聞き上手は400メートル走
2022.03.06
おかげさまで私たちの考える聞き上手、ディープリスニングに関する研修をさせていただく機会が増えてきました。人の話を正しく聞くことの大切さが徐々に広がっているのではないかと感じています。
研修自体はおかげさまで非常に好評なのですが、少し気負わせすぎてしまうかな?と思うこともあります。つまり、聞き上手というものを、常に行わなければならないと捉えられてしまうことがある。
聞き上手とは、その人の性質や状態というよりは、使いたいときに使うテクニックであると私たちは考えます。逆にずっと聞き上手でいることは難しい。例えていうなら、400メートル走のようなものだと考えています。
ずっと聞き上手でいることは難しい
まず、ずっと聞き上手でいることは難しい。全神経を集中して相手方の話に集中します。話に集中するだけでなく、相手の表情、声の質や情感、身振りや手振りにも気を使います。聴くという字は耳と目と心がある、と言いますが、まさに全身全霊を傾けて聞くことが求められます。
そのうえで、正しく反応をすることが必要になります。姿勢から始まり、うなずき、相槌、共感の反応、それから質問。それらにずっと神経を払い続けないといけないので、大変に疲れます。最初は5分やるだけでもかなり疲れるものです。慣れたとしても、1時間、1時間半という時間でお話を聞くと、その日は1日ぐったりするほどです。
逆に言うと、それくらい神経を集中しなければ、人の話を本当に受け止めきって聞くことはできないということでもあります。
ずっと聞き上手でいる方がいいわけでもない
そして、もう一つは、ずっと聞き上手でいる方がいいわけでもないということです。聞き上手を実践するときにやるべきこととして、自分の意見を押し付けない、自分の話をしない、褒めない、励まさない、などがあります。
分かりやすい例でいえば、話し手が「私、京都が好きなんです」と行ったときに、「私も好きです」とは言わない。それはすでに私の話になっているから。聞き上手とは、あくまで相手の話に寄り添い、相手を主人公でいさせ続けるコミュニケーションなのです。
とはいえ、日常の会話の中で、自分も京都が好きなのにずっと言わないのは不自然でもあります。同様に意見を言わないことが望ましいわけでもないですし、褒めたり励ましたりした方がいい局面は大いにあります。ただ、これらを聞き上手に入れてしまうと、その会話の聞く純度は間違いなく落ちてしまいます。ですから、普通に会話をするときは、自由に自分の意見を言い、自分のことを話し、相手に対する自分の思いを素直に伝えることが必要となります。
使い分けが重要
要するに、使い分けが重要ということです。研修でよくお伝えするのは、一連のミーティングや会話の中でも、聞き上手とそうでない時間を切り分けることです。「今から聞き上手をしよう」と思って聞き上手をし、時間が来たらやめて自分の意見を言う時間にする。聞き上手は信頼関係を作り、相手の本音を引き出し、承認欲求を満たすことに適したコミュニケーション手段ですが、会話には常に目的があり、目的が常に聞き上手だけで達成されるわけではありません。相手を説得したり、自分が伝えたい情報があるときには、しかるべきタイミングでそれを実行する必要があります。
その際に聞き上手によって信頼関係ができていたり、相手の気持ちが落ち着いていると、目的を達成しやすくなる。あくまで聞き上手は、コミュニケーションにおける目的達成のためのツールの一つです。適したタイミングで適したツールを使うことが何より重要です。
いつでもスイッチが入るように
と言いながらも、一般的な人間関係や仕事・遊び・プライベートなコミュニケーションの中で、聞き上手を用いたアプローチが有用なのは間違いありません。使い慣れていることで、すぐに「聞き上手モード」に入り、相手を主役にしたコミュニケーションをとることができます。それは相手を喜ばせるだけでなく、二人の関係性を作り、自分にとって望ましい状況を作るうえで非常に有用ですし、他のいろいろな目的を達成するうえでもよい状況が作れます。
そんなわけで、いつも聞き上手でいるわけではないが、いつでも聞き上手になれる。そんな理想像をお持ちいただければと考えています。
株式会社こころみ代表 神山晃男