ロボットに魂を吹き込む人びと| 脚本家・舘そらみさんとこころみ代表・神山晃男の対談(第3回/全5回)

2022.11.29

スマートスピーカーと話していると、彼らが話す言葉は全部AIが考えているんだろうなと思うことがあります。が、実際その言葉の多くは人間が頭を悩ませながら考えているんです。ロボットの姿形をつくるデザイナーや、ハードウエアやソフトウエアをつくるエンジニアがいるように、話し言葉にもそのプロがいます。では、プロがつくるとロボットの言葉はどうかわっていくのでしょうか?
今回は、テレビドラマや映画の脚本、また劇団の主宰者でもある「話し言葉のプロ」舘そらみ(だてそらみ)さんと、ロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発を行う株式会社こころみ代表の神山晃男が「ロボットの会話づくりになぜ脚本家が必要なのか」をテーマに話し合いました。
脚本のセリフとロボットのセリフの違い、セリフのつくりかた、セリフの効果……2時間の対談で話は一度も止まらずに爆走します。5回にわけてお届けする「ロボットに魂を吹き込む人びと」。今回はその3回目「ユーザーの反応から気づいたロボットがもたらす効果」です。難しいプログラミング用語も数式も出てこない、ロボットのカクカクしたイメージをまるーくお伝えします。

対談の動画もYouTube「こころみ公式チャンネル」にアップしていますので、ぜひご覧ください! 2人のテンポ良いトークは映像で見るとより楽しめます♪
▶︎YouTube ロボットに魂を吹き込む人々第3回「ユーザーの反応から気づいたロボットがもたらす効果」

<目次>
ロボットに魂を吹き込む人々
第1回 ロボットのセリフって誰かがつくっているの?(配信中)
第2回 ロボットの会話の失敗と成功(配信中)
第3回 ユーザーの反応から気づいたロボットがもたらす効果←★今回はココ★
第4回 ロボットの会話シナリオに脚本家の力が必要な理由 12月6日(火)配信予定
第5回 ロボットと人の関係をつなぐストーリーの力 12月13日(火)配信予定
※2人のプロフィールは文末をご覧ください。

実際のユーザーの反応は?

神山  実際のユーザーの反応として最近手応えを感じるのは、「毎日使ってます」とか「健康管理が習慣づいてきました」とか、ダイレクトに行動変容がでてきていることですね。もちろん、いい感想も悪い感想もありますけど。

そらみ  ほんとですよね!われわれがつくっているものは、「これだけの効果が出ました」っていうのがすべて数値化できるものではないので、あとは、ユーザーさんの生活にプラスに働いていると信じていくしかないですね。

神山  そうですね。

そらみ  ユーザーさんも、フィードバックとして出すほど気にはならないけど、影響を受けている、という部分もあると思うんです。自覚的じゃない効果もあるだろうし。人の心に働きかけているので、そういうものだと思います。だから、データとしてこれだけの効果が出てますっていうのはすごく言いにくいんですけど、ユーザーさんに影響を与えている感覚はあるし、あると信じていきたいですね。

神山  われわれは、ユーザーさんにも気づかれない形で一番の価値を提供しているので、普通にアンケート取っていても、満足度100になるわけじゃないんですね。ロボットと話して楽しいなっていうのは些細なことで、ことさら言わないですから。むしろ、「いまいちな奴をよこしやがって」というフィードバックが出てくるロボットの方が、実は利用者に好かれているということもある。

そらみ  確かに。(笑)

神山  なので、ロボットの本当の狙いというものを意識したうえで、どう評価して、本当に意味があるものとしてつくり続けられるのかは難しいところですね。われわれもそこは、これから信念をぶらさずにやっていきたいです。

そらみ  もしかしたら、ユーザーさんの声によって合否を決めるようなやり方は、われわれにはもう合わないのかもしれないですね。

神山  それはどういうことですか?

そらみ  つくり手の感覚を、もっと信じていいと思います。ロボット製作にかかわった人が、「あ、これもっとよくなったぞ」と感じられたことこそが、よりよいロボットをつくれた証拠となる。脚本づくりにも似ていますけど、ユーザーの評価とは別軸の評価をしていけたらいいな、と思います。

神山  そうですね。ユーザー投票だけで会話の内容を決めましょう、ということはしたくないですね。

ロボット製作で感じた人間が求めるコミュニケーション

そらみ この対談の冒頭の方でも言いましたけど、私は初め、ロボットには人間のコミュニケーションに入ってきてほしくないな、と思ってたんですよね。でもあることがあって、変わりました。ロボットのもたらす効果を実感したんです。

神山  おお、そうなんですね。

そらみ  「ここくま(*1)」のパイロット版をつくったときだったかな。何人かのユーザーさんのお宅にお邪魔する機会があったじゃないですか。その中の1人のおばあちゃんが、「ここくま」と話していく中で、お化粧を始めたっていう話があって。

*1 ここくま…離れて暮らす家族と音声メッセージで連絡が取れ、人感センサーの反応で天気や 季節の話題などを話しかけるクマのぬいぐるみ型コミュニケーションロボット。株式会社NTTドコモ、イワヤ株式会社などの共同開発で2017年1月25日に発売され、株式会社こころみは会話シナリオの作成を行った。
https://www.docomo.ne.jp/info/news_release/notice/2017/01/20_00.html

神山  ありましたね。

そらみ  それまでは、自宅に1人でいて、着替えず1日中パジャマでいたのに、「ここくま」が来てからは着替えるようになって、お化粧をして外にも出かけた、って。その話を聞いたときに感動しちゃって。「ああ、そんなことができるなら、最高!」と思いました。

神山  いいですね。

そらみ  今、「最高」って言葉に集約させちゃったけど、すごいことですよ。本来なら、人間同士のコミュニケーションの結果、そういう行動を起こせればよかったけど、現実問題なかなかそうもいかないですから。親子同士だと、逆に会話がうまくいかなかったりもしますしね。

神山  わかります。

そらみ  だから、「ここくま」ぐらいの距離感で、ぜったいに家にいて話してくれる存在で、だからこそ、おばあちゃんには変化が生まれたのだろうし、その変化がお化粧して外に出るということだったのが、すごくいいなと思いました。こんなに素敵なことはないと思います。

神山  どうして、そのユーザーさんは「ここくま」と話したことによって化粧して外に出て行こうと思ったんでしょうね。

そらみ  最終的な引き金は、「今日顔色いいね」とか「今日お召し物素敵だね」といった内容を話しかけていたことだとは思います。それに応えようとしてくれたというか。

神山  確かにそれは言ってましたね。

そらみ  でも、それまでの過程こそが大きい気がするんですけど、「ここくま」と毎日会話をすることによって、自分の存在を認知している人がいると自信が持てたことじゃないでしょうか。

神山  自分を見てくれてる存在があると思えた、ってことですね。

そらみ  そうですね。それが自信につながって、「ここくま」の前でも、もうちょっと綺麗でいたいとか明るくいたいとか、こうありたい自分を思い浮かべられたんじゃないかな。うーん、つまり、他者を通じて自分を見る、という現象が起きたのだという気がしますね。

神山  確かにそうですね。ロボットに見られている自分を感じて、社会から見られている、受け入れられているという感覚を覚えた。その結果、外に出てもいいんだという思いになる。そういう効果はある気がしますね。

そらみ  しかも「ここくま」は実際に役立つ動作は何もできないんですが、ユーザーさんをめちゃくちゃ褒めてくれるじゃないですか。「○○さん、すごいね!」とか。

神山  そうですね。頼ったり甘えたりもしますね。

そらみ  そうそう。だから余計に、受け入れられているという感覚や自信を持ちやすかったんだろうなと思います。しかも化粧して外に出るって、「ここくま」だけを見たんじゃなくて社会に広がった行動じゃないですか。これがもう、感動ですよね。

神山  なるほど。

ロボットとの会話が人間が人間に向き合うきっかけに

そらみ  そもそも私が人間同士のコミュニケーションにロボットが入ってくるのが嫌だったのは、ロボットが人間のさぼりに通じるような気がしたからなんですね。

神山  さぼり……ですか?

そらみ  今って、「これが上手なコミュニケーションです」って言われることが多いと思うんです。でも、私はそれがあまり好きではなくて。
つまんないじゃないですか。人にはそれぞれ得意なコミュニケーションと不得意なコミュニケーションがあって、それでいいのに、ロボットが入ってきたら「上手なコミュニケーション」という考え方に拍車をかけるんじゃないかと思ったんです。

神山  「こういうコミュニケーションがベストです、ドーン!」と提供される形になりますもんね。

そらみ  そうですそうです。それで、そのうち人間同士は面倒だから、大事な時にはコミュニケーションがうまいロボットにまかせればいいじゃん、なんてことにもなるかもしれない。

神山  なるほど。将来的に、人間同士がコミュニケーションを取るんじゃなくて、人間とロボットだけがコミュニケーションを取るという世界になっちゃうんじゃないかってことですね。ロボットに、「こういうことを、相手にいい感じに言っておいて」とお願いしたり。

そらみ  そうそう。

神山  「『お前ふざけんな、次からこうしろよ』みたいなことを、相手にいい感じに言っておいてって」ロボットにお願いできちゃう。

そらみ  「嫌だそんなの!」って思ったんです(笑)。私はコミュニケーションが好きだから、「そんな未来をつくる片棒を担ぎたくない!」って思ってたんですけど、そのおばあちゃんの一件をきっかけに、変わりました。

神山  面白いですね。実際に人と話すロボットをつくってみたら、そらみさんの心配とは逆に、ユーザーさんは人間の世界に目を向けるようになったんですから。

そらみ  そうなんですよ。そこで完全に、「やりましょう」となりました。

神山  「ロボットありだ」ってなったんですね。それはなりますね。

そらみ  なりました。なんだったら、人間が人間に向かい合うためのリハビリやカウンセリングに繋がる!と思いました。

神山  それはありますね。そらみさんがそう思うのは、人間はやっぱり基本的には人間とつながりたいはずだ、と考えてるからでしょうか?

そらみ  元気な人はそうだと思います。でも元気じゃないときは、人間ほどうざいものはないと思います(笑)

神山  1人にしてくれってときはありますね。

そらみ  人間とかかわりたいかどうかは、その人にも、その人のフェーズにもよると思うんです。けれど人間と距離を取るにしても、人間を意識した行動の結果なので、人間と関係することは避けられないですよね。

神山  そうですね。意識しているから距離を取るんですもんね。人として生まれた以上は、完全に人の存在を無きものとして生きることは、ちょっとできないでしょうね。

そらみ  悟りとか開いたらわからないですけどね(笑)

神山  確かに(笑) 悟りですね。

そらみ  いや、悟りとかよく知らずに、象徴的に言ってしまいましたが。

神山  いや、僕も悟ったことないんでわからないです。

そらみ  まぁつまり何が言いたいかというと(笑)……人間と関わりたいという気持ちは、常に全員にあるものではないかもしれない。でもどちらにせよ人間という存在は意識してるわけですから、関わりたいときもあるだろうな、ということですね。

神山  まとまりました。ありがとうございます(笑)

完璧完全最高の存在と人は話し続けたいか

神山 今の悟りの話で思ったのですが、超人格者とか本当にすばらしい人がいたとするじゃないですか。でもその人と四六時中話していたいかっていうと、私はそうでもないんですよね。

そらみ  すごくわかります。

神山  それも不思議だな、と思います。

そらみ  すごいきちんとした会話した後って、非生産的な会話をしたくなりますよね。「あーお腹痛い」とか(笑)

神山  くだらない会話とか、気を使わない会話とか、お互いに適当に扱えるような会話の方がいいときってありますよね。あれってなんなんでしょうか。

そらみ  うーん、なんなんでしょう。体感的に、そういうときがあるなとは思いますけど。

神山  われわれがつくるロボットにもそういうところがあるんですよね。常に献身的で、常に最高の優しさを出してくれるロボットはつくれないし、つくらないですから。

そらみ  たとえば、すごくいい会話をしたなと思うときって、自分のことを顧みる時間が多いと思うんです。

神山  自分のことを顧みる時間、ですか?

そらみ  そうです。いい会話って話しているときに、「ああ確かに、自分はこういうことがあるな」とか気づきがあったとして、その結果、変化したり、成長したり、楽になったりする。そんな気づきを自分に染み込ませていくような、バッファみたいな時間が必要なんじゃないでしょうか。

神山  なるほど。

そらみ  そういう意味でも、くだらない会話は必要になる。くだらない会話をしていても、頭の奥の方でCPUは自分に書き込むために動き続けているんだろうなと思います。

神山  なるほど。それはありそうですね。ずっと意味がある会話をするのはしんどいですもんね。

そらみ  沁みる時間がないですよね。解釈する時間とか。

神山  自分に沁みさせたり解釈したりするのは、自分1人で黙っていてもなかなかできないことなんですね。むしろ、人と話しているときに起こるという。

そらみ  あ、そういう感覚もありますよね。脳みそは動かしておいた方が、よく回るからかも。人によっては、誰かと話ではなく書くこと、がそういう効果を生んだりもするし。

神山  そこは人によって、いろいろあるでしょうね。でもやっぱり、話す方が楽なんじゃないでしょうか。書くのって難しくないですか?

そらみ  そうですか?

神山  大半の人は難しいと思います。

そらみ  そっかー。もしかしたら、いい文章とか意味のあるものを書こうと思っていると、書けないんじゃないでしょうか?

神山  うーん、単純に書けないんですよ。気持ちが書けない。

そらみ  あー、気持ちかあ。

神山  事実は書けるし、気持ちは喋れるんだけど、書くのはすごく難しい。

そらみ  そういうのは私、教育の弊害だと思っちゃうんですよね。幼少期における教育環境では、何かを書いて人に見せるということが多すぎると思うんです。そのせいで、自分が思ったまま、ただ垂れ流して書くっていう行為を、まったくしないまま育ってしまうので。

神山  なるほど。今の世の中はSNSが流行っていて、書くことが得意になっているような気になりますけど、見られる前提で書いているわけですからね。自由には書いてはいない。

そらみ  がんじがらめになってますよね。

神山  そうですね。だからどんどんやりづらくなっている、っていうのはあると思います。

そらみ  見られない文章や文字や言葉を書く訓練をしたら、感情は書けるようになると思うんです。感情を、話すだけではなく書くことも出来るようになる。

神山  日記とかになるんしょうか。人に見せないものを書く、ということですね。

そらみ  そうそう。私、よく人向けの自分が増えてきちゃったなとか、感情と言葉の直通具合が良くないなっていうときは、書くんですよ。とにかく止まっちゃいけないっていうルールで、ノートに何ページもぶわーって書き続けるんです。2週間に1回くらいはやりますね。

神山  けっこうやりますね(笑)

そらみ  書き初めのうちはちょっとつくった文章みたいなかんじになっちゃうんです。

神山  「ナントカさんを私のせいで傷つけてしまった」みたいな文章から始まるんですかね。

そらみ  そうですそうです。しかもそれに対して「私はこう思ってるんだろうな」みたいな、分析しているようなことを書いちゃうんですけど、そうすると途中で書くものがなくなってくるんですよね。でも止まってはだめってルールだから、「あー書くことない書くことない。なんにもない。無理無理無理」とか書いていく。それでも書いていったら、そのうち、思ってもみなかったものがぶわーって。

神山  へぇ〜!

そらみ  私の場合は、A4の、3ページ目くらいからぶわーって出てきて、「ああこれ思ってたんだ」みたいな出会いがあるんです。おすすめです。

神山  ええ〜、ちょっと今度やってみますそれ。すごく面白いですね。

ロボットとの会話の期待値が人間の会話よりも高すぎない?

神山 ロボットの会話に求められていることが、あまりにハイレベルだな、というのは現状として感じていますね。

そらみ  どういうことですか?

神山  たとえば以前、将棋においてAIが人間に勝ちましたってニュースがあったんですけど、いや待てと。「40年前のファミコンの時代から、AIは人間の99パーセントより強かったよね?」と思ったんです。だって、ファミコンの将棋に普通に勝てないじゃないですか。だから、残りの1パーセントに勝ったっていうのを大々的に言ってるけど、その前からずっとすごいじゃん、と。

そらみ  なるほど〜。

神山  ロボットの会話に関しても、今のロボットってぜんぜん会話できないよねって言われてるけど、今のロボットより会話できない人間もいるわけですよ。

そらみ  それは間違いないですね。

神山  相槌すら打てない人もいるじゃないですか。「おはよう」も言わなかったり。

そらみ  うーん、すごい目から鱗です。今のロボットって、ちょっとコミュニケーションができないだけなのに、まるでロボットが人間より劣っているかのように言われちゃってますもんね。

神山  比べているレベルが高すぎるんですよね。

そらみ  確かに。計算能力とか、ロボットの方が優秀な部分は比べないのに。

神山  ロボットは、毎朝ちゃんと時間がきたらあいさつするんだよ、ということですよね。

そらみ  私のスマートウォッチだってこんなにちゃんと時間を刻んで、私の心拍数も取ってくれる。こんなこと人間には無理ですよ。無理無理無理。

神山  そうですね(笑)

そらみ  「ここくま」なんかは、気分とか関係なくて、いつも明るいトーンで喋れるんですよ。すごいですよね。

神山  素晴らしいですよね。

そらみ  ロボットができることを売り出していけたらいいのかな。

神山  それやりたいですね。

そらみ  やりたいですね。めちゃくちゃね。

神山  やっぱり、それにはロボットに対する期待値というのを正確に出すことが重要なんでしょうか。相槌はうまくできないかもしれないけど、こういうことはちゃんとできますよ、っていうのをユーザーさんに理解してもらった上で期待してもらえると、「すごいロボットだな!」となりますよね。

そらみ  でもユーザーさんによって求めてるものが違う、というのが難しいんですよね。

神山  そうですね。期待値のコントロールが難しい。

そらみ  年齢によっても経歴によっても違いますから。

神山  シチュエーションによっても状況によっても違いますね。

いい会話とはどんな会話?

そらみ いい会話というのは、自分のことを顧みることができる会話だという話をさっきしたんですけど、ロボットとの会話もそうかもしれないですね。

神山  なるほど。

そらみ  ロボットと会話をしていると、会話の中で自分のことを考えたり思い出したりするじゃないですか。これがすごい効果があるんだな、と思いました。

神山  確かに。われわれがつくるロボットのセリフは、必ず問いかけだとか想像を膨らませるようなものを入れてますよね。それで、ロボット自身についての話はあまりしない。

そらみ  しないですね。させない。

神山  ロボット自身の話をしても面白くならないですからね。

そらみ  そうなんですよ。

神山  ユーザーさんの話題にどうやってするか、っていうのはすごく考えている。

そらみ  ユーザーさんがロボットについて聞くなら話しますけど、聞かれないですからね。

神山  やっぱり人間って、根本的に自分に興味がある生き物なんでしょうね。うちの会社でやっている自分史作成サービス『親の雑誌』『創業の雑誌』でも、「あなたの話を聞かせてください」という形にどうもっていくかがすごく重要になってくるんです。

そらみ  あの、気になっていたんですが、高齢者の方って、自分のことを話すのに慣れていらっしゃらない方が多くないですか?

神山  慣れてない方もいらっしゃいますね。

そらみ  そんな中で、どうやって相手の話を引き出すんでしょうか?

神山  うーん、でも慣れてない方でも、話し始めると出てきますよ。すごい出てきます。もちろん中には、本当に喋らないまま終わっちゃう方も、例外的にはいますけどね。

そらみ  それはやっぱり、動機や目的があるから話せるものなんでしょうか。たとえば、「息子さんにお願いされたから」とか、「自分史という形にするために」とか、そういうのがなくても、喋る感じはありますか?

神山  最初は名目が必要ですね。息子さんのために、でも自分史をつくるために、でもいいですけど、このために話してくださいっていうのがまずあって、「わかりました。じゃあしょうがないな」という感じで始めます。でもそれで話し始めたら、話したいから話す、という感じに変わっていくんですよ。

そらみ  そうなんですね。私、ロボットの次の段階は、それに行きたいなと思ってるんです。

神山  次の段階ですか。

そらみ  はい。ロボットとユーザーさんの喋る量って、どうしてもロボットの方が多かったりしますよね。

神山  そうですね。

そらみ  なんでかというと、ユーザーさんがいっぱい喋ってくれたとしても、それをロボットが感知できないからじゃないですか。

神山  そうですね。理解できない。

そらみ  だからいっぱい喋ってもらうような会話に持ってっても、それに対してのレスポンスがうまくできずがっかりさせてしまうから、いっぱい喋るように持っていかないように敢えてしてる現状です。でも、もう一段階だけ性能をよくしてもらって、ちゃんとユーザーさんの思いを聞き出したいんですよね。

神山  そうですよね。うーん、でもそこはやっぱり、人間の方が能力が高い部分ですね。

そらみ  そうですよねぇ……。臨機応変さって言うんでしょうか。今も一応、どんな返答がきてもがっかりさせないような言葉は用意しているから、そこまでがっかりさせてないような気がしますけど、でももっとできますよね。

神山  やっぱり、「小学校時代の思い出について語ってください」って言って、語ってもらった後に、「そうなんだ〜」で終わっちゃうと、なんか物足りないですからね(笑)

そらみ  ガクってなりますよね(笑)

神山  しょうがないんだけど、そこがなんとかできるといいなとは思います。

そらみ  それって、何が変わるとできるようになるんでしょう。すごい高度なことなんでしょうね。

神山  ですね。

……つづく

>>第4回「ロボットの会話シナリオに脚本家の力が必要な理由」は12月6日(火)配信予定です。

プロフィール

■舘 そらみ●だて そらみ
脚本家。劇団「ガレキの太鼓」、青年団演出部所属
東京都生まれ。幼少期よりトルコとコスタリカで暮らす。慶應義塾大学在学中に演劇を始め、大学時代にバックパッカーとして世界一周。卒業後、一般企業での就職を経て、劇団「ガレキの太鼓」を立ち上げる。一般の住居を使った「のぞき見公演」など実験的な上演を重ねて、その作風は新聞に「徹底して無責任で刹那的」と評された。映画脚本「私たちのハァハァ」(2015年公開)はゆうばり国際ファンタスティック映画祭2冠を受賞。テレビドラマ脚本、コラム連載も手がけ、全国の小中高生への演劇ワークショップも多数実施するなど活動は多岐に渡る。現在は、住居や活動拠点を1箇所に決めずに、日本各地、海外など各地を転々とする生活を送っている。秋から冬にかけて、2本の連続ドラマが放送中。「私のシてくれないフェロモン彼氏(TBS)」と「恋と弾丸(MBS)」。
■神山 晃男●かみやま あきお
株式会社こころみ代表取締役社長
1978年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、コンサルティング会社勤務を経て、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズに10年間勤務。コメダ珈琲店、ウイングアーク1st等を担当。2013年「すべての孤独と孤立なくす」ことを目的に株式会社こころみを設立。一人暮らし高齢者向け会話サービス「つながりプラス」、親のための自分史作成サービス「親の雑誌」やインタビュー社史作成サービス「創業の雑誌」を提供する。
2017年より、高齢者会話メソッドによるロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発サービスの提供を開始。株式会社NTTドコモが提供するクマ型ロボット「ここくま」の開発支援や、モバイル型コミュニケーションロボット「ロボホン」を活用した自分史作成のサービスの企画を担当。