ずっと働くを考える その3 老後

2019.11.11

藤原道長の老後

ずっと働くを考える、第1回目は社会保障制度について。 第2回目では、「隠居」という言葉の意味について考えてみました。 第3回目では、言葉の意味について考えるシリーズとして、「老後」について考えてみたいと思います。

老後という言葉のイメージ

老後というと、まさに年をとった後の、人生のピークをおえて、あとはゆっくりする、というイメージかなと思います。 バリバリ現役で働いている人のことを老後っていうイメージはあまりあわないですよね。

辞書を調べると、

老後…年老いたのち。年をとってからあと(日本国語大辞典)

となっています。「年老いて、あと」ありますがこの年老いた、あとの人の生活イメージが、昔からどのような形だったのか。 ちょっと考えてみたい。

ということで、今回は文学部史学科の大学生に依頼をして、語源などを調べてみました。

日本で最初の「老後」が使われた例

どうやら日本で最初に「老後」と言う言葉が使われたのは、「御堂関白記」の様です。

御堂関白記とは、藤原道長が書いた日記です。 あの「望月のかけたることもなしと思えば」の、藤原支配の頂点の時代の人ですね。 歴史の授業で出てた人です。

その御堂関白記の「寛弘四年〔1007〕正月一一日」の記述です。

その日は道長の娘、嬉子の御質屋の儀式が行われ、たくさんの有力な貴族からお祝いの品を受けたシーンです。道長はたいそう喜んでいる中で、 こんな文章として出てきています。

「今夜事老後無便」

うーーん、わかりません! 「今夜のこと、老後の便りなし」とでも読むのか・・・

分からないので、史学科の学生さんに頼ります!

ここで言う「頼り」は、④たより…❶頼れるもの。頼みにできるもの。よりどころ。❷縁故。てづる。❸都合がよ い機会。ついで。❹都合がよいこと。便利。便宜。また、都合のよい状態。具合。❺使者。 ❻知らせ。消息。手紙。

「老後」ここでは、老いるという意味ではなく嬉子が年を重ね成長することと考えるべきとのこと。

「便りなし」便りとは❻知らせ。ここでは悪い知らせを指す。悪い知らせがない(だろう) ということは、何の心配もいらない(だろう)ということ。

⇒嬉子のお七夜を多くの貴人が祝ってくれた。我が一族の繁栄は素晴らしいものであるため、この子の未来には何の心配もないだろう

ということで、「これから先、年月が経っても、~」という意味で、「老後」という言葉が使われているようなのです!

おおー。これは知りませんでした。

確かに、話題が娘のお七夜の話なので、自分が歳をとってよぼよぼになる、という意味がここで入るのはちょっと不自然というか、入らなくもないですけど恣意的ですよね。

漢文の意味が完全に分かったとは言えませんが、どうやら少なくとも日本語において「老後」という言葉が使われ始めた当初は、 年月を経るという意味がニュートラルに用いられており、それがだんだん、老いて弱くなったり活動的でなくなる、ということに意味がついてきたと言えそうです。

よい「老後」の使い方

この老後の使い方、とても素敵だと思いませんか。

「老後の人生を考える」「老後のために備える」というときに、自分がどうなっているかを前提にしないで、 どうしたいかを考えるわけです。もちろん、歳をとることは身体的・社会的に弱ったり若いころのようにできることばかりではありません。

しかし、老後でも働いているかもしれないし、遊びたい気持ちは今と同じくらいあるし・・・老後ってのは、とにかく時間が長くたったことだ!藤原道長が言ってんだから間違いない!と考えると、 未来に前向きになれる気がしませんか。

実際、私たちの接してきた高齢者の中には、そんな素敵な生き方をしている方が何人もいらっしゃいます。 今度から、「老後」とは単に年がたつこと。と考えていきたいと思います!

株式会社こころみ 代表取締役 神山晃男