高齢者の交通事故に関する雑感
2019.06.10
シニアの交通事故は増えているのか
最近、シニアが原因の交通事故の報道を特に目にするようになりました。 断片的な情報を見る限りにおいて非常に痛ましい事故が多く、またブレーキ跡がないなどという報道を見るにつけ、 シニアが運転をすることに対する恐ろしさというイメージがストレートに浮かんできます。
私たちが普段企業活動をさせていただいている中でも、お客様から自分の親の免許返上を促したいがどうすればいいか、といったご質問やご相談をいただくこともあります。
今日の日経新聞の一面トップで報じられるなど、高齢者専用の免許証を交付するという報道もされています。
75歳以上の高齢ドライバー向けに新運転免許創設へ
それでは、実際に高齢者の運転がどれほど危険なのか、と思っていたところ、2年前に書かれたこんなブログがありました。
高齢ドライバーの事故は20代より少ない 意外と知らないデータの真実
改めて、平成29年の警察庁のデータを調べてみましたが、全体的な傾向は変わっていません。
高齢者が事故を起こす確率は、ほかの世代に比べて高いわけではない
かなり驚いたのですが、まず第一には、 「高齢者が事故を起こす割合が高いわけではない」と言う事です。 下記は、年齢層別の免許保有者あたりの事故件数です。
(事故を起こした件数です)
まずグラフ全体は右肩下がりに、つまり事故件数は10年間で下がっていることが分かります。そのうえで個別に見ていくと、1番赤い真ん中にあるのが80歳以上。その上に20-29歳と、16-19歳のグラフがあります。つまり、簡単に言うと、「免許を持っている人の中では高齢者よりも、若い方が圧倒的に事故を起こしやすい」と言う事です。
棒グラフの比較もありましたので見てみます。
おおむね、30代から75歳くらいまでは横ばいで、事故率が上がるのは75歳になってから。それでも、85歳以上と比較して20-24歳の方が事故件数は多い。16-19歳と85歳以上の比較でも2倍以上の差がついています。
端的にいって、事故を減らすのであれば10代のうちは免許を交付しなければよいのではないか、ということになります。
死亡事故に占める高齢者の割合
単純な事故件数でみてみます。
死亡事故に関しては、平成29年から警察庁の方で別の報告書を作成していました。
警察庁では高齢者の死亡事故を大きな問題としてとらえているようで、かなり分かりやすい資料が作られています。
(しかしながら、このリンク探すの結構手間取りました・・・せっかくいい資料作ってるのにもったいない。)
最初にこのグラフがでてきて、「死亡事故の半分以上が65歳以上!」となるのですが、実はこれ、被害者も含まれています。というよりも、65歳以上は被害者であることが多い。歩行者として事故に合う確率が圧倒的に高いという事です。信号無視してはねられる、などは本当に気をつけていただきたいし、むしろ気を付けるべきはそちらではないかという気もします。
運転者として死亡事故を起こす、免許保有者に占める割合が以下になります。
確かに高齢者になると死亡事故を起こす確率が高くなっていますが、それでも16-19歳は80代前半よりも死亡事故を起こしやすく、20-24歳は70代前半よりも事故を起こしやすい。
現在のメディアの論調や、私たちが「シニアの交通事故」と聞いた時に抱く印象と、この数字とでイメージが一致しているでしょうか?
高齢者に限らず事故を起こすリスクはある
私は、これをもって「だから高齢者はこれからも自信をもって運転すべきだ」、あるいは「高齢者の運転は安全だ」といいたいわけではありません。実際に人生のフィナーレの局面で自分より若い命を失うことは、加害者にとっても被害者にとっても大変悔やまれることであり、特に運転能力が落ちる事実のがある中で、運転し続けることに問題がないとは思えません。
一方で、特に地方においては、運転を手放すことで生活が立ち行かなくなったり、不便さから外出に消極的になってしまい元気をなくしてしまう方がいるのも事実です。そうした場合、安易に免許を手放すことだけが正義なのではないと考えます。
ここまで統計をみて改めて感じたことは、そもそもシニアに限らず、全世代が車を運転することにリスクがあるということだと思います。統計では事故の起こしやすさは出ていますが、結局、ある個人が運転をした時に事故を起こす確率はゼロにはできない。ただ、リスクを上回るメリットがあるから運転をする。 そのリスクを測る際に、年齢も一つの指標となるのだと思います。それは高齢者だけではなく、全世代がそうではないでしょうか。
しかし現状のメディアの報道姿勢や、それを受けた一般的な反応として、そうした判断がおこなわれていないのではないか、高齢者が車を運転することだけが絶対悪のように語られないだろうか、という点を危惧しています。
子どもから見た親の運転
しかしながら、さらに反対から見れば、子どもにとって親の運転が心配になる時期は必ず来ます。それはそれ自体がネガティブな要素としてとらえるべき(つまり周りを心配させること自体が自分の人生におけるデメリットである)と考えます。こうした場合、子どもとしては免許返上を訴えたいわけですが、ただやみくもに「運転が危ないから返せ」というと、反発心が生まれて、嫌だとなってしまう。 こうした場合のコミュニケーションについては、別途書かせていただきたいと思いますが、まずは納得のいくプロセスと、子ども目線から見て正しい認識をもつところから始めるべき、と考えています。 (一方で、すでに危険運転の傾向がみられる場合には、一刻も早いコミュニケーションが必要とされると思います)
いずれにしても社会的な解決の望まれる課題だと考えており、本来は加齢とともにどう生きるべきか、とセットで解を導くべきことと思います。そうした点についても考えを深めていきたいと思います。
株式会社こころみ 代表取締役 神山晃男