【書評】マチネの終わりに

2016.06.21

今日は、お勧めの本がありますので紹介させていただきます。

 

平野啓一郎さんの「マチネの終わりに」を読了いたしました。

毎日新聞とnoteで連載されていた、長編小説です。

 

 

あらすじは以下です。

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「物語は、クラシックギタリストの蒔野と、海外の通信社に勤務する洋子の出会いから始まります。初めて出会った時から、強く惹かれ合っていた二人。しかし、洋子には婚約者がいました。やがて、蒔野と洋子の間にすれ違いが生じ、ついに二人の関係は途絶えてしまいます。互いへの愛を断ち切れぬまま、別々の道を歩む二人の運命が再び交わる日はくるのかー

中心的なテーマは恋愛ではあるものの、様々なテーマが複雑に絡み合い、蒔野と洋子を取り巻く出来事と、答えのでない問いに、連載時の読者は翻弄されっぱなし。ずっと”「ページをめくりたいけどめくりたくない、ずっとその世界に浸りきっていたい」小説”を考えてきた平野啓一郎が贈る、「40代をどう生きるか?」を読者に問いかける作品です。」

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一言で言ってしまえば40代の主人公2人を中心とした恋愛小説ということなのですが、恋愛というだけでは語れない諸々がそこで語られ、

その展開の巧みさ、内容の甘さと苦さに、何度も溜息をつかされます。

 

とても素敵で、誰にもおすすめしたい本なのですが、その中でとても印象に残った言葉があります。

 

「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。
だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうともいえる。
過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」

 

これは想い出のある場所がその後起こった悲しい出来事によって、

思い出されるたびに悲しい場所にもなってしまったという文脈で語られるのですが、

もちろんそうした悪いケースばかりではありません。

過去の自分がやってきたことや、その時に言われた言葉などが、

そのあとの生き方によって意味が変わってくるという経験をしたこと、あるのではないでしょうか?

 

この、「未来が過去を変える」という発想、言われてみればその通り!と非常に腑に落ちました。

そして「親の雑誌」でも、そういうことってあるよなあと思ったのです。

(「親の雑誌」は、弊社が提供する親御さんのための自分史作成サービスです)

 

訪問取材をした方に、こんなことをおっしゃっていただくことがよくあります。

・自分の人生を振り返って、改めて自分が恵まれてきたなあということを感じて、ありがたい気持ちになりました。

・人生を時系列で振り返って、初めて気づいたことがありました。こんな風に自分がやってきたんだ、結構時分、頑張ってきたな、ということに。

 

自分の人生について「これから」しかない、年を取るということは「これから」が減っていくこと、と考えると年を取ることは悲しいことになりますが、

既に通りすぎた過去を変えることができる、年を取ることとはその「変えることができる思い出」を増やすことだと思うと、年を取るのも楽しくなるのではないでしょうか。

少なくとも私達が取材をして出会った、前向きに人生を送っている皆様は、過去に対してもそろってポジティブに語られていました。

そんな風に自分を形作っていきたい、とあらためて感じました。

 

「マチネの終わりに」では高齢者がことさら舞台に出てくるわけではありませんが、
そんな風に人生における未来と過去の関係について、深く考えさせられました。

 

恋愛小説としても大変おすすめできる本ですので、ぜひご一読ください。

 

ちなみに私は平野啓一郎のかなりのファンでして、彼の提唱する「分人」という考え方にも共感する部分が大きいのですが、その話はまた、改めて。