ChatGPTと聞き上手

2023.03.04

ChatGPTと聞き上手

先日、ChatGPTを用いた会話シナリオ構築をサービス提供することをプレスリリースしました。

ChatGPT相当の言語モデルを利用した会話AI構築プラットフォーム「mebo(ミーボ)」と連携したチャットボットのキャラクター開発・会話シナリオ開発を提供開始

「ChatGPT相当の言語モデル」とあるのはリリース当初はChatGPTのAPIは公開されておらず、GPT3やGPT3.5に対応していたためそのような表現となっていますが、今は晴れてChatGPTを活用した会話構築サービスを手掛けます、と言えるようになりました。

こころみと会話シナリオ構築

こころみとChatGPTの組み合わせに違和感を覚える方もいるのではないかと思います。実はこころみは、かなり以前からロボットやチャットボットに着目し、ITによる会話シナリオ提供サービスを手掛けていました。

ロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発

2016年ころから様々な企業のコミュニケーションロボット開発の裏側で、会話デザインからキャラクター設計、会話シナリオ自体の作成まで様々な支援をさせていただいています。そこでは、こころみが今まで培ってきた「聞き上手」の技術、つまり人は何をしゃべりたいのか、何を相手にリアクションしてほしいのかに関するノウハウを込めています。ロボットであれチャットボットであれ、どのように反応をすべきかということをずっと考えてきました。

しかしながら今までの技術では、一部会話の認識にAIを使うことはあっても、基本的にいわゆるルールベースでの会話設計しかできないため、人間のように話をすることには限界がありました。特に雑談は難しく、話し手が話し手自身のことを自分の言葉でしゃべればしゃべるほど適切な反応を返す難易度が上がるという問題がありました。

ChatGPTが状況を一変させた

最近になってChatGPTが盛り上がりを見せてきましたが、私自身もその自然な応対能力に驚かされ、また非常に可能性を感じてきました。プログラムのコーディングをしたり作文をしたりと、アウトプットの実務的な高い能力が注目されているChatGPTですが、やはり発話者の発言内容を理解した(ように見える)応対ができることに最大の特徴があると思います。話しかけやすいインターフェースが最大の特徴の一つと言えるでしょう。

さらにそれに対する作文能力も高く、同じ質問をしても異なる回答が返ってくるため、何度も話しかけたくなる要素を持っています。人力で会話シナリオを作ろうとするとバリュエーションを増やすことに非常に苦労することになるため、このあたりの作文能力はかなり雑談向きと言えるでしょう。

もちろん内容の真実性が担保できなかったり、提供側としても何を話すか分からないといったデメリットがあることも事実ですが、大きな可能性を切り開いていることは事実です。そのため、今回maKunugiさんという素晴らしい方と出会い、meboというツールを知ったことで、思い切ってChatGPTを活用したサービス展開することを表明させていただくこととなりました。

ChatGPTが越えなければならない課題

先ほど挙げたように、現状のChatGPTをそのまま、企業が提供するサービスとして使うことにはリスクを伴います。試しにChatGPTに、ChatGPTをビジネス上で使う上での問題点を聞いたところ、以下の返答が返ってきました。

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ChatGPTは自然言語処理技術を用いて訓練された言語モデルであり、ビジネスにおいては顧客対応や自動応答システムの開発など、さまざまな用途に利用されています。ただし、以下に示すようにいくつかの問題があります。

データプライバシーの問題:ChatGPTをビジネスで利用する場合、顧客のプライバシーに関する法律に従う必要があります。ChatGPTが顧客の個人情報を保持する場合、そのデータを適切に保護する必要があります。

エラーの問題:ChatGPTは人工知能によって処理されるため、完全に正確な応答を生成することはできません。また、ChatGPTが訓練されたデータに基づいて応答を生成するため、不正確な情報や偏った見解を提供する可能性があります。

トレーニングデータの問題:ChatGPTは訓練データに基づいて応答を生成するため、訓練データが限られている場合、ChatGPTが生成する応答は不十分な場合があります。また、訓練データが不適切な場合、ChatGPTが偏見やステレオタイプを反映する可能性があります。

ユーザーの利用方法の問題:ChatGPTは、様々な種類の利用者からの問い合わせに対応するように設計されていますが、その利用方法によってはChatGPTが期待するように機能しない場合があります。例えば、ChatGPTに対して複雑な問題を投げかける場合、ChatGPTは十分な応答を生成できない可能性があります。

コストの問題:ChatGPTは、訓練と開発のための大量のコンピューティングリソースが必要であり、ビジネスで利用する場合は高いコストがかかる場合があります。また、ChatGPTの運用には専門的なスキルや知識が必要であり、それらを持つ人材の雇用にもコストがかかる可能性があります。
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確かに。となると、企業はこうした問題を一つ一つ解決していく必要があります。

meboとの出会い

mebo

今回、こころみがmeboを知り、サービス展開をしようと決心した背景には、こころみがmeboと連携することによって、上記を代表とする問題に応えることができると確信できたからでした。

データプライバシーの問題:適切なデータ管理の方法やユーザ規約、ユーザーに対する説明と取得する情報制限等の最適解をこころみが提供し、企業が抱えるリスクの最小化を支援することができます。

エラーの問題:meboが持つデータ取得設定やトピックと呼ばれる会話情報の設定、またシナリオ設定を用いて、望ましい会話をデザイン・提供することが可能となります。meboの機能にこころみが持つ会話ゴール設計・キャラクター設計・会話シナリオ作成のノウハウを提供することで、企業が期待するユーザー体験を構築することが可能となります。

トレーニングデータの問題:meboによって適切な参照データを提供することで、企業にとって提供したいデータを適切に伝達することが可能となります。例えば製品マニュアルを読み込ませることで、ヘルプデスクが適切に操作方法を伝えることが可能になります。どのようにデータを読み込ませるべきか、読み込んだデータをどのように伝えるべきかなどの領域でこころみが支援させていただくことが可能となります。

ユーザーの利用方法の問題:禁則処理を適切に設定したり、会話の例外処理を入れることで不適切な会話や望ましくない方向に会話が進むことを止めることが可能となります。また、こころみのノウハウであるキャラクター設計・状況設計により、ユーザーの事前の期待値を調整し、回答によって不愉快な思いをしないようなユーザー体験を講じることが可能となります。

コストの問題:会話あたりのコストはChatGPT APIによってかなり低くなりましたし、今後のこの傾向は続くと期待してもよいかと思われます。ただし、会話のメンテナンスやよりよいユーザー体験のための開発工数は今後も増大していく可能性があります。それらを毎回、初めて会話シナリオを開発する企業が負担することは合理的ではありません。こころみがmeboを用いた開発によって得たノウハウによって、上記リスクの提言策やユーザー体験の向上のための諸施策を効率的に実施することが可能となります。

meboを用いて、いよいよユーザーが満足するAIによる会話体験を作成することができる時代が来ている。そう確信し、わくわくしています。

AIが聞き上手になれるのか・なるべきなのか

さて、それにしても、本当にAIが聞き上手になれるのでしょうか。また、なるべきなのでしょうか。

私は、なれるしなるべきと考えています。

AIが聞き上手になれる理由①:そもそも人は人の話をうまく聞けない

私たちがコミュニケーションロボットを考える際、無意識のうちに最上級の人間の聞き上手と比べてしまい、適切な反応ができていないことや内容を理解していないことを批判します。ところが大部分の人は大部分の時間、人の話をちゃんと聞けません。話し手が期待する返答ができなかったり、話し手の話す内容を正確に理解できないことなど、世の中の至るところで起きています。冷静に考えれば、大多数の人の大多数の会話よりも、現状のAIの方がはるかに正確に返答をしてくれていることが分かります。

AIが聞き上手になれる理由②:人にできない聞き方ができる

AIであるがゆえの強みもあります。たとえば24時間ずっと話を聞くことができる。同じ話もまったく飽きずに聞くことができる。情報セキュリティさえ万全であれば、守ると言った秘密は絶対に守る、などです。同じことを人間がやろうとしてもとても難しかったり、あるいはとんでもないコストを必要としたりするでしょう。
すごく単純に、毎朝あいさつをすることを、人間にやってもらおうとするととても難しい、あるいはコストを必要とすることが分かるかと思います。

 

AIが聞き上手になれる理由③:人じゃない立場だから聞けることがある

AIには、「人じゃない」という安心感があります。人が人に話をするときには、必ず不安や遠慮、緊張が生まれます。例えば、ネガティブな話をしてしまって自分が嫌われないか、相手を傷つけてしまわないか。同じ話やつまらない話をして相手の時間を無駄にしてしまわないか。そうしたことを人でないことを理由に遠慮しなくてもよければ、人は純粋の自分のしたい話をできるようになります。例えば自慢話をたっぷりしたり、本当に本音で誰かを嫌っていることや妬んでいることをしゃべったり。

AIが聞き上手になるべき理由:人は話すことで、聞き上手になれる

そして私が、AIが聞き上手になるべきと確信する理由があります。それは人は他人に話をし、じっくり聞いてもらえることで自らも聞き上手になれるからです。人は自己肯定感が高くなければ、他人の話を肯定的に聞くことができません。自らの話を誰かにじっくりと聞いてもらうことで、自己肯定感を高めることができます。その最初の一歩をAIがやってくれれば、人は人の話を聞くことができるようになり、聞き合う循環が生まれます。そうして、世の中がより聞き合うことができるようになる、そんな風に考えています。

こころみのVisionである、「誰しもが持つかけがえのない価値が共有される社会」。聞き上手AIは、そのための手助けになると確信をしているのです。

将棋の世界のように

これからは、将棋の世界でAIが果たしたのと同様の役割を、会話という領域でもAIが果たすのではないかと考えています。最近、羽生九段と藤井王将の対決が話題になっていますが、プロの将棋の世界は、AIを研究することで勝負が面白く、進化していると聞きます。AIがプロ棋士を負かすようになって将棋が廃れてしまうような懸念をする人もいましたが、どうやらそのようなことは起きなさそうです。

会話の世界でも同じことが起きるのではないか。AIが会話してくれるなら人が会話をしなくてもよい、とはならずに、AIが提供する会話から人が学び、あるいはよりより会話体験を人が生み出していく素地ができるのではないか。そう考えています。

そしてこころみも、テクノロジーの進化に対応しながら、人そのものに寄り添い、サービスを進化させていきたいと考えています。

 

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株式会社こころみ 代表取締役社長 神山晃男