立場と聞き上手 社外編

2021.11.21

聞き上手を実践するにあたっては、相手と自分の関係性が重要になります。特にビジネスにおいては、立場というものが厳然として存在するため、立場の違いを抜きにしては語れません。もちろん聞き上手の基本は変わりませんが、立場によってどのような点をより気を付けるべきなのか、考えてみたいと思います。

今回は社外の人とのコミュニケーションについて考えてみたいと思います。特に、こちらが営業をする側で考えてみましょう。逆の場合はこちらは相対的に気を遣う必要が低いと思われるので。いわゆるto C向けの、店舗やコールセンターでのお客様相手というよりも、BtoBでの仕事上の取引関係を考えてみたいと思います。

適切な人間関係

 

まず前提として、社外の人とコミュニケーションをとるにあたって、どのような距離感で接するべきかを考えてみましょう。 ここでご紹介したい書籍として、「謙虚なコンサルティング」があります。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の名誉教授であり、組織心理学、組織開発の第一人者であるエドガー・シャイン教授の著作です。 コンサルティング向けの内容ではありますが、関係性を築くという観点ではだれにとっても有用だと思われます。

その中で、シャインは人間関係を以下のように定義づけています。

信頼と率直さのレベル

多くの場合、仕事の上での付き合いは、レベル1から始まります。そして往々にして、そのまま業務が遂行されていってしまうことが多い。 単純な事務的手続きのみが存在するだけであればそれでもかまいませんが、そうしたやり取りは、今後デジタル化によって自動化されていく可能性が高い。

人と人が接する領域においては、単純な情報のやり取りにとどまらない信頼関係が必要となります。 なぜなら、そうして個人的な信頼関係、感情や意見、価値観を共有できる関係性がないと、本来求めているものを正確に理解したり、あるべき理想像を共有することが難しくなるからです。 「この人になら自分が考えていることを率直に伝えてもよい」と思えること、それがレベル2になります。 逆の言い方をすれば、ある程度意識的に信頼関係を作ろうとしなければ、仕事上知り合った人の場合、レベル1のまま関係性が維持されてしまう可能性があるということになります。 そこで、聞き上手によって信頼関係を構築することが必要になると言えます。

 

信頼関係を構築する上での障害

さて、そんなわけで「聞き上手」、傾聴を使って話を聞くことになるわけですが、業務上の関係性において話を聞くというのは、一般的な傾聴と比べても難易度が高いと言えます。

・仕事上必要な指摘をしなければならない

・仕事上聞かなければならないことがある

お互いの立場がありますので、相手が間違っていると思われる場合には指摘をしなければなりませんし、また仕事を遂行する上で必ず聞かなければならないことも存在します。じっくり話を聞くだけではなく、仕事のために主張したり質問をしたりしなければならないため、それが信頼関係構築にネガティブに働いてしまうことはどうしても避けられません。また、そうした事態を想定することで、こちらが本来聞くべき聞き方ができなくなってしまう恐れもあります。安易に同意しない方がいいのではと疑心暗鬼になったりしてしまうケースです。

 

・話し手側が緊張してしまう

先方が営業を受ける側だったとしても、業務上の人間関係には必ず緊張があります。下手なことを言ってはいけない、相手に嘘をつかれていないか判断しないといけない、などなど。警戒心はそのまま信頼関係を損ねるものでもありますし、信頼関係を作るうえでの障壁でもあります。通常のケースよりも緊張をほぐすこと、警戒をとくことに注力する必要があります。

 

・組織の中で言えることと言えないことがある

仕事上の指摘や質問とも重なりますが、例えば感想なども、立場上言えないということもあります。例えば話し手が上司の悪口を言った場合。通常のケースであれば、そう思う理由や具体的な出来事にフォーカスをし、共感的理解を示していくことが王道ですが、それをそのまま行うのは問題になる可能性があります。本来は行うべきではないですが、いわゆるフォローをすることが必要な場合もあります。 他社製品を評価した場合にどう反応すべきか、自社の他の社員について言及された際にどう答えるべきか。ケースバイケースですが難しい論点です。

 

・自分の感情が動いてしまう

そして、ここが侮れないのですが、人間ですから聞く側の感情が動いてしまうことを止められません。納品した商品について不満を示されれば傷ついたり腹がたったりしますし、他社製品の評価がたかければ焦りや不満も生まれます。何より自分の成績がこの人に直結していると考えてしまえば、そこに期待や不満が入るのを止めるのが難しいことになります。こうした感情をすべて止めることは難しいため、率直に見つめ、それにどう対処するか、を考えることが必要です。

このように、普通に話を聞くときには出てこない難しさがあるため、より気を付けて話を聞く必要が出てきます。

具体的には、

・自分の感情を理解する

・相手の警戒を緩める

・話題の切り替え、切り離し

ことで、本来の聞くことに近づけることを目指していきます。

 

業務における聞き上手

 

自分の感情を理解する

組織の立場があり、自分の利害関係も絡むため、聞き手の感情がどうしても動いてしまいます。感情が動いてしまうことは止められませんし、すべきでもありません。重要なのは、それを自覚し、「今自分はこういう気持ちになっている」と把握することです。場合によっては、感情がどうしても制御できないと判断したら、聞き上手を目指すことはあきらめてもよい。仕事の上で相手と信頼関係を作るのは、あくまで目的達成のための手段であって、目的そのものではありません。逆に人間関係レベル1に徹することで業務を遂行する方がよい場合もあります。

そしてもちろん、可能であれば、自分の感情を理解したうえで、それをいったん横においておいて、本来聞くべき姿勢に立ち返ることが理想です。たとえば自社製品についての問題を指摘された場合、不合理だと思ったとしても、こちらの立場からの説明はしない。いったんその気持ちを脇において、話し手がどういう経緯でそう思うようになったのか、を共感しながら聞いてみる。それができれば、よりよい解決策に到達することが容易になります。

 

相手の警戒を緩める

相手が緊張感を持ってしまう、また話せないことは先方にも当然あります。だからこそ、少しでも警戒感を緩めるための話の仕方が重要になります。これは特殊なやり方を行うというよりも、通常よりも「よりよく聞く」ことが求められると考えた方がわかりやすいかもしれません。一流の営業マンは雑談をメインにするとよく言われますが、この観点からも雑談は非常に重要でもあり、有用です。

また警戒させない態度や服装も同様に重要です。身だしなみを整えることは、人の話を聞くうえでも大変重要な要素になります。華美である必要はなく、むしろ目立たない、相手に嫌悪感や違和感を持たせない格好が重要となります。

 

話題の切り替え、切り離し

そして最後ですが、これが最も重要でもあり、業務上の人の話を聞く際に使えるポイントにもなります。話題を切り替え、切り離すことを意識的に行いましょう。

具体的には、

①話し手の話から、事実と心情をしっかり聞くフェーズを作る。

②その中で、特に心情にフォーカスして共感的理解を示す

③事実を整理し、そのうえでこちらから伝えるべきメッセージを伝える

順番が大事です。

まず、聞くことが重要です。ここで自分の考えをさしはさんだり、会社の公式見解を入れることは避けます。 「そういうトラブルは仕様上しかたないんですよ」「そんな風には動かないはず。操作を間違っていたのでは」「その点は前回のミーティングで伝えています」 と言いたいところを抑えて、まずは聞きましょう。

その際、事実関係をまず聞ければよいですし、そうでなくても心情と事実関係は切り分けで聞きます。その目的は、事実関係を整理することではありません。もちろん事実関係の整理もしたいところですが、その前に心情理解が先に来るべきです。大変だったのか、わくわくしたのか、誰かへの怒りがあったのか・・・それらを聞くことによって、信頼関係が深まり、それ以外の情報についても話安くなります。この点が最も重要です。感情を聞く前に事実を聞こうとすると、「それで、遅くなったと言いましたが到着したのは約束の前だったんですか、後だったんですか」など、本人の感情をないがしろになった聞き方になってしまいがちですし、遅かったかどうかではなく、話し手にとって遅いと感じさせたことが重要です。 事実関係はその後、必要に応じて聞きます。気持ちが一度聞けていれば、事実関係の確認についても話し手は伝えてくれます。それをもとに事実関係を整理しましょう。

そして、業務上の付き合いですから、こちらから言うべきことがあるはずです。上司と持ち帰って相談しますなのか、それについてはこういう対応をしますなのか。相手の心情が理解できていることで、何を言うべきかも自然とわかっているのではないかと思います。つまり、相手の気持ちが納得する解決方法を提示することができる。

どうしても、「相手の言い分を聞く=こちらが折れる、責任を負う」という気持ちになってしまい、弁明や拒絶をしてしまいやすくなります。ここで重要なのは、聞くことに徹するものの、責任を認めたり事実関係を共有するのは後にしつつ、感情を共有することを先にすることです。 これによって、安易に譲ることなく、信頼関係を構築することが可能となります。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。立場の違いを超えるために気を付けるべき点についてお伝えさせていただきました。しかしながら、繰り返しになりますが、人の話をよく聞くときのやり方は一つです。相手に関心を持ち、共感をしながら、受容を目指す。むしろそのやり方が常に実現できるのであれば、個別の技術を覚える必要はありません。何よりもそうした理想の聞き上手の前提となる、相手に好奇心を持ち、常に謙虚に、かつ誠実でいようとすること。その重要性が改めて試されるのが、社外の人とのコミュニケーションなのではないかと思います。

本来、業務上のつながりは、お互いの利益が生まれるためにその場にいる、共通の目標をもった仲間です。一方で、仲間であると感じるためには、意識的にコミュニケーションを設計しなくてはなりません。そのコミュニケーション設計において根幹となるのが聞き上手だと言えるでしょう。

こころみは継続して、多様な状況におけるコミュニケーションの支援を行っていきたいと考えています。

 

株式会社こころみ 代表取締役社長 神山晃男