英国での慢性的孤独

2013.10.23

今日はBBCのニュースについてです。

Jeremy Hunt highlights plight of ‘chronically lonely

厚生大臣( Secretary of State for Health)であるジェレミー・ハント氏のスピーチ内容とそれに対する労働党の反論が掲載されていますが、それ以外の事実の紹介も興味深いです。

ハント大臣のスピーチからピックアップします。

- 英国人の80万人が、慢性的な孤独に陥っている
ー 500万人が、テレビが主要なコミュニケーションの相手だと答えている
ー 80歳以上の46%が、「自分はときどき、あるいはいつも孤独だ」と答えている
- これら忘れられた、孤独な人たちは「国の恥」だ
ー 保守党はこうしたことに対してケアホーム等に対する手当を進めている
ー しかしながら、「高齢者に対する畏敬の念と尊厳」、「今住んでいるところでのケア」という考え方を、アジアから学ぶべき
ー アジアでは年寄りが敬われ、大事に扱われている。それを見ているので、自分たちもそうされることを受け入れられるし、今、親の世話をすることができる。
ー 英国も高齢社会に向けて、こうした考え方に転換していかなくてはならない

 
これに対して、労働党からは反論として、
ー 保守党は国家の役割を個人に押し付けようとしている
ー 600万人の無給生活者のうち、1/5は家族の介護に50時間以上使っているのを知らないのか?
ー 家族や友人の世話をするためには、努力をバックアップするための公的なケアシステムが必要なのに、現実はそれすらまだ足りていない状況なのだ

また、ロンドン・キングズ・カレッジのAnthea Tinker教授のコメントとして、
ー アジアで高齢者の世話が家族によってなされているというのは神話だ。
ー 中国では一人っ子政策によって、親との別居が増えている。中国では5,000人収容の老人ホームが作られている。
ー 現実にはないものを理想にしても意味がない。現実を見て対応策を建てなければならない

と切り捨てるコメントをしています。

英国における高齢者ケアの充実度や政策の是非は分かりませんが、この現実と現状認識は面白いなと感じました。
高齢者の孤独は、英国がそうであるように、現在世界的に本格的に起こっている問題なのでしょう。

孤独の前に高齢者ケアについてですが、中国の事例のみならず日本でも同様に、介護制度により子供が親の面倒をみなくてよい仕組みを国家が作っています。

私は、その理由は世界における都市化の結果と高齢化のトレンドが加わって、
高齢者の世話を家族が見るというモデルが破綻したから、と考えています。

つまり、従来は生まれる場所と死ぬ場所が同一だったわけですが、それが都市化により崩れました。
都市化の過程で子供は親を離れ、そのまま離れた場所で仕事を見つけ生活基板を作ります。
そうすると、いざ親が年をとった時に、面倒を見ることは物理的に不可能となります。
旧来、子供が親の面倒を見れていた前提には、同じ家に住んでいたからなのですが、その前提が崩れてしまいました。
更に高齢化とは子供の数が減っていることにほかならないわけですから、面倒を見れる子供が減っていることが、その問題をより大きくしているわけです。

中国で5,000人規模の老人ホームができているというのは、要するに田舎にそれだけ多くの高齢者をおいて都会に出た若者たちがいるということです。

日本は世界に先んじて介護制度を非常にうまく構築したと評価してよいのではないかと思います。
(現在面している財政的な危機は別として)

 
一方で、対応が間に合っているのは物理的な支援までであり、孤独の問題については世界でどこも対応に至っていない。このニュースが示しているのはそうした事実ではないでしょうか。
しかし実は、孤独そのものが健康や生活に重大な影響を及ぼしており、結果として高齢者ケアの負担増につながっている。

日本も例外ではありません。むしろ孤独先進国だと思います。だからこそその先進性を活かして解決策を世界に提示できるチャンスがあるのではないか。
そう考えています。

 

 

 

おまけ

記事の中でサブトピックとして、【一人暮らしの健康への影響】がコンパクトに纏められていましたのでご紹介します。

ー 一人暮らしは健康に悪影響を及ぼす習慣に結びつきやすい

ー 物理的に隔離される結果、食生活が偏り、身体を積極的に動かすモチベーションが減少する

ー 一人暮らしは、精神衛生にも影響を与え、落ち込みや意気消沈する原因になる

ー さらに孤独であること自体が自分のこころにとっての苦痛

ー 人が社会的に隔離されることが、慢性炎症と呼ばれる免疫システムの破壊を起こすことを示す研究成果もある

ー 他の研究では、家族や友人の少ない女性ほど乳がんによる死亡率が高いという報告もされている