聞き上手的世界観

2022.06.05

こころみは、聞き上手をコミュニケショーンの技法と限定していません。むしろ世界の見方やかかわり方、もっと言ってしまえば生き方としてとらえています。
 
今日はその根本的な部分をご紹介します。
 

こころみのVISIONと聞き上手

 
こころみはVISIONとして、
 
すべての人が持つかけがえのない価値が共有される社会
 
を掲げています。そしてそれを達成するための手段が聞き上手であると考えています。その際、聞き上手であることはただコミュニケーションの場で使われるテクニックではなく、自らが社会と接する際の姿勢そのものを意味することになります。
 
ストレートに表現すると、自らを含む世界そのものを聞き上手にしていくあり様だと言えます。
ではここで言う聞き上手は何なのか?世界に対して聞き上手でいるとはどういう意味なのか?
 
世界に対する聞き上手的姿勢は、大きく3つの要素からなっています。
1つ目は自己承認、2つ目は感覚の重視、3つ目は真実の相対化です。それぞれの考え方はお互いに結びついており、こうした考え方に基づいて人生を送ることで、自分と他人、双方を聞き上手にしていく。つまり世界を聞き上手にすることにつながります。

自己承認

 
自己承認は聞き上手における最大の要素です。一義的には、話をじっくり聞くことが、話し手の自己承認の充足に結びつきますが、意味するところはそれだけではありません。話し手を肯定し続ける作業、関心を持ち共感し、受容し続ける姿勢は、そのまますべての人がかけがえのない価値を持つことを認める行為です。それを繰り返すことで、人は自分自身に対しても承認することができるようになります。他人があまねく価値を持っているのなら、自分にも価値がある。確信が持てるようになるところに、聞き手として聞き上手を実践する価値があります。
 
そして重要なポイントは、自己承認は現状維持や変化の忌避にはつながらないことです。承認すべきは自己や自己の感情であって、事実や社会的環境のことではありません。むしろ自己承認をすることが社会変革や自己変革に結びつくと考えています。この点は、弊社が企業の変革支援を行う際に根幹にしている考え方となります。
 

感覚の重視

「聞く」という行為は、「見る」という行為と比較して、多分に暗黙的であり受動的です。時間軸および相手の行為に身をゆだねることが必ず求められます。そのため、必ずしも言語化できない感覚が重要な要素として残ります。特に日本語における「きく」は、においをかぐことやあじわうことも含む、感覚的であることを意味する言葉だとも考えられます。また聞き上手で得られるのは相手の心情であり意識です。共感の気持ちは分析的にはなりえません。私たちはそうした感覚を重視します。
 
そのため、私たちは心地よさを重視し、直観や感覚に身を委ねます。そのような感覚に自覚的になることで、何が起きているのかを少しでも理解しようとします。ただしそれは、感情に流されたり、合理性や論理性を排除することではありません。自分の感覚がどこから来ているのかを考えながら、感覚と論理の合致する点を探し求める作業を続けることになります。自分の感情に対しても耳を澄ますことが聞き上手の重要な要素です。
 

真実の相対化

 
聞き上手を実践する際には、話し手の数だけ真実がある姿勢で聞きます。話し手の話の内容に疑義をはさみません。すなわち、真実を相対化する姿勢が求められます。そのような態度を持ち、自分の持つ正義や価値観も相対的なものにすぎないという立場に立つことが必須となります。
 
この価値観は、他者の尊重につながると同時に、興味の源泉にもなります。他者が持っているものが自分にとって間違っていることや利用価値がないように見えるとしても、それは私の視点だけで見えるものであって、他者にとっては真実であることが理解できるからです。このような姿勢を持つことで、独善的にならずに他者に興味を持ち続けることができます。
 
この姿勢を持つことは、昨今で言うインクルージョン、およびダイバーシティの支持につながります。聞き上手とは様々な意見や考え方、人としてのあり様を肯定するものであり、このような姿勢が自己承認と密接にかかわることで、社会をよりよくしていけるものと確信していますし、そのような世界が望ましいと考えています。
 

科学と論理

ある意味では、ここまで述べてきた聞き上手的世界観は、近代社会以降当然のものとされてきた、科学や論理の重視に反対するものとして見えるかもしれません。科学とは一つの真実に向かって各要素を批判的に疑い続けることであり、感覚的なもの、説明できないものを排除する行為だからです。
 
実際のところ、私たちは科学の力を信じていますし、論理の力も同様に信じています。むしろ言語化や論理性による誤謬性の排除を通じて、上記価値を達成したいと考えるものです。聞き上手は常に、妄信にならないように配慮し続ける行為でもあります。聞き上手的な価値観を持って、科学や論理の力を使って世界を良くする、とも言えます。
 
私たちはこのような聞き上手の価値観にのっとって、社会をよりよくしていきたいと考えています。
 
株式会社こころみ 代表取締役 神山晃男