【書籍紹介】 LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる

2021.09.25

今日は書籍の紹介をさせてください。
 
 
 
★自分の視野を超えた知識が持て、一生の友人をつくり、
孤独ではなくなる、ただひとつの方法★
 
・つまらないギャグを言う人は、大抵人の話を聞いていない
・友情を深めるいちばんの方法は、「いつもの会話」
・みんな「自分には先入観がない」と思いがち
・つじつまが合わない会話をそのままにしておくとだまされる
・なぜあの人は「空気が読めない」のか
・「自分とは違う」グループに、人は「恐怖」を抱いている
・「アドバイス」をしだす人は、きちんと相手の話を聞いていない
・「だれかの悪いうわさ」を聞くと、自己肯定感があがる
・その人の話を聴くと苦しくなる人は有害な人
 
本当に優秀な人は聞く能力が異様に高い
「自分の話をしっかり聞いてもらえた」体験を思い出してみてください。それはいつでしたか? 聞いてくれた人は誰だったでしょうか? 意外に少ないのではないかと思います。
他人の話は、「面倒で退屈なもの」です。どうでもいい話をする人や、たくさんしゃべる人などいますよね。考えただけでも面倒です。その点、スマホで見られるSNSや情報は、どれだけ時間をかけるか自分で決められるし、面白くないものや嫌なものは、無視や削除ができます。しかし、それがどれほど大事でしょうか。
話を聞くということは、自分では考えつかない新しい知識を連れてきます。また、他人の考え方や見方を、丸ごと定着させもします。話をじっくり聞ける人間はもちろん信頼され、友情や愛情など、特別な関係を育みます。「自分の話をしっかり聞いてくれた」ら、自分の中でも思いもよらなかった考えが出てくるかもしれません。どんな会話も、我慢という技術は必要です。しかし、それを知っておくだけで、人生は驚くほど実り豊かになります。
 
聞くことにここまでストレートに迫っている本が日本で発売され、売れていて、そしてとても評判がよいことに感慨を覚えます。特にこの本がカウンセラーやコーチといった特定の職業の人向けではなく、あらゆる人にとって聞くことが価値のあることと訴えていることが、時代が変わってきている、聞くことの価値が見出されていることを示しているのではないでしょうか。
 
特に聞くことが持つ価値について、豊富な具体例とともに紹介されており、説得力があります。さらに具体的なよく聞くための方法も書かれており、こういう局面でこう使う、スキルアップのために知識を得る、という形で実用的に読むことも可能です。聞くことを事業として8年活動してきた我々としても、改めてやってきたことは間違っていないと背中を押してもらっているような気持になりました。
 

<聞くことの価値>

さて、本の内容から、ごく一部ではありますが、聞くことの価値を私なりに簡単にまとめて、ご紹介させていただきます。
 

① 聞くことが仕事や人生で役に立つ

この本が最も強く主張しているのはこの点です。世の中を見渡すと、上手に話す人がもてはやされ、自分の考えを表現することがその人の価値であるかのような錯覚を覚えます。ところがというべきか、だからこそというべきか、人の話をじっくり聞くことが世の中に足りていません。話したい人の方が多く、聞く人が少ないのです。だからこそ、じっくり話を聞く人は話し手から信頼関係を得られ、話し手の心情や状況を理解でき、価値を生み出せるのです。
 
これについては本当に深くそう思います。それも、カウンセリングを受けるような深刻や切実な状況の方だけでなく、ちょっとした日常のあれこれや自分の考えを人に聞いてほしい、という人が世の中にたくさんいて、でもその受け皿がない状態が長く続いています。コロナ禍によってその状況はよりわかりやすくなっていますが、それ以前からそんな傾向はありましたし、仮にコロナ禍が落ち着いても、そうした欲求は今後も大きくなっていくのだろうと感じています。
 
 

② 人の価値観を受け入れることで人生を豊かにする

 

この本が主張している聞くことの価値は、ただ役に立つ、得をするという話にとどまりません。序文で、監訳者の篠田真貴子さんは、こう書かれています。
 
「・・・能動的に相手に注意を向けて「LISTEN」する中にも、大きく異なるふたつの姿勢があると知るようになりました。それは、話し手の語る内容を、「私の考えと合っている・違う」などと自分の頭の中で判断しながら聞く姿勢と、聞き手がいったん自分の判断を留保して話し手の見ている景色を感じている感覚に意識を集中させる姿勢のふたつです。」
 
この、後者の聞き方を行うことで、話し手に満足してもらう効果があるだけではなく、話し手の世界を丸ごと受け止めることができるようになります。それは、新しい価値観であり、考え方を白紙の状態で学ぶことができるということです。自分の正しさとの比較をいったん棚に上げて、相手の世界を正として話を聞く。結果として今までの自分の価値観を揺さぶり、新しいものの見方や考え方を吸収することができる。人間の成長を支えてくれるのが、聞くことだ、というわけです。逆に言うと、きちんと聞かないときちんと学ぶことが難しいということでもあります。
 
この点は大賛成です。役に立つよりも強調したい。私たちは、「親の雑誌」というサービスで本当に多くの年配の方のお話を伺ってきました。虚心坦懐にお話を聞くことで、生き方のヒントになる貴重なお話をたくさんお聞きでき、自らのものにできた実感を持っています。もちろん今の価値観と照らして必ずしも全面的に賛成できるお話ばかりではありません。それでも、いったん受け止めてから、改めて自分の中で咀嚼することで、今の時代にも、どの時代にも通じる確かな生き方の核のようなものを、皆様がお持ちであることが理解できますし、お一人お一人にしか語れないものがあることを実感できるのです。
 
また、こうして聞く技能を身に着けることは、いろいろな世界を肯定的に受け入れること、そうした考えそのものを受け入れることにつながります。他人の話を聞くときだけでなく、読書をするときや、ニュースを見たときに考える際にも、少し思想の幅を広くしてくれる、そんな効果があると思います。
 

③ 周囲の人を幸せにし、自らも満たされる

そして、この本では実はあまり強調はされていませんが、ふんだんに載っているエピソードから感じられる点があります。それは、話し手を幸せにし、結果として自分の周りの環境が良くなり、自らも満たされるということです。話をじっくり聞いてもらえた人は、必ずと言っていいほど、気持ちが落ち着き、周りに対する配慮が生まれます。よく聞いてくれた人は、今度は自分の番という発想が生まれ、他の人の話を聞くことができるようにもなります。結果、聞く連鎖が生まれ、聞き手の属している環境そのものが良くなっていきます。よく聞くと、よく話せるようになるのです。
 
 

<もっと考えてみたいこと>

 
そのうえで、この本が「カレーというおいしい食べ物のおいしさと料理の仕方」を教えてくれている本だとすると、
私たちとしては、「こういうおいしさも伝えたい! !」や「こういう料理方法や食材も勧めたい!!」という気持ちが出てきます。
よい意味で黙っていられなくなってしまう、ということですね。そんなことも少しご紹介させていただきます。
この本を読んだ方が、こんな風に、自分なりの聞き上手について考えるきっかけになれば、これ以上のことはないのではと考える次第です。
 

①聞かなくてもいい、について

 

本書の17章は、「誰の話を「聴く」かは自分で決められる」とあり、必ずしもすべての話を聞く必要はないことが説明されています。
体力・精神ともに消耗するものであり、ずっと人の話を聞き続けられるものではないことや、人によっては誰かの話を聞くことがその人の精神に深刻な影響を与えてしまうケースがあることなども挙げられています。この点について、完全に同意です。
 
一方でそれ以外に、話し手としての価値が低い方の例などが挙げられており、そうした人の話を聞かないことが肯定的に取り上げられています。
最後にはそうした方についても、なぜ自分はそういう人の話を聞けないのか考えよう、と謳われてはいますが、そこには厳然と、価値のある話し手とそうでない話し手が存在し、
それを自分で選びましょう、というメッセージで終わっているように読めます。
 
これについては、そうした側面があることは理解しつつも、そうした姿勢で人の話を聞くことができるだろうか?という疑念が生まれます。
つまりどこかで話し手を値踏みしながら(この人は話すのが下手だ、考えが偏っている、、、)よい聞くができるとは思えないということです。
 
また、聞くことそのものに価値があるのであれば(ある)、話し手の話し方や話す内容に価値があるかないかは、2次的な価値に過ぎないはずです。
この章での語り口は、そうした前提を超えて、話を聞かなくてもよい人や話があるような見え方になっていることに気を付ける必要があるのではないか、と感じました。
おそらく筆者はそう主張したいわけではないはずですが。
 
 

②話すことの価値について

 

全体を通して、聞くことがいかに素晴らしいかが語られているわけですし、それが目的の本であるから当然ではあるのですが、反対側から見た話すことの価値から語られることが少ないように思います。
本来的には人に聞いてもらうことに価値があるがゆえに、聞くことに価値が出るわけで、その点についてももっと深堀をすべきではないか、と感じました。
話すことで人の情緒がどう安定するのか、話す機会がない人とある人の違いなどはもっと追及されるべきと思いますし、
聞くことを目指すあまり「話さない人」や、話すことが良くないことと思うような人になってしまう危険すらあります。
 
もっとも、これは少々欲張りなのかもしれません。次巻の「TALK 」に期待をしましょう。
 

③聞く人が輝いてしまう

聞くことの価値が語られ、それぞれのエピソードがあまりにも魅力的なため、聞くことが素晴らしいことと感じられます。
その点についてまったく異論はないのですが、一方で聞く行為をする人そのものが、聞く行為によって輝いてしまうことに懸念を覚えています。
聞くことによって、話し手を満足させる手ごたえは確かに感じられますが、そのことによる自己有用感には危険があります。
つまり他人の心をコントロールできるような、世界に対する傲慢さを持つ恐れがある。それほどに聞く行為の効果があることの裏返しでもありますが、
ここまで魅力を語るのであれば、その危険についてはぜひ言及していただきたいと思いました。
 
私たちは自分史サービスで多くの方のお話を聞き、多く感謝を受ける中で、思い上がらないように内部で戒めることを常に心がけています。
価値があるのは語り手の人生であって、聞き手の能力ではないのだ、と。
 
 

<最後に>

 
繰り返しになりますが、最後にいくつか論点を上げていますが、そうしたことはすべて前提として、「聞くこと」が素晴らしい力と価値を持っていることを前提とするものです。まだまだ日本では、そのことが知られているとは思えません。そうした意味で、このような本が世の中に広がり、聞くことが素晴らしいことが当然のようになる世の中になることを願っています。
 
この本を読んで使える部分がない人はこの世にいないのではないかと思います。ぜひご一読をお勧めします。
 
 
 
 
株式会社こころみ 代表取締役社長 神山晃男