「パーパス」と聞き上手

2021.10.10

パーパスと聞き上手
最近、「パーパス」というキーワードを聞く機会が増えてきました。内容としては従来のミッション、ビジョン、バリューの考え方に近いと思いつつ、2020年代にこの概念が新たに打ち出されている意義があると考えています。今日はパーパスの考え方をご紹介しつつ、パーパスと聞き上手の関係についてご紹介します。
 

パーパスとは

パーパスとは何か
purposeという単語自体は、一般的に「目的」と訳されることが多いと思います。実現しようとして目指すもののことです。最近では、それがビジネス上の用語として使われてきています。パーパス・ブランディングという使われ方をしたりもします。
ビジネス上で最近使われる意味としては、企業や組織が何のために存在しているのか、いわゆる存在意義を表します。
企業ごとに「パーパス」を定義し、それが社内外のコミュニケーションに使われるようになってきています。
 
こちらのサイトが非常に端的にまとめてくださっているので、ご参照ください。
 
 

ミッション・ビジョン・バリューとの違い・・・SDGsとパーパス

「それならば従来のミッション・ビジョン・バリューの考え方と何が違うのか?」と思われるのではないでしょうか。企業ごとに書き方は違いますが、ビジョンでこうありたいという理想の姿を掲げ、それに向かって企業が活動する内容をミッションに落とし込むわけなので、ビジョン自体が目的=パーパスという考え方もあると思います。実際そうなっているケースも多いように見えますし、弊社もそれに近いと考えており、別途パーパスを定義しようとは今のところ考えていません。
 
ではなぜ最近ではパーパスという言い方が出てきているのか。それは、パーパスは前提としてSDGsに代表される社会的善にたいしてどう貢献するかが含まれているからです。
企業の存続がどのように社会的善に貢献するのか、あるいは企業が、特定の社会的善を実行するために生まれてきた、そういうとらえ方をするためにパーパスという言葉で定義がなされていると言えます。
 
リサイクル可能な靴のメーカーであるオールバーズのサイトに行くと、「ビジネスの力で、気候変動を逆転させる。」というパーパスが一番最初のページに出てきます。
 
オールバーズのサイト
 
 
 
ただお金を儲けたり、社員が楽しく働いたり、顧客満足度を求めるだけでは、パーパスにはなりえないのです。
 

SDGsがパーパスの前提となる理由

SDGs

 
ではなぜ、パーパスの前提にSDGsがあり、企業は自らの存在意義にSDGsを取り入れているのでしょうか。単なる流行り以上の理由がそこにはあると考えています。それは消費者も、社員も、最後に投資家も企業に対してSDGsへの積極的関与を求めてきているからです。
 
まず消費者自体の価値観の変化があります。コロナ禍の影響もあり、商品選択において単純な機能面での比較や他者に対して自慢できるかどうかではなく、情緒的な満足度や、それを持つことが自分自身に対する誇りになるのか、という観点で選ぶようになってきています。それがallbirdsや他の新興ブランドに対する支持につながっているのではないか。
また単純に環境問題だけではなく、BLMに代表されるような人権・社会的課題への対応も、同様に商品選択の意思決定に大きな影響を与えるようになってきました。
 
それらも踏まえて、従業員の働きがいの位置づけも変わっています。今までは何よりも報酬が重要。仕事の内容という観点でも、自分自身にとっての面白さやその後のキャリアパスの豊富さなどに重点が置かれていたように思います。この点に変化が起きています。もちろん引き続き報酬は何よりも重要ですが、仕事自体が社会にどう価値を生み出しているのか、自分の時間が社会に対してどのような影響をもたらしているのかが、社員のやる気や企業に対するロイヤリティにより大きく影響するようになっている、そんな風に感じます。
 
これにもコロナ禍の影響があるようです。コロナ禍によって離職率が上昇しているわけですが、コロナ禍の影響を直接受けていない業種、特にホワイトカラーでも離職率が高まっていると聞きます。在宅勤務が導入される中で、なんとなく職場の人間関係で続いていた仕事が、業務そのものだけと相対することになって、やりがいが鋭く問われる。そこで改めて自分が何をしたいのかを考えるきっかけになっているのではないでしょうか。
 
こうした動きを受けて、また機関投資家それ自身の要請もあり、投資家自体がSDGsや、それを前提とした企業活動としてのESGを求めるようになってきています。企業活動を円滑に、かつ高い評価を継続して得るために金融という観点からもパーパスが必要とされているのです。
 

SDGsと聞き上手

 
それでは、SDGsと私たちが進める聞き上手はどのように関係するのでしょうか。
一見、聞き上手は地球環境に影響を与えるものではなく、特に関係ない気がするのではないかと思います。
しかし、私たちはむしろ、聞き上手が最も重要なSDGs実現のための要素の一つだと考えています。
聞き上手なくして、SDGsが達成されることはないのではないか。そんな風にも考えています。
それは、直接的な貢献である働きがいと経済成長への貢献と、間接的な貢献である変革の支援と包摂的な概念の共有に分けられます。
 

働き甲斐と経済成長

働きがいと経済成長

SDGsは、17の目標から構成されています。そのうちの8番目は、
 
「働きがいも経済成長も」
 
です。
 
すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する
 
となっています。
 
国連の念頭にあるのは児童労働や劣悪な環境下における労働かもしれませんが、先進国である日本において、「働きがいのある人間らしい仕事」ができていると自認している人がどれくらいいるでしょうか?大企業でも、いやむしろ大企業の中にこそ、自分の仕事の意義や意味、あるいはそこで働く自分自身に価値を見いだせていない方が多くいることを感じています。私たちが企業向け支援の場でお話を聞かせていただくのは、そうした方が本来持っている価値や意義を見出し、共有化することにあります。聞くことを通じて、一人一人が意欲を持って持続的に働くことができるようになるお手伝いができると考えています。
 

包摂的な概念

包摂的な概念

 

SDGsの文章には、この8番目だけでなく、いろいろなところで「包摂」という言葉が出てきます。
 
4.質の高い教育をみんなに
すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し・・・
 
16.平和と公正をすべての人に
持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し・・・
 
などなど。
 
「包摂」という言葉はあまりなじみがありませんが、英語でいうとinclusion。排除の反対の言葉ととらえるとわかりやすいかもしれません。
 
社会的包摂という言い方で、社会的に弱い立場にある人々をも含め市民ひとりひとり、排除や摩擦、孤独や孤立から援護し、社会(地域社会)の一員として取り込み、支え合う考え方のことを示します。
 
SDGsを推進するためには社会的包摂が前提となります。そして社会的包摂のためには聞き上手的な考え方が必要と考えています。
 
異なる立場や、自分の主義主張に一致しない人たちの立場や考え方を尊重すること。そのためには、自らの立場を保留し、相手の考えや主張、立場を理解しようとする姿勢が必要です。その姿勢こそが聞き上手であり、社会的包摂を行うためには聞き上手が尊重される社会になっていることが、まず求められるとも言えます。
これは政治信条などについてもそうですし、LGBTQなどの人の生き方そのもの、あるいは貧困や人種、国籍といったその人が置かれている状況についても言えると思います。何らかのその人を指し示す言葉によって、その人が排除されてはならない。聞き上手は、まず相手を肯定するところから始めることから、包摂するための具体的コミュニケーション手法であるともいえます。
 
 

変革の支援

変革と聞き上手

 

 
そして最後です。これは直接宣言文に書いてあることではありませんが、これらSDGsに向けた活動は、私たちの今までの行動様式や考え方を新たに変えなければならないことを前提にしています。ある意味では、今までの自分や社会を否定し、捨てるべきものを捨て、正しいと思っていたことを正しくないと認識しなければなりません。
 
そうした変革にこそ、聞き上手が必要です
 
なぜならば変革は自己肯定感が充足されて初めて成しうるからです。自己肯定感が低い状況においては、人は自分が傷つく可能性を恐れて壁を作ります。自己正当化が必要になるため、自分に対して向けられる批判や否定に対して拒絶します。当然、新しいことに挑戦したり、今までの自分を変えようということはせず、むしろ逆の方向に向かうことになります。
 
弊社が企業変革のお手伝いをしている中でも、そうした状況をたくさん見ています。自らの業務の価値や意味を見いだせていない、実感できていないからこそ、現状のやり方や状況に固執してしまい、改革の一歩を踏み出せない。あるいは改善提案に対して強い拒絶反応を示してしまう。
 
そうした状況に置かれている方に対して、聞き上手の姿勢でお話を伺い、自らが価値を持っていることに気づいた方が、積極的に変化を受け入れ、むしろ改革を進めていく原動力になります。
 
SDGsが目指す社会構造の変化にも、同様のことがいえると思います。今まで自分が持っていた社会的正義を変えることが求められている中で、頭ごなしにそれを否定されることでは、変革を起こすことはできません。社会的な変革の支援をするところに、聞き上手の真の価値があると考えています。
 

こころみのパーパス

 
 
弊社はパーパスを掲げてはいませんが、ビジョンがパーパスを実質的に表現していると考えています。
こころみのビジョンは、
 
 
こころみはそのような社会を実現するために存在しており、そのような変化に貢献する企業活動を、今後も続けていきたいと考えています。
 
そしてこれこそが、働く人の働きがいを生み出し、同時に社会的包摂と社会的変革の基盤となる。
そう信じて企業活動を行っています。
 
これからもご支援の程、よろしくお願いいたします。
 
 
株式会社こころみ 代表取締役 神山晃男