合気道と聞き上手の意外な共通点
2021.10.02
個人的な話で恐縮ですが、数年前から合気道を習っています。なかなか上達しませんが、知れば知るほど奥が深く、目指している世界が聞き上手に近いものがあると感じています。
今日は感じたことをいくつか、紹介してみたいと思います。またそれによって弊社の聞き上手、聞く力についての考え方が少し伝わるかもしれません。
合気道とは
合気道とは、大正の終わりから昭和の初期にかけて植芝盛平が始めた武道の一つ。
心身の鍛錬が目的で、試合や競技がないことが特徴。
合気道は、開祖植芝盛平翁(1883~1969 )が日本伝統の武術の奥義を究め、さらに厳しい精神的修行を経て創始した現代武道です。合気道は相手といたずらに強弱を競いません。入身と転換の体捌きと呼吸力から生まれる技によって、お互いに切磋琢磨し合って稽古を積み重ね、心身の錬成を図るのを目的としています。また、合気道は他人と優劣を競うことをしないため、試合や競技を行ないません。稽古を積み重ねていく中でお互いを尊重し、和合の心を学ぶことが出来る武道と言えるでしょう。
武道でありながらも敵を倒すことより、自分を心身共に強くすることに重きが置かれていて、禅や哲学に近いと感じることもあります。自分の体に気づきを得るという意味ではヨガやマインドフルネスにも近い。やればやるほど奥の深い武道だと毎回感じます。
合気道と聞き上手の共通点
そんな合気道と、聞き上手の関連。一見、武道とコミュニケーション技法、まったく関係なさそうですが、実はそんなことはありません。むしろ武道における合気道の位置づけと、コミュニケーションにおける聞き上手の位置づけが、非常に近いところにあるのではないかと考えています。
1.勝ち負けがない
2.相手の力を利用する
3.合理的に考える
1.勝ち負けがない
合気道の最大の特徴である試合がない、競技がないという点。勝ち負けを決めないという点は、聞き上手にとっても、とても大事な点だと考えています。会話において勝ち負けがないのは当たり前にも思いますが、本当にそうでしょうか?ディベートなどの明確な協議に限らず、例えば商談であればものを買わせたいという思いであったり、自分の言うことを聞かせたいという思いが背景に隠れている会話は多くないでしょうか。
もちろん聞き上手を活用する会話のケースにおいても、背景に目的があって、それは自分の利益のためであることはあります。ただ、聞き上手を実践する局面においては、そうした自分の欲求やゴールをいったん棚上げしなければなりません。その意味で、合気道の考え方も非常に近いものがあると思います。武道である以上、敵役がいて攻撃を受けるところから型が始まるのですが、敵を倒すことが目的ではなく、自分が傷つかないようにすることが第一。また大局的には、そうした敵も自分を高めてくれる師である。合気道にはそんな考えが通底を流れています。
相手との勝ち負けではなく、やり取りを通じて高みに行くことを目指す。そんなところが似ていると思います。
2.相手の力を利用する
合気道は、基本的に受け身です。相手がまず攻撃をしてくるところから、その攻撃の力を使って、自らは最小限の力で技を返します。
聞き上手も話し手が話すことから始まります。話し手の内容を受けて、それをもとに聞き手がリアクションをとっていきます。合気道は相手をよく観察し、組んでいる手から伝わってくる相手の姿勢や力の入り方を感じて、それに合わせて自らの体を動かします。聞き上手もそれと同様に、相手を観察し、五感で相手を感じて、とるべき態度をとります。
特に特徴だと思うのが、円運動です。合気道では体の軸を使って、相手の力を円運動として展開し、自らの力は最小限にして返します。彗星が太陽の周りをまわってまた戻っていくイメージに近いでしょうか。こちらの力で押し返したり、相手の力をそのまま受け止めるということはしないのが合気道の特徴です。
聞き上手も同様に、相手の話に対して直球で反論したりするわけではありません。むしろ相手の力=考えを動いているまま受け止め、相手の考え方が変わるのを待つ。そんなイメージです。使うのはあくまで話し手のエネルギーです。
(ただし、合気道も聞き上手もエネルギーを使わないわけではありません。正しい姿勢を保ち、相手の力を常に適切に相対するには、強い体幹を必要とします。聞き上手も常に相手に向き合いつつ感じ、向き合う姿勢を微修正し続ける力が必要です)
相手の力を無理せず利用し、相手が無理なく行く方向に促す。ただしそのために自らを律するためのエネルギーを使う。そんな点が近しいと思います。
3.合理的な考え方
これは合気道に限らず、近代の武道やスポーツも共通するのかもしれませんが、非常に合理的な考え方をしています。武道という言葉からは、気合や根性、鍛錬を重視するように思えます。もちろん日頃の積み重ねの鍛錬は重要ですし、精神修養を大きな目的としているのも事実ですが、一方で先ほど挙げたように、最小限の力で相手の攻撃をかわすことや、人間の骨格や筋肉の付き方に基づいた技が考えられています。技の練習をすると、スポーツというより科学や工学に近いと感じることが多くあります。人間の体の構造を分析的に把握し、最も効率的な対処法をその都度作っている。そんなイメージです。
聞き上手も同様です。大前提として相手の話を聞こうという心構え(関心、共感、受容)という心の持ちようは必要ですが、そのうえで聞き上手は極めて科学的なアプローチです。人間の心の仕組みを分析的に理解し、効果的な対応方法をとります。
熱い思い、精神性を持ったうえで、具体的な対応方法は合理的、科学的に考える。そんなアプローチに非常に近いものを感じます。
まとめ
そんなわけで、共通点を見てきました。いわゆる力業、自らの欲求を相手に通すための技術を旧来型の武道と強引に定義すると、合気道はむしろ相手の出方を見て、それに対応することに焦点を当てていることになります。聞き上手も、自らの主張を通すのではなく、相手をまず考えるという根本的な部分が、何よりも共通点であると考えています。
そのうえで、その姿勢があるが故に、相手の力を利用することや、合理的な考えを背景に置いているところが共通点として出ていることが、非常に興味深いと思っています。
直近の自民党総裁選では、「聞く力」を前面に押し出す岸田さんが選ばれました。アピール力や突破力、実行力を前面に出さない方が日本の政治のトップに選ばれることに、時代が求めているものの変化を感じています。
株式会社こころみ 代表取締役社長 神山晃男