「ずっと働く」を考える その1 社会保障と75歳

2019.10.21

働く高齢者

人生100年時代と言われていますが、その本質は、「ずっと働く」ことだと考えます。

ではそれがどんな意味を持つのか。何回かに分けて考えてみたいと思います。

今日は

その1 社会保障と75歳

です。

高齢者の定義

さて、高齢者、といえば65歳以上から、というのが日本政府の定義でもあり、WHOの定義でもあります。

ところが最近になって、こんな記事や論説が出ています。

介護保険65歳以上は適正か 「高齢者の再定義」議論

厚生労働省は65歳を過ぎても働き続ける社会を作りたいようです。

社会保険を受ける側からすれば、これは権利の縮小に他ならない(受け取りが遅くなる=損)わけで、「死ぬまで働かされるのか」 「自分より上の世代は65歳以降悠悠自適なのに、なぜ損をしなければならないのか」と、納得いかないという論調の意見も多いように感じます。

しかしながら、このままでは日本の社会保障制度が成り立たないのも事実。

人が75歳まで働くと、日本はどうなるのか

と言う事で、仮に高齢者の定義が75歳以上となったらどうなるのか、考えてみました。

まず日本の人口動態の過去と未来予測のグラフです。

人口動態および支える比率

人口動態と労働力人口が高齢者を支える比率

2015年頃を境に減少局面に入る日本の人口は、あわせて65歳以上、75歳以上の人口だけを伸ばしながらその比率を増していきます。

ここで、「労働者が高齢者を支える比率」を折れ線グラフで見てみます。 青い折れ線が、15-64歳(労働力人口)が65歳以上を支える人数比率です。

2015年は2.8人で一人を支えていますが、2020年には2.3人で一人、これが2060年には1.2人で1人を支えることになります。 いわゆる、「肩車社会」という表現はここからきているわけですね。

これこそ、日本において社会保障が存続しえないと言われているゆえんです。

さて、そこでシンプルに、厚生労働省の定義にしたがって、高齢者の定義を75歳から、つまり支える側を15歳から74歳、支えられる側を75歳以上にしてみます。 緑色の折れ線グラフです。

すると、2020年に2.3人で一人を支えていたのが、いきなり4.8人で一人になります。 2060年でも2.3人。2020年で64歳以下が65歳以上を支えるのと同じ比率になります。

つまり、単純化して言うとこうなります。

社会保障の負担が劇的に減る 高齢者の定義を65歳以上から75歳以上に変えると、 高齢者を支える負担割合は、 2060年において2020年の水準を維持することが可能。

2020年においては、1995年の水準に戻すことが可能になる。

日本の社会保障の時代設定を、25年から40年、過去に戻すことができるわけです。

このインパクトは非常に大きい。というよりも、ほぼ高齢化に伴う社会保障の問題は、これでいったん解決と言えるくらい、インパクトが大きいと言えないでしょうか。

高齢者の所得による社会給付の抑制や、介護負担の2割負担、3割負担と言われますが、それよりはるかに大きなインパクトがある。 ということが、このグラフから見えると思います。

もちろん、ここに関連して多くの問題はあります。

・働きたいという意思をかなえる労働市場が存在するのか。

・高齢化に伴い、個人差が大きくなる。元気がない65歳も多くいる。そういった方に労働を強いるのがよい社会なのか

・世代間の不公平感は払しょくされるのか。

・若者の仕事や会社における出世意欲を奪わないか? などなど。

しかし、まず大枠での問題解決の方向性は、この方向性しかないのではないか。 次回は、個人で見た時に、はたして75歳まで働くことが現実的なのか。 ここについて考えたいと思います。

 

 

株式会社こころみ 代表取締役社長 神山晃男