意思決定と聞き上手

2021.12.05

正しい意思決定をすることと、人の話をよく聞くことは、両立させることができるのでしょうか。あるいは、良い聞き方と意思決定の仕方というものがあるのでしょうか。
 
私は、正しい意思決定をするためには、むしろ聞き上手であることが必要だと考えています。今日はそんな、意思決定と聞き上手の関係について考えてみたいと思います。そして、この件に関してはシンプルな解決策・・・意思決定と情報収集を分けて考えることをお伝えしたいと思います。
 

意思決定と聞くことの相性は悪そう

私たちがあるべきリーダーを想像したときに、どのような像が浮かぶでしょうか。あるいは理想的な意思決定というものを考えたときに、どのような意思決定が浮かぶでしょうか。
 
一つの典型的な例として、明確なビジョンと熱意を持ち、従う人たちを導き、率いていくリーダー像が浮かぶのではないかと思います。そのようなリーダーが行う意思決定は、人の意見を聞いて妥協したり、多数決で決めるのではなく、最初から自らの持っている明確で正確な答えを果敢に選び、周囲を説得していくイメージがあります。
 
そうしたイメージと、「聞き上手」、いろいろな人の話を聞きながらも自分の意見を言わず、受容するやり方は、合わないような気がします。人の意見に耳を傾ける必要がないくらい、断固とした正しい答えをもつリーダーと、答えを授けてくれるような意思決定。
 
こうした理想像と聞き上手は、確かに相性が悪いように思えます。
 

意思決定と情報収集を分けて考える

 
さて、いまあげたリーダー像、意思決定のイメージは、意思決定の瞬間とその後の行動についてのイメージです。そのイメージに引っ張られてしまい、自然とその前の段階から、人の意見を聞かない方が正しいリーダーシップのありようのように思ってしまっていないでしょうか。
 
特に「聞き上手」、いわゆる傾聴的な聞き方では自分の意見を表明しないで話を聞く手法のため、リーダーなのに意見を持っていないように見えてしまい、イメージが合いません。しかし、実際は意思決定を行うにあたって、情報収集は欠かせません。そしてむしろ情報収集においては、「聞き上手」的アプローチが極めて有効なのです。
 
つまり、情報収集においてはリーダーは聞き上手に徹し、意思決定の瞬間は1人で果断に行なう。これが理想だと考えます。
 
考えてみれば、理想のリーダーが例えば会議の場で皆が意見を言い合うところで沈思黙考し、適切に質問し、そして意思決定をするようなイメージも浮かびます。正しいリーダーとは、この2つの側面をうまく使い分けられる人である(加えるなら実行局面における人身掌握の3つ)と言えるかも知れません。
 

意思決定を前提として、どう聞けば良いのか?

では情報収集のために話を聞くとして、どう聞くのがよいのでしょうか?
私たちがとるアプローチでは、3つの段階を用いています。
 
つまり、
1  話し手の頭にあるものをしゃべってもらう
2  聞き手の頭にあるものや懸念を確認する
3  他に課題や見落としがないかチームで考える
 
これは順番が重要です。特に意思決定者が最初に2番をやってしまうと、それへの賛成ではなしがおわってしまったり、そうでなくても最初に設定される枠組みの中だけで話が進んでしまう恐れがあります。それから、1の話を聞くときに、単純にロジックを受け止めるのではなく、情緒的情報を共感と共に受け止めることも重要です。
 
その上で、意思決定においては、自らに疑念があればそれを潰した上で決めなければなりませんから、聞き手の疑問をぶつける行為が必要になります。ただし、自分の正しさを証明するために行うのではなく、むしろ自分の考え方のおかしい部分を相手に指摘してもらうような聞き方が重要になります。相手に説得してもらうようなイメージでしょうか。「自分はこういう考え方もあると思うんだけど、どうだろう」というような聞き方ですね。そうして自分の中で考える材料を増やします。
 
最後の他の可能性やアイディアも同様です。ここでも可能性を広げるために議論をしますが、常に第3の道を答えにしましょうということが言いたいわけではありません。可能性があるものを全て引き出しの上に並べることが重要です。
 

意思決定は1人で行う

 
意思決定は原則として1人で行うべきと、私は考えます。もちろんいろいろな組織の形がありますから、常に誰か1人が意思決定をする仕組みが良いわけではありません。多数決がよい場合もあるでしょうし、全員一致がよい場合もあると思います。ただ、デフォルトは1人が意思決定をするとしておくことが極めて重要です。なぜなら、複数人による意思決定には、責任と責任感の所在が不明確になるという大きな危険性があるからです。人には1人が意思決定をするより合議制をしたほうが大きなリスクを取りやすいという話もあります。
 
ここでいう1人で行うというのは、物理的に1人になって考えることを必ずしも意味しません。会議のその場で結論を出してその場で言っても良い。ただし、「私が決めた」と宣言することがリーダーとして必要な行為です。
 
そしてこの瞬間から先には、傾聴は出てきません。意思決定されたものについては明確な立場をとり、安易に変えないことがリーダーに求められます。
 

結論について説明する

 
そして、意思決定の後で、説明するプロセスが入ります。なぜそのような意思決定に至ったのかを伝えるのです。上位下達の組織であれば、こうした説明は不要と考えられるかも知れません。表面上はそう見えても、実際には人は納得しなければ動きません。ましてや「聞く」プロセスを入れていれば、当然話し手は自分の意見が採用されることを期待する気持ちが芽生えます。
 
話を「よく聞く」ことができた場合には、意思決定後の説明はセットで必要になると考えましょう。
 
一点、ここで、聞く際に情緒を聞いていたことが役立ちます。つまり話し手は、聞き手が自分の感情も理解した上でこの意思決定をしたと考えているので、その分説明を受け入れやすいのです。もちろん可能であれば、そうした感情に配慮していること(意思決定がその感情に反しているとしても、考慮したこと)を伝えることが大変重要です。
 
そう思えるかどうかで、話し手の協力度合いが変わってくるためです。意思決定後の協力を見据えて、情報収集の段階での話の聞き方を意識することが求められているのです。またこの際、感謝することも伝えましょう。感謝とは、外形的な物事に対するものではなく、常に話し手の気持ちに対して行われるべきものだからです。
 

まとめ

 

・意思決定を情報収集と意思決定に分け、情報収集において聞き上手を最大限活用する

・その際は、

     相手の意見を聞く

     自分の疑問をぶつける

     他のアイディアを一緒に考える の順番で行う

・意思決定は1人で行う。そしてその理由を説明し、感謝する。

 

あるべきリーダーシップと聞き上手について、使い分けるべきタイミングを明確にすることで、思い切って話を聞きやすくなるのではないでしょうか。活用いただければ幸いです。
 
私の好きな言葉で、
Fast Alone, Far Together
というのがあります。アフリカのことわざだそうですが、「速く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」という意味です。リーダーシップとは、まさに自分だけ正しい道を目指すのではなく、みんなに正しいと思ってもらい、一緒に移動できる人ではないか。そのためには決断に至って、聞くことが極めて重要である。そんな風に考えています。
 
とはいえ、わかっていても難しいのが意思決定であり、リーダーシップの発揮です。日々それがうまくいかず七転八倒すること、その姿を見てもらうことも、リーダーシップのあるべき姿と思い、日々自分をなぐさめております。これからもこころみに、ご指導ご鞭撻の程をどうぞよろしくお願いいたします。
 
株式会社こころみ 代表取締役 神山晃男