり見て、気持ちまで理解をしてくれる。素晴らしいことだし、そういう人に話を聞いてほしいと思うことってありますよね。
 
ただ、私たちが求める「聞き上手」は、そういった心が読めると言われるような技術とは、近いところにありつつ、ちょっと違う場所だと思っています。では何が似ていて、何が違うのか。なぜ私たちは聞き上手を目指していて、心を読むことを目指してはいないのか。考えてみたいと思います。
 

こころが読める人とは

心が読める人とは、何がどうすごいのか、考えてみました。人が人に話をしていて、自分の気持ちを正直に伝える。伝えられたことを理解して、それをそのまま言われても、心を読まれたとは思いません。当たり前だと思うだけではないでしょうか(実は当たり前ではなく、これ自体がものすごく難しいのですが・・・)。
 
言っていない気持ちまで理解してくれるのが、心が読めるという状況ではないか。さらにそれには2つの種類があると思います。一つは話し手が内心そう思っているけど、表現していないことを言い当てられること。もう一つは話し手すらそう思っていなかった、あるいは自覚していなかった気持ちを言い当て、言われた後にああそうだ、と話し手が気づくこと。そう考えると、人が心を理解するのには、3段階あるように思います。
 
<話し手から見た理解の3段階>
1.話し手が認識しており、伝えたことを理解できる段階
2.話し手は認識しているが、伝えていないか嘘を伝えたにもかかわらず話し手が認識する通りに理解できる段階
3.話し手すら認識していない気持ちを、理解できる段階
 
いくつか事例を見ましょう。最初の文章が話し手のセリフ、()の中が話し手の気持ち、→で聞き手からのコメントを表現します。
第一段階の例から見ていきましょう。
 
・昨日辛いことがあったのよ。
(つらいことがあった)
→昨日辛いことがあったんだね。
 
当たり前ですね。先ほども言いましたが、実はこれすら、人はするのが難しい。ふーん、で済ませてしまい自分の話をしたり、あるいはすぐに励ましてしまったり。だからこそ、第一段階をしっかり行えるだけでも、コミュニケーションは格段にうまくいきます。
 
第二段階は例えばこんなイメージです。
・あいつのこと、もう本当に大嫌い。
(本当は好き)
→ そんなこと言って、ずっと気になってるんだね。
 
・新人のうちに苦労するとあとで一気に成長するんだよね
(この仕事はお前がやれよ)
→ この仕事俺がやった方がいいすか。
 
・明日の映画、本当に楽しみ。
(うちの両親に結婚を反対されてること、なんて伝えよう・・)
→ なにか悩みある?楽しくなさそうだよ。
 
いかがでしょうか。かなり気が利く人ですし、気持ちの察しがいいタイプですね。ただ、常にこのようにコミュニケーションをとっていると、結構嫌われてしまうような気もします。直接的すぎて逆に話しにくくなってしまいますよね。日常的には、おそらくこんな言い方になるでしょうか。
 
・あいつのこと、もう本当に大嫌い。
(本当は好き)
→ ふーん。そうなんだ。(ほほえみ)
 
・新人のうちに苦労するとあとで一気に成長するんだよね
(この仕事はお前がやれよ)
→ なるほど。。。(後日)あの、この仕事俺にやらせてもらえませんか。
 
・明日の映画、本当に楽しみ。
(うちの両親に結婚を反対されてること、なんて伝えよう・・)
→ ねえ、思ったんだけど、最近仕事が忙しそうだから明日はのんびり過ごさない?
 
とはいえ、重要なところでこういったズバリ言い当てることをすると、「心が読める」「気持ちが分かる」という印象は強くなると思います。
第三段階はさらにこういうイメージです。
 
・あいつのこと、もう本当に大嫌い。
(なんでこんなに突っかかってくるんだろう。おせっかいばっかり妬いてきて迷惑)
→ そんなこと言って、ずっと気になってるんだね。
 
・大学進学しようか、音楽の道に進もうか、全然決められなくて。
(どうしたらいいんだろう。本当に分からない)
→ 君が音楽をあきらめることはできないよ。
 
・B君は本当に優秀で、安心して任せられる部下です。
(このチームの中で一番仕事をふれる奴だ)
→ 本当はB君でも足りなくて、もっと別の方に来てほしいと思ってるんですね。
 
などなど。本人も思っていないので、言われた瞬間はドキッとします。言われた瞬間にああそうだ、と思うこともあるでしょうし、その瞬間はそんなことはないと思いつつ、改めて考えてみたら確かにそうだ、となることも多いでしょう。
 

心を読む人は何をしているのか?

第2段階、第3段階に進むためには何が必要なのでしょうか?共通することがいくつかありますが、まずは相手の発した言葉以外から情報を集めていることがあげられます。例えば話す調子。イントネーションや言い方、音声だけでなく目線や態度、姿勢なども入るでしょうし、顔色もそうです。それから、その会話以外の情報も入ります。事前に第三者から聞いていること。それまでの話し手の行動。先ほどは話し手側の気持ちから見ましたが、情報の収集からも3段階あると言えます。
 
<聞き手から見た理解の仕方の3段階>
1.話し手が喋る内容をそのまま理解する
2.話し手が喋る内容以外の状況(調子、外見、動作)を加味して理解する
3.会話以外のそれまでの過去の事実や発言、状況を加味して理解する
 
第二段階に関していえば、「メラビアンの法則」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。メラビアンの法則とは、「情報が相手に与える影響は、言語:7% 聴覚:38% 視覚:55% である」というものです。
これが何%なのか、というのは実験のやり方やテーマによって大きく左右されると思いますので(実際の実験は顔写真に対して試験者が好意をもっているかどうかを伝えるものだったので、視覚的表現などをどの程度行ったかで大きく結果は左右されたことと思います)、あまり意味は持ちませんが、いずれにしても話し手が意図せず多くの情報を言語以外の聴覚・視覚情報として提供していることは間違いありません。相手の話を聞きながらそうした情報を取り込み、矛盾のない心理状況を推察する能力が高い、と言えるのではないでしょうか。
 
第三段階は、さらにそれに加えて過去の会話の内容や話し手の行動などを踏まえて推察を加えます。より複雑になっているとも言えます。さらに、第三段階については、必ずしも話し手の過去が必要なわけでもありません。まったく関係のない過去の経験が生きることも多くあります。類型的なケース事例から同様の事例を導き、「この興奮状態は、いわゆる恋だな」「こんなに怒っているのは、このリーダーはAさんに対して何か誤解をしているに違いない」「これは3日放っておけば収まる」といったことを自己の推察に加えるのです。人気の占い師の方などは、おそらくこの能力が高く、過去見てきた方々のデータベースが脳内に蓄積されており、目の前にいる話し手に近しい心理状態を再構築することができるのだと思われます。
 

心が読める人に話を聞いてほしいのか?

こうした能力が素晴らしいことは間違いありません。当然のことながら高い能力が求められますし、その習得には経験と努力が必要でしょう。同時に話を聞く際にも集中力が求められます。心を読むことを外すと大きな失望を与えるため、リスクの大きいコミュニケーション手法でもあり、毎回高い緊張が強いられます。
 
さて、ではこうした人に話を聞いてほしいのか、です。もちろんそういう場合は世の中に数多くあります。実際に世の中で占いがこれだけ流行っている(流行っているという言い方はむしろ正しくなく、定番の価値創造として社会に浸透していると言った方がよいでしょう)のには、自分の気持ちをズバリ言ってほしいという要望が世の中に多くあるからだと言えるでしょう。
 
一方で、あまりに鋭く正しく自分の気持ちを言い当てられてしまうことに、恐怖や嫌悪感を覚えてしまうこともないでしょうか。こころを見透かされるような感覚は、決して快いものではありません。人は自分の気持ちを他人に分かってほしいと思うと同時に、自分の気持ちは簡単に他人に分かるような単純でありきたりなものではないと思っています。分かってほしいと同時に、分からないでほしいとも思っている。それが人が持つ、自分の気持ちに対する他人への期待であるともいえるでしょう。もちろんそうでない状況や時期は多々あり、分かってほしい気持ちの方がはるかに大きくなったときに、人は占いをするのではないでしょうか。
 
以前、「お釈迦様は聞き上手なのか?」というテーマで文章を書きました。お釈迦さまは人の気持ちを理解しきってしまうため、聞き上手にはなれないと考えます。「心が読める人」は、その意味でお釈迦様と同じように、気持ちを理解した位置に到達してしまうのではないか。話し手からすると、それだけじゃない、もっと聞いてくれ、となってしまうのではないかと思えますし、そうした関係性をとられることに拒絶感を覚えることもあるでしょう。
 

聞き上手が目指すもの

私たちが目指す聞き上手は、その意味で「心が読める人」のコミュニケーションとは大きく異なります。聞き手は話し手の気持ちを理解したと認識しないので、ずっと聞き続けます。
 
<話し手から見た理解の3段階>に即していえば、第一段階は本人の認識そのままなのでこちらもそのまま受け止め、伝えますが、第二段階、第三段階についてこちらから所見を開示することはありません。あるとすると、「今までの話を聞いていて、むしろあなたは○○と思っているような印象を受けたのだが、それについてどう思うか?」などの聞き方はあり得るかもしれませんが、少なくとも「あなたの今の気持ちは○○ですね」ということはあり得ません。
 
<聞き手から見た理解の仕方の3段階>についていえば、話を聞く際には2段階目までフル活用して話を聞きます。3段階目については、話し手について参照することはあっても、一般的な経験や聞き手が持つ知識はなるべく使いません。個別の話を一般化して問題を形式的に落とし込むことは極力避けます。それはステレオタイプ化、すなわち相手を唯一無二の存在ではないと評価することにつながってしまうからです。
 
そのうえで、話し手の気持ちを理解しきるためにはまだ足りない部分があると思い続け、理解しようとし続ける。それが私たちの理想とする聞き上手です。
ですから、私たちの聞き上手は、一見して地味です。一言で話し手の気持ちを表現することを言い切ることもしませんし、話していないのに魔法のように気持ちを代弁したりもしません。ただただ愚直に、話し手の話す言葉と話し方に注意をし、それに対して想像力を広げ共感するのです。
 
そうした聞き手、つまりどこかのタイミングで「あなたの気持ちは理解した」というのではなく、どこまでも理解しようとしてくれる聞き手を求める方は、実は今世間に認識されているよりも、ずっとずっと多いのではないかと考えています。そしてそうしたコミュニケーションが広がることが、世界を今までよりも少しだけ幸せにするのではないか。そんな風に考えています。
 
 
株式会社こころみ 代表取締役 神山晃男