暗黙知とAI活用

2023.04.28

こんにちは!今回は、最近話題のAI(人工知能)と、暗黙知との関連について考えてみたいと思います。AIと暗黙知と聞くとちょっと難しそうですが、これからの働き方に大きく関わってくるものなので、一緒に考えてみたいと思います。

AIを活用した働き方への対応の必要性

これから働き続ける人全員にとって、AIとどう向き合い、どのように活用していくかは逃れられない重要なポイントになります。AIがどんどん業務効率化を進めていく中で、自分自身のスキルを磨いていくことが求められます。

 

SECIモデルの概要紹介、暗黙知と形式知

 

AIと働く人の関係、特に暗黙知との関係を理解するために、SECIモデルという考え方を紹介します。SECIモデルは、知識創造のプロセスを表すもので、4つのステップ(共同化、表出化、連結化、内面化)から成り立っています。

このモデルでは、知識は暗黙知と形式知の二つに分けられます。暗黙知とは、自分の経験や感覚からくる知識で、言葉で説明しづらいものです。一方、形式知とは、言葉や数字で表現できる明確な知識です。

詳しくはこちらをご覧ください。

SECIモデルは、日本の経営学者である野中郁次郎(Ikujiro Nonaka)氏と、同じく経営学者である竹内弘高(Hirotaka Takeuchi)氏によって考案されました。彼らは1995年に発表した論文「The Knowledge-Creating Company: How Japanese Companies Create the Dynamics of Innovation」において、SECIモデルを紹介しました。

野中郁次郎氏は、経営学の分野で「知識創造」や「知識マネジメント」の概念を開拓し、知識経営の第一人者とされています。また、彼は日本の経営手法や組織文化を研究し、日本企業の知識創造プロセスが持つ特徴を明らかにしました。

竹内弘高氏は、経営学とマーケティングの分野での研究を行い、イノベーションや組織戦略の専門家として知られています。彼は、企業が持続的にイノベーションを起こすためには、知識創造プロセスを理解し、組織文化やマネジメント手法を整えることが重要であると主張しています。

野中郁次郎氏と竹内弘氏は共同で、SECIモデルを通じて知識創造プロセスを体系化し、組織や個人が持続的なイノベーションを生み出す方法を提案しています。その理論は、経営学や組織学の分野で広く受け入れられ、多くの企業や研究者に影響を与えています。

SECIモデルとAI活用の関連性

それでは、SECIモデルがどのようにAI活用と関連しているか見ていきましょう。

①共同化(暗黙知から暗黙知への変換):
このステップでは、個々人の持つ暗黙知が他者とのコミュニケーションや共同作業を通じて共有され、新たな暗黙知が生まれます。例えば、ある職人が独自の技術を直接見習いに教えることで、その知識が共有されることになります。

使用例:AIがこのステップをサポートする方法として、チャットボットやコラボレーションツールを提供することでコミュニケーションを円滑化し、暗黙知の共有を促進するツールが考えられます。

②表出化(暗黙知から形式知への変換):
表出化では、暗黙知が言葉や図表などの形で表現され、形式知に変換されます。このプロセスを通じて、個々人の持つ知識が他者に伝えやすくなります。例えば、マーケティングチームが消費者の購買傾向や意見についての暗黙知を、報告書やプレゼンテーション資料にまとめることで形式知に変換します。

使用例:AIは、テキスト解析や要約生成などの機能を使って、暗黙知を形式知に変換する過程を効率化します。場合によってはチャットボットを活用したインタビューや図式化の支援などでも支援可能です。

③連結化(形式知から形式知への変換):
連結化では、既存の形式知を組み合わせて新しい形式知が創り出されます。データ分析や機械学習を用いて、膨大な量の情報から新たな知見を引き出すことが可能です。例えば、企業が競合他社の業績データや市場調査結果を蓄積・分析し、新たな市場戦略を策定します。

使用例:AIは、データ収集・分析ツールを提供し、異なる情報源からのインサイトを統合することができます。

④内面化(形式知から暗黙知への変換):
内面化では、形式知が個々人の経験や練習を通じて暗黙知に変換されます。このプロセスによって、学んだ知識が実践に活かされるようになります。例えば、技術者が新しいプログラミング言語の文法や概念を学び、実際の開発作業に取り入れることで、形式知が暗黙知に変換されます。

使用例:AIは、オンライン学習プラットフォームや個別指導アシスタントを使って、この内部化プロセスを助けます。

これらのステップを通じて、暗黙知と形式知が相互に変換され、知識創造と共有が行われます。AIの活用によって、このプロセスが効率化され、より柔軟で効果的な知識創造が促進されます。AIは暗黙知と形式知の双方をサポートし、従来の手法に比べて迅速かつ正確な情報収集やアイデアの創出を可能にします。

また、AIが知識創造プロセスを助けることで、働く人々の協力やコミュニケーションが向上し、組織全体のパフォーマンスが高まることが期待されます。このように、SECIモデルを理解し、AIの活用方法を考慮することは、働くすべての人にとって大変重要です。

最後に、AI技術が急速に発展する中で、その活用法や影響について常に学び続ける姿勢が求められます。自分の専門分野だけでなく、幅広い知識を身につけることで、AIと協働して働く未来に対応できる心構えが求められていると言えるでしょう。

AI活用にあたって働く人が気を付けるべきこと

AIを活用するにあたって、働く人が気を付けるべきポイントは以下の通りです。結局のところ、AIを活用できる世の中になって、人は楽になるかというとむしろ逆で、AIを使いこなし続けるために、今までよりもずっと高い能力を求められ、学習を続ける必要があると言えるでしょう。

スキルアップ: AIと共に働くためには、データ解析やプログラミングなどの技術的スキルだけでなく、コミュニケーション能力やクリティカルシンキングといったソフトスキルも重要です。

柔軟性: 新しい技術や業務に対応するために、自分自身をアップデートし続ける柔軟な姿勢が大切です。

クリティカルシンキング: AI技術の導入によっても、重要な判断を下す際には人間のクリティカルシンキングが必要です。複雑な問題や倫理的な判断を行う能力を磨くことが大切です。

倫理的配慮: AI技術の導入に伴い、プライバシーや情報セキュリティ、バイアスなどの倫理的な問題が浮上しています。これらの問題に対する理解と適切な対応が重要です。

 

教育・学習の観点から見たSECIモデル


SECIモデルはもともと組織開発のモデルなので、教育や学習の観点を最初から内包しています。改めて見てみると、以下のように教育や研修・学習に落とし込むことが可能であることが分かると思います。

そうすると、それぞれの分野のおける教育・学習領域でのAI活用の可能性が大きいことにも気づかされます。

① OJT領域におけるコミュニケーションツールの提供
② 学習の振り返りや業務の理解度確認・復習などを個別指導
③ 社内DBの整備や体系化のサポート
④ 学習教材やeLerarningの整備と個別指導の実施

今後は組織における教育や学習においても、AI導入の巧拙によって大きな差が出てくるのではないでしょうか。効率的に学び続ける組織でいられるか否かが非常に重要になると思われます。

まとめ

AI技術の発展とともに、働く人たちがどのように対応し、AIを活用して働き方を変革していくかが重要となっています。SECIモデルを参考にしながら、AIとの協働を円滑に進め、自分自身のスキルや価値観を磨いていくことが求められます。社会人すべてが、AIを活用しながら持続可能で永続的に成長する働き方を目指していくことが必須になると考えられます。しかしそれを苦痛に思うのではなく、むしろ喜びとしてとらえられればと考えています。

 

株式会社こころみ 代表取締役 神山 晃男