書評 「驚きの介護民俗学」

2014.07.21

弊社サービスを作るうえで、参考にさせていただいている本があります。

六車由美「驚きの介護民俗学」。2012年に出た本です。


 

『神、人を喰う』でサントリー学芸賞を受賞した気鋭の民俗学者は、あるとき大学をやめ、老人ホームで働きはじめる。そこで流しのバイオリン弾き、蚕の鑑別嬢、山中を渡り歩く電線作業員、郵便局の電話交換手ら、「忘れられた日本人」たちの語りに身を委ねていると、やがて目の前に新しい世界が開けてきた……。「事実を聞く」という行為がなぜ人を力づけるのか。聞き書きの圧倒的な可能性を活写し、高齢者ケアを革新する話題の書。

元民俗学者が、介護の現場でお年寄りを相手に聞き書きを通して見つけたことをまとめた本です。

民俗学として、今まで老人ホームに入っているお年寄りに対してのアプローチはほとんどなかったため、
民俗学の領域で驚きをもって受け止められたようです。

また介護の現場に対しても、回想療法の問題点や、一人一人に寄り添うケアができていないことなど、
個人の経験からくる鋭い問題指摘がなされており、大変参考になります。

この本は、元民俗学者が介護の現場に入り、そこで民俗学の「聞き書き」という手法を用いて一人ひとりの人生に向き合っていく。
それによって、介護というもののありようにも問題を提起していく。

かつ、それだけではなく個別の人生を浮かび上がらせ、年をとるということや、
老いて住んでいた場所や家族から離れて暮らすことがどういうことなのかを考えさせてくれる。
学術書や実用書の域を超えた、人生のありようについて考えさせられる超上質のノンフィクションだと思います。

私が何よりも学び、今でもサービスに反映させているのが、「一人一人のお話、そのものに向き合う」ということです。

本の中で、筆者は介護で求められる「傾聴」に対して異議を唱えています。
いわく、介護の模範とされている傾聴は、「言葉だけを聞くのではなくて、聴いているということを非言語的に伝えることを含んでいる」。

そして、そうした態度によって、「言葉の中に隠された利用者の気持ち、思い、心の動き」を「察する」ことを目的としている、と指摘しています。

そして筆者は「利用者の気持ち、思い、心の動きはそう簡単に察することができるのだろうか。そもそも、利用者はそうした「隠された気持ち」を深読みしてほしいのだろうか」と問題提起しています。
初めてこの文章を読んだときに、衝撃を受けました。
弊社のサービスにおいても傾聴をベースにしており、相手の心理的な裏付けや背景を考えながら、それをより深く理解すべく、
話を聞いてくことを実践しています。

しかし、それに偏りすぎて、「察してあげる」ような上から目線のサービスになっていないか?
むしろ、一人の尊敬すべき方の貴重なお話を正面からその中身だけを受けようとする姿勢が大事なのではないか?

弊社は、「お年寄り扱い」をしないような教育、哲学を持ってきたと自負しておりますが、その観点での行動の徹底のためにはどのような聞き方をすべきなのか。

弊社サービスにおいて、まず重要なのは話の内容を正しいものとして受け止め、話に興味を持つこと。
ご家族への報告のためにそれを整理したり背景を考えるのは、その後のこと。
筆者が言うように、常に「驚き」を持って相手の話を聞くこと。

そんなことを心がけるようにしています。

また、何より行間からあふれてくる、筆者の高齢者の方に対する深い尊敬の念。
我々も、これを強く持って、サービスを展開していきたいと考えております。