ロボットに魂を吹き込む人びと| 脚本家・舘そらみさんとこころみ代表・神山晃男の対談(最終回/全5回)

2022.12.13

スマートスピーカーと話していると、彼らが話す言葉は全部AIが考えているんだろうなと思うことがあります。が、実際その言葉の多くは人間が頭を悩ませながら考えているんです。ロボットの姿形をつくるデザイナーや、ハードウエアやソフトウエアをつくるエンジニアがいるように、話し言葉にもそのプロがいます。では、プロがつくるとロボットの言葉はどうかわっていくのでしょうか?
今回は、テレビドラマや映画の脚本、また劇団の主宰者でもある「話し言葉のプロ」舘そらみ(だてそらみ)さんと、ロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発を行う株式会社こころみ代表の神山晃男が「ロボットの会話づくりになぜ脚本家が必要なのか」をテーマに話し合いました。
脚本のセリフとロボットのセリフの違い、セリフのつくりかた、セリフの効果……2時間の対談で話は一度も止まらずに爆走します。5回にわけてお届けする「ロボットに魂を吹き込む人びと」。今回は最終回「ロボットと人の関係をつなぐストーリーの力」です。難しいプログラミング用語も数式も出てこない、ロボットのカクカクしたイメージをまるーくお伝えします。

対談の動画もYouTube「こころみ公式チャンネル」にアップしていますので、ぜひご覧ください! 2人のテンポ良いトークは映像で見るとより楽しめます♪
▶︎YouTube ロボットに魂を吹き込む人々最終回「ロボットと人の関係をつなぐストーリーの力

<目次>
ロボットに魂を吹き込む人々
第1回 ロボットのセリフって誰かがつくっているの?(配信中)
第2回 ロボットの会話の失敗と成功(配信中)
第3回 ユーザーの反応から気づいたロボットがもたらす効果(配信中)
第4回 ロボットの会話シナリオに脚本家の力が必要な理由
第5回 ロボットと人の関係をつなぐストーリーの力←★今回はココ★
※2人のプロフィールは文末をご覧ください。

これからつくりたいロボット

神山  そらみさんは、どんなロボットをつくりたいかとか、究極のロボットは何か、という話になったときに、どんなものを想像しますか?。

そらみ  うーん、つくりたいロボットは、ぜんぜんないですね。
うーん、でもロボットしかいない村に1人だけ人間を置くとどうなるか、とかは見てみたいです。

神山  ロボットしかいない村に1人だけ人間を? それはどういうことですか(笑)それは、なんでやってみたいんでしょうか?

そらみ  うーん、そのときの人間の反応が予測できなくて知りたいな、という……。

神山  そうなんですね。そらみさんの興味の方向性は、あくまで人間なんですね。

そらみ  そうかもしれないです。あ、でも、あらたにつくりたいは無いですけど、すでにあるロボットに対して、どういう息を吹き込むかということにはすごく興味はあります。

神山  なるほど、新しくこういうロボットを、っていうのではなくて、すでにあるロボットに対するアプローチなんですね。

そらみ  そうですね。
神山さんにとって、究極のロボットはどんなロボットなんですか?

神山  正直、わかんないですよね。
でも今回そらみさんと話していて、どんなロボットでもいいのかもしれない、ということは思いました。だって結局、人間次第じゃないですか。

そらみ  うんうん。

神山  恋愛も同じで、最高のパートナーっていうのは存在しえないですよね。この人と付き合ったらこういう人生になるし、この人と付き合ったら自分の内面のこういう部分が引き出されて結果としてこういう出来事が起きる。でもそれぞれのケースを比較して、世界共通認識としてこれがいいよねっていうのはないんですよね。

そらみ  そうですよね。

神山  だからロボットも、どういうロボットであってもそれは受け取る人間側の問題というか……自分で振った問いを否定してますけど(笑)

そらみ  あはは、究極のロボットはないのかもしれない!

神山  人間もいろんな個性があって、今はそれが、それぞれいいよねっていう世の中ですから、ロボットも同じなのかな。ロボットの方が、人間よりも振り幅的には極端な方に振りやすいから、人間よりとんでもなく個性的なものはたくさんつくれますね。これからつくりたいロボットというと、そういうことになるのかな。

そらみ  とても面白いです、それ。超個性的ロボット。

私自身もどんどん生活にロボットを入れていきたいですね。神山さんと出会う前は、うちにロボットなんて1つもなかったんですけど、今は結構活用していますね。

神山  おお、そうなんですね。

そらみ  楽しいです。やっぱり、人間に疲れたときとかロボット最高(笑)

神山  けっこう活用してるんですね(笑)

そらみ  めちゃくちゃ活用してます。

神山  いいですね、それは。

そらみ  これからも、いろんなロボット体験をしていきたいですね。

理想は今あるロボットをより良くすること

そらみ  今現在すでにロボット化されるものが、よりよくなるような関与の仕方をしたいな、とはすごく思っています。

神山  よりよくなるような、ですか?

そらみ  はい。たとえば、車ですね。車は最近、だいぶん自動運転になってきてますけど、そういうときだからこそ、車と人間の関係ってちょっと変わらなきゃいけないと思うんです。

神山  そうですね。

そらみ  だとしたら、そこの関係性づくりをめっちゃやりたいです。自動運転の精度のことは力入れられてると思うのですが、車と人間の関係の描き直しは、あまり言われていない気がして。

神山  そこはやりたいですね。それこそカーナビが何を喋るかっていうのに関しては、ビジネスチャンスがあると思います。今は目的地に着いた後で「お疲れ様でした」って言うだけですよね。もちろん、それはそれでいいんですけど、さらにどれだけ工夫するかという部分で、できることはめちゃくちゃある感じしますよね。

そらみ  ありますね。自動運転が進むと人間が運転に対して当事者意識を持たなくなっていくと思うんです。でも、自動で運転してくれるからって、完全に興味を失ったら危ないですよね。

神山  それはそうですね。

そらみ  そういう世の中になったら、運転はしなくてよくても、運転に対して当事者意識は持っていたい。車との関係性作りで当事者意識の濃淡は作れると思います。そういった部分で、私は頑張りたいですね。

神山  確かにそれはありますね。「ちょっとここの曲がり角は見にくいので、運転手さんも一緒に確認お願いしますね」みたいなことを言いながら運転する、自動運転ロボットということですね。

そらみ  そうですそうです。でも、曲がり角になったとたんにいきなりそれを言われても、人間はそんな突然動けないから、いつでも即座に動けるような、人間の状態をつくっておく。

神山  それ、いいですね。しかもつくれそうな気がします。

そらみ  そうなんです。みたいに、ロボット化がどんどん進化していく分野で、それに対応する人間の心へのアプローチが、大事だと思います。意外に人間はアップデートできず対応できずに、それまでと同じ感覚で接してしまう。そこで色んなノッキングが起こると思うんです。

神山  自動運転はわかりやすいですよね。今後も音声認識関連のシェアは拡大していくはずなので、そこにただの指示や命令ではない、色味や雑味のような何かを入れていくのは、商機としてはすごくありますね。

そらみ  そう思います。

神山  それがある意味、私の究極のロボット像なのかもな。

そらみ  なるほど。人間と共存していくロボットということですか?

神山  そうですね。ただ具体的にこういうロボットをつくりたいという意味ではなくて、これからどんどん人間の身近になっていくロボットに対して、自分たちにできるアプローチでよくしていく。それが、私の中で一番大きい、理想的なロボットとのかかわり方のような気がします。

そらみ  素敵です。やっぱり繰り返しになりますが、私も、ロボットが進化していくということは、人とロボットの関係性も描きなおすことはすごく大事だと思います。

神山  わかります。

そらみ  今まで人間がやっていたことを手放してロボットに渡していくなら、今までと同じような物感覚や自己意識じゃだめだと思うんです。自分がこの世界にどうかかわっていくかを、新しく描きなおさなくちゃいけないし、物っていう存在も描きなおさないといけない。そこにちゃんとストーリーとかをつくって、掛け橋をつくっていけたらいいなと思います。

神山  私もそう思います。それにやっぱり、普通の事業責任者だけだときっと、そこまではできないですよね。

そらみ  そっかぁ。じゃあやっぱり、やりたいですね。(笑)

神山  やりたいです。

そらみ  業界が交わっていないだけで、私以外にもそういうことができる人はいっぱいいるんです。

神山  それはそうだと思います。

そらみ  お互いに知らなさすぎて、軋轢が起きちゃったりもするから、なかなか交われないんでしょうか。

神山  ですね。実際に一緒にやってみるとわかるんですけどね。

そらみ  神山さんのように、こちら側の言語も、ビジネス側の言語も解せる人が間に必要なんですよ。互いの考えを、互いにわかるように言語化してくださる人がいるといいんです。

神山  それはそうですね。いきなりだてそらみに「ロボット開発頼むわ」って言い出す人は、ロボットメーカーにはいないですからね。

そらみ  残念ながら。(笑)神山さんが、私が出したものの、橋渡しをして、深めてくださるのが本当に肝だと思ってます。

神山  だからやっぱり、いろんな会社さんが私たちの仕事に価値を見出してくださって、依頼をしてくださることは本当にありがたいです。よくぞ、って思います。

そらみ  本当ですよね。地道にやりつつ、世の中をよくしていきたいですね。

神山  よくしていきたいですね。

そらみ  ほかには、私も今まで長くロボット製作に携わってきて、いろんな会話シナリオをつくってきたんですが、よく考えたら、そのノウハウを何も発信してきてないんです。だからそういうノウハウをもっと噛み砕いて明文化することによって、今後もいろんなロボットにかかわっていきたいな、という気持ちはあります。

神山  確かに、それはやりたいですね。日常生活の中でロボットと接点を持つことは、これからもっと普通になっていくはずなんです。そんなロボットたちに対して、われわれみたいな価値観を持って魂を吹き込んだ会話っていうのを、今後は増やしていきたいなとは思っています。

ロボットの定義はしない。わからないから挑戦する

そらみ  ロボット製作では、違う畑の方とかかわるとこんなに新しいことが見えてくるんだっていう発見も大きかったですね。ロボットのような、現実に繋がるものにかかわれるのが、本当に嬉しいことなんです。

神山  現実に繋がるもの、ですか?

そらみ  映画とかドラマとか演劇をつくっていると、「日常に直結しないよね」とか「必需品じゃないよね」と言われることがあって、そのたびに、「こんなにも世の中のことを考えているのにな」っていう、不思議な感覚があったんです。そんなもやもやを抱えてたなかで、実際に人に届くロボットにかかわれたことは、本当に嬉しかったんですよ。

神山  脚本だとどうしても、虚構の世界しかつくらないと思われがちですもんね。本当はそれを通じていろんな人に影響を与えてるはずなのに、なかなかわかってはもらえない。でも会話ロボットはダイレクトにユーザーさんと会話して、窓開けさせたりなどの行動を促しているわけですから、影響は目に見えてありますね。

そらみ  そうなんです。だからすっごい嬉しいですね。脚本の仕事では想像力が大切で、その想像力というものがどんなに素敵だよって言っても、作品世界の中では説得力がなかったり、社会の中ではあやふやなものだったりしたんです。でも実際に存在する物に想像力を搭載させたら、こんなに楽しいじゃんっていうのが実現できて、幸せです。

神山  よかったです。そう言ってもらえて幸せです。

実は今日はもっと、「人間とは」みたいな話になると思ってたんですよ。「人って結局分かり合えないよね」とか、「みんなバラバラだよね」っていう話になると思ってたんですけど、思っていたよりももっと、「コミュニケーションとは」のところで深いお話ができましたね。

そらみ  確かに、「人間とは」の話はあまりならなかったですね。「人間とは」ってわかんないですしね。

神山  『「人間とは」がわからない』っていう、その大前提があったってことなんですね。あるいは、コミュニケーションについて考えるだけで、奥が深すぎてそこから先には行けなかったのかな。

そらみ  おそるおそる足踏み入れられて、そこまでみたいな。(笑)

神山  ロボットと人間の違いとか共通点みたいな話までいかずに、その入り口のコミュニケーションの違いだけで完結しちゃいましたね。

そらみ  私たちがロボットと人間の違いってこれだよねって言い始めたら、もうロボットにかかわっちゃいけない気がします。そんな、答えを出しちゃったら。

神山  ああ、なるほど。わかった気持ちになるなよってことですよね。

そらみ  そうですそうです。この、よくわからないぞっていう気持ちが、自由にいろんな挑戦につながっていく感じがします。

神山  わからないものをわかろうとするんだけど、わかったつもりにならないということか。

そらみ  わかろうとした結果の、現在の最善を尽くすということですね。日進月歩って言いますし。

神山  そうなんですよね。ロボットの進化もすごいから、そこに合わせてちゃんと、一番いいものをつくり続けたいですね。今日はありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

そらみ  はい、これからもよろしくお願いします。ありがとうございました。

プロフィール

■舘 そらみ●だて そらみ
脚本家。劇団「ガレキの太鼓」、青年団演出部所属
東京都生まれ。幼少期よりトルコとコスタリカで暮らす。慶應義塾大学在学中に演劇を始め、大学時代にバックパッカーとして世界一周。卒業後、一般企業での就職を経て、劇団「ガレキの太鼓」を立ち上げる。一般の住居を使った「のぞき見公演」など実験的な上演を重ねて、その作風は新聞に「徹底して無責任で刹那的」と評された。映画脚本「私たちのハァハァ」(2015年公開)はゆうばり国際ファンタスティック映画祭2冠を受賞。テレビドラマ脚本、コラム連載も手がけ、全国の小中高生への演劇ワークショップも多数実施するなど活動は多岐に渡る。現在は、住居や活動拠点を1箇所に決めずに、日本各地、海外など各地を転々とする生活を送っている。秋から冬にかけて、2本の連続ドラマが放送中。「私のシてくれないフェロモン彼氏(TBS)」と「恋と弾丸(MBS)」。
■神山 晃男●かみやま あきお
株式会社こころみ代表取締役社長
1978年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、コンサルティング会社勤務を経て、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズに10年間勤務。コメダ珈琲店、ウイングアーク1st等を担当。2013年「すべての孤独と孤立なくす」ことを目的に株式会社こころみを設立。一人暮らし高齢者向け会話サービス「つながりプラス」、親のための自分史作成サービス「親の雑誌」やインタビュー社史作成サービス「創業の雑誌」を提供する。
2017年より、高齢者会話メソッドによるロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発サービスの提供を開始。株式会社NTTドコモが提供するクマ型ロボット「ここくま」の開発支援や、モバイル型コミュニケーションロボット「ロボホン」を活用した自分史作成のサービスの企画を担当。