年金は問題ではない
2013.11.29
今回は日本における社会保障費の増大について、前々回のように全体像を把握したいと思います。
社会保障費の増大と言う場合、年金制度の維持がよく話題になりますが、実は年金制度よりも大きな問題が控えています。
まずはグラフを見てみましょう。1970年からの日本の社会保障費の推移と、日本のGDPの推移のグラフを作ってみました。
社会保障給付費の実績と将来予測については厚生労働省のデータを、名目GDPは総務省のデータを用いています。単位は兆円です。社会保障費は左目盛、GDPは右目盛ですので社会保障費がGDPを超えてしまっているわけではありません。
まず名目GDPと社会保障費全体の比較で見てみましょう。
改めて日本の名目GDPが1990年でピタリと頭打ちになっていることが分かりますが、社会保障費は膨らみ続けています。
「失われた20年」という言い方をしますが、ただ停滞していただけではなくて、社会給付は増え続けていたのですね。
ただし、単にこれを悪いことと考えるのではなく、その分安心して医者に行ける機会が増え、安心して年をとることができる社会が実現された証と見るべきではありましょう。
今後について目を向けてみましょう。今回は2025年までと比較的近い未来までしかありませんが、傾向は明らかです。GDPが果たしてこのように再成長に入るか、という議論もありますが、
いずれにせよGDPの成長を遥かに超えるスピードで社会保障費が増えるのは間違いないです。
これを、「世の中が貧しくなる」と評価することは正しいでしょう。その分他に使えるお金がなくなることは事実です。
その中で、内訳を見てみましょう。最大は年金ですね。10年で52兆円だったものが62兆円に。ものすごい規模ですが、一方で伸び率で言うと、15年間で20%くらいの伸びです。
次は医療。32兆円が53兆円。金額は年金より少ないのですが、年をとると飛躍的に医療費がかかりますので、伸び率が凄いことになっています。倍増近いです。
福祉その他には介護保険も入っています。こちらも倍増で、19兆円が36兆円。子育て支援などはほとんど伸びないことを考えると、実質倍増以上ですね。
伸びで捉え直すと、あえて断定的に書けば、
2010年から2025年までの15年間で年金支出が10兆円増える間に医療費・介護で40兆円の政府支出が新たに発生する
という事になります。
社会保障の話をすると「これからの世代は払った年金がもらえなくなる」ことに話が行きがちです。それも事実ではあるのですが、年金という仕組みはそれ自体でいちおう完結していることもあり、その不公平感を除けばシステム上維持可能な見通しがたっているといえるでしょう。
(ちなみに、若い方でも払った以上の年金を受け取る方法があります。それは、「長生きする」ことです!平均の倍受け取り期間があれば受け取り総額は倍になります)
問題は医療・介護です。この伸びは率直にいって、維持可能なものとは言えないのではないかと私は思います。
2025年まではこう伸ばしても、その後は相当絞っていくことになるでしょう。
少なくとも仕組みを変えて支出を抑える仕掛けは、今以上に必要ですし、実施されることになると思います。
医療に関して言えば終末医療の見直しによる延命的措置や積極治療の制限と入院の削減。
介護に関して言えば事前予防の徹底や、現状サービスの民間・ボランティアへの移管。
言葉にするとそうですが、これは単純に長生きしたくでも治療が受けられないことや、今まで国のお金で出来たことを自分で払ってしなければならないことを意味します。
これは悲しいことではありますが事実です。
今よりも後の時代に老後を迎えるものは、医療・介護において今よりも薄いサービスを国から受けることになる
この事実については、早めに覚悟を決めて準備を進めるしかなさそうです。