立場と聞き上手 社内編
2021.11.28

前回、立場と聞き上手というタイトルで、特に社外の方に対して「聞き上手」を提供する際に気を付けることについて書きました。
今回は社内でのコミュニケーションで気を付ける点を書きたいと思います。
目上の方とのコミュニケーションと目下の方とのコミュニケーションにわけて考えてみましょう。
目上の方とのコミュニケーション

さて、社内の目上の方とのコミュニケーションを考える場合において、まず考えなければならないのは、その目的です。社内で目上の人と話をする場合というのは、当然のことながら業務上の話題があるため、
・業務上の指示・相談
・自分の働きに対する評価
・目上の人による情報収集
などなど、いろいろな話題に発展する可能性がありますし、また当たり前ですがそうしたことを優先すべきでもあります。
目上の人に「聞き上手」を自らが提供して話をするというのは、目上の人と信頼関係を築くことが必要な場合、または情緒的理解を深めたい場合です。その先に別の目的があるはずなので、それが正しいルートなのかを考える作業が必要になるわけです。
・自分の提案はいつも上司に止められてしまい、かなり細かいチェックを受けた結果つぶれてしまう。上司の私に対する信頼感がないのではないか
⇒信頼関係を醸成し、ネガティブな観点から見られてしまう状況を改めたい
・上司が示す部の目標はいつも自分にとってはずれてしまっているように感じる。理由を聞いても、なかなか納得感を持てない。
⇒上司がなぜそうした目標を持つのか、情緒まで踏み込んで理解したい
など。そうした目的意識を持つことで聞く内容や聞く際の姿勢を明確にすることができます。
そのうえで、もう一つ気を付けなければならないのは、通常会話の主導権や、会話の内容は目上の人の方が設定するものである、ということです。
ですので、目的意識をもって話を聞く際には、こちら側から明示的にこの話を聞きたい、ということを伝える必要があります。
一度●●さんの仕事の姿勢に対する考え方をお聞きしたいので、そのために時間を頂戴できませんか?など、意識的に通常業務の内容にならないような設定をする必要があるでしょう。
目下の方とのコミュニケーション

目下の方とのコミュニケーションの場合は、場の設定や目的設定について、目上の方との場合のように意図的に考えなくてもよいかもしれません。1on1的な形で話を聞くのはごく自然なことですし、他の話題の場ででも、相手の心情理解につながる聞き方をすればそれに対して話し手が話すことは不自然でもないからです。
むしろ、目下の方に対しては、自分が話したくなってしまう欲求に適切に対応することが求められるかもしれません。
・有用なアドバイスをしたくなってしまう
・評価や励ましをしたくなってしまう
・自分の経験などを伝えて参考にしてほしくなってしまう
など、気が付けば聞き手ではなく話し手になってしまう誘惑が多いのが、目下の方とのコミュニケーションの特徴と言えるでしょう。
人は基本的に、話したい欲求の方が聞きたい欲求を上回ります。そのため、立場上自らの意思通りに会話を作れる立ち場に立つと、話す側に回りやすくなる、ということに気を付けていただけるとよいと思います。
聞くことの効果は分かりにくい
それから、聞くことの効果は分かりにくい、フィードバックを得られにくいという問題があります。具体的なアドバイスや評価、励ましなどは、目下の方から、「参考になります、ありがとうございました」と言われやすいため、自己有用感を得やすくなります。他人の役に立った実感を得やすい。
それに比べて、共感的に話を聞くこと自体は、なんとなくすっきりしたり、整理はつくものの、話し手にとって効果が自明ではありません。自明な聞き方は上手な聞き方ではない、とも言えます。恩着せがましい聞き方になっているわけです。
そのため、自分が目上の立場で人の話を聞いた際に、共感的に話を聞くことに集中すると、「これでよかったのだろうか?」となってしまい、もっと効果の実感できるアドバイスや励ましをしたくなってしまうのです。
ただ、目下の人はお礼を言いますが、本当にありがたいと思っているかは別の場合もありますし、本当の効果という観点から望ましくない場合も多いと思います。表面上の感謝やその場の達成感に惑わされない覚悟が、聞き手に求められていると言えるでしょう。
最後に
改めて、立場の違いによる聞き方の違いを書きましたが、具体的な手法は変わりません。場の設定、認識の持ち方こそが重要になりますし、一定のスキルを身に着けた後は、むしろそうした環境設定・状況設定が聞き上手の巧拙を左右すると言えると思います。
さらに具体的な状況に応じた聞き方の変化について、こころみはこれからも考えていきたいと思います。
株式会社こころみ 代表取締役社長 神山晃男
