ロボットに魂を吹き込む人びと| 脚本家・舘そらみさんとこころみ代表・神山晃男の対談(第1回/全5回)

2022.11.17

スマートスピーカーと話していると、彼らが話す言葉は全部AIが考えているんだろうなと思うことがあります。が、実際その言葉の多くは人間が頭を悩ませながら考えているんです。ロボットの姿形をつくるデザイナーや、ハードウエアやソフトウエアをつくるエンジニアがいるように、話し言葉にもそのプロがいます。では、プロがつくるとロボットの言葉はどうかわっていくのでしょうか?
今回は、テレビドラマや映画の脚本、また劇団の主宰者でもある「話し言葉のプロ」舘そらみ(だてそらみ)さんと、ロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発を行う株式会社こころみ代表の神山晃男が「ロボットの会話づくりになぜ脚本家が必要なのか」をテーマに話し合いました。
脚本のセリフとロボットのセリフの違い、セリフのつくりかた、セリフの効果……2時間の対談で話は一度も止まらずに爆走します。5回にわけてお届けする「ロボットに魂を吹き込む人びと」。今回はその1回目「ロボットのセリフって誰がつくっているの?」です。難しいプログラミング用語も数式も出てこない、ロボットのカクカクしたイメージをまるーくお伝えします。

対談の動画もYouTube「こころみ公式チャンネル」にアップしていますので、ぜひご覧ください! 2人のテンポ良いトークは映像で見るとより楽しめます♪
▶︎YouTube ロボットに魂を吹き込む人々第1回「ロボットのセリフって誰かがつくっているの?」

<目次>
ロボットに魂を吹き込む人々
第1回 ロボットのセリフって誰かがつくっているの?←★今回はココ★
第2回 ロボットの会話の失敗と成功 11月22日(火)配信予定
第3回 ユーザーの反応から気づいたロボットがもたらす効果 11月29日(火)配信予定
第4回 ロボットの会話シナリオに脚本家の力が必要な理由 12月6日(火)配信予定
第5回 ロボットと人の関係をつなぐストーリーの力 12月13日(火)配信予定
※2人のプロフィールは文末をご覧ください。

そらみさんとこころみの出会い

神山 「こころみ」は、ロボットをつくる会社に「ロボットが話す言葉をシナリオとして提供する(以下、「ロボットの会話シナリオ」)」というお仕事をしています。舘そらみさんとは、その「ロボットの会話シナリオ」づくりを長くタッグを組んでやらせてもらっているんですよね。
でも、「ロボットの会話シナリオ」の必要性は、企業さんと一緒にロボットの開発をしてくなかで理解されることが多いんです。そこで今日は、ロボットをつくる・つくりたい会社にとって「こころみは、どういう価値を持っているのか、なにができるのか」をお話したいな、と思ってお時間をいただきました。

そらみ はい! よろしくお願いします。

神山 よろしくお願いします。
そらみさんとは、かなり長い間お仕事させてもらっていますね。

そらみ  感覚的には、10年くらい昔からのお付き合い、という感じです。

神山  うん、その感覚はありますね。
こころみは2013年の設立当初からロボットを使った見守りやお話相手というコンセプトがありました。2016年あたりからこの相談をさせてもらっていたので……実際は7、8年前ですかね。

そらみ  そうですね。お互いロボット1年生の、始まりのときから一緒にやらせてもらってるから長い感じがするのかな。

神山  なるほど、わかります!
先ほども言った通り、こころみは、ある会社さんがロボットを作りたいとなったときに、その企画と開発のお手伝いをしています。
キャラクター設定やUI、UXをお客様と一緒に考え、ロボットの会話シナリオをつくるところまでプロデュースしています。その中で、実際にロボットの会話シナリオをつくってもらっているのが、そらみさんなんですね。

そらみ  そうですね。でも私、初めのころって、ロボットは人間の生活にはいらないって思ってたんですよ。人間が好きで、人間同士のコミュニケーションが超面白いと思っていたので。

神山  え、そうなんですか?

そらみ  そうですそうです。でもやってみたら、「うわ、めっちゃ面白い」ってなりました。初めのころと、本当に感覚が変わりましたね。

神山  なるほど。こうやって一緒にロボットの仕事に携わる中で、ロボット観みたいなのをお互い変えてきたのかもしれないですね。

そらみ  まさにそうですね。さらに今は、かかわるロボットごとにやれることも少しずつ増えていったり、世の中のロボット意識も変わっていったりしてますよね。だから今後、自分の感覚がどのくらい変わっていくのか、自分でもよくわからない部分ではあります。

神山  それは確かにありますね。

こころみのロボティクス事業にそらみさんを入れたきっかけ

そらみ  そもそも、どうしてロボティクス事業の会話シナリオ作成に私を入れようと思ったんですか?

神山  もともとこころみは、「人はコミュニケーションの中でも特に自分の話を聞いてもらうことを求めている」ところからスタートしているんです。それで当初から、「ロボットを使ったコミュニケーションに可能性がある」と思っていて……。いざロボットの会話シナリオ作成を事業としてやろうと思ったときに、いい会話をつくるためには、それを作る専門の人が必要だって思ったんですよね。

そらみ  でも会話やセリフなんて、誰でも書こうと思えば書けそうじゃないですか。神山さんは、もっと違うものが必要な気がしたんですか?

神山  なんとなくではありますが、確信はありました。

そらみ  よくそこで、「劇作家や脚本家に依頼しよう!」ってなりましたね。

神山  そうですね(笑)
僕がもともと演劇団体にいたので、芝居をつくるという行為がどんなものか知っていたからですかね。というのも、映画もドラマもそうかもしれないですけど、芝居におけるうまい役者っていうのは、決められたセリフをうまく表現できるかどうかで決まるわけではないんですよね。

そらみ  うんうん、わかります。

神山  むしろ逆で、いかに相手のセリフを受け止めるか、その受け止めた反応をいかに自然に出せるのかが重要だったりする。だから、ロボット開発の場合も、いかにユーザーさんの言っていることを受け止めて返すかが大事だと思ったんです。そこをプロデュースできるのは、劇作家や脚本家のような、人の会話そのものを仕事としてつくっている人だと思ったんですよね。

そらみ  なるほど〜。初めて伺いました。

神山  言ったことなかったでしたっけ。ないですね(笑)

そらみ  私も、「やりたいし、やれる気がする」という感覚的なところでスタートして、こうして走り続けてきた気がします。

神山  でもそれは本当に大正解でしたね。

そらみ  そうですね。今後、この仕事がどうなっていくか、予想できなくて楽しみです。

そらみさんと一緒にしたロボットの仕事

神山 そらみさんと一緒に仕事した中で一番密度が濃かったのは、やっぱり「ここくま(*1)」なのかな。

そらみ  私のロボット意識変えたのも「ここくま」です。でもシナリオをつくるためには、「会話をするロボットがどういう存在か」とか、「ユーザーさんにどういう思いを持ってほしいのか」とか、「ロボットがどういう心の歪みを持っていると仮定するのか」、っていうところから考えなきゃいけないんだと、その後の根幹になるようなことを気付かされたプロジェクトでした。

神山  そうそう。やりながら、「ああこういうことなんだ」という気付きがありましたね。

*1 ここくま…離れて暮らす家族と音声メッセージで連絡が取れ、人感センサーの反応で天気や 季節の話題などを話しかけるクマのぬいぐるみ型コミュニケーションロボット。株式会社NTTドコモ、イワヤ株式会社などの共同開発で2017年1月25日に発売され、株式会社こころみは会話シナリオの作成を行った。
https://www.docomo.ne.jp/info/news_release/notice/2017/01/20_00.html

ロボットの会話シナリオのつくり方

神山  実際にロボットの会話シナリオをつくるときは、「朝、話しかけるときの会話」や「季節のことを話す会話」などをつくりますよね。あれはどういうふうに考えてつくるんですか?

そらみ  ええと、まず、実際にシナリオのセリフを考えるのは、私の中で最後の段階なんです。最初は、ロボットがユーザーさんにとってどういう存在であってほしいのか、というところから考え始めますね。ユーザーさんにロボットを、「愛してほしい」のか「便利だと思ってほしい」のか、「空気みたいな存在だと思ってほしい」のかをまず決めて、そのうえでロボットをどういう存在や性格にするかを考えていきます。それで最後に、具体的にどういうセリフや声かけにしよう、と決めていきます。あいさつ多めがいいのかなとか、意味ないこと多めがいいのかなとか、どれだけ雑味を入れるかとか。

神山  雑味ですか?

そらみ  はい。たとえばあるロボットをわんぱくな子にしようと思っていたとしても、話す言葉が全部わんぱくだったらすごくうざいし、どこ切っても金太郎飴みたいな存在って愛されないな、と思うんです。
だから全部で300個のセリフをつくるとしたら、そのうちわんぱく度合いが高いのを何個にしよう、逆にわんぱく0のやつを何個にしようみたいなグラデーションで、ロボットをつくり上げていきます。

神山  それって、ロボットだからそうなるんですかね。普段の脚本もそうなるんですか?

そらみ  普段の脚本もそんな感じですね。でもロボットの方がよりケース分けをしてます。わんぱく何パーセントだから、静かなのは何パーセントにして、ぐいぐいするのを1パーセント入れようとか。そこまでケース分けしているのはロボットの方が顕著です。

神山  それはなぜなんでしょうか?

そらみ  うーん。脚本では役の独り言を書いてるんじゃなくて、基本的には誰かとの対話を書いてるんですよね。相手との関係があるから、そんなにシステマチックに分けなくても、この人はこういう人物だよねっていうのを会話や情景描写で醸し出していけるんですよ。でもロボットは言ってしまえば、すでに搭載されているセリフを、会話のふりをして放たなくてはいけないから、脚本を書くときよりはもっとそのパーセンテージみたいなことをシビアに考えてはいます。

脚本家はどうやって作品のテーマを決めるのか

神山 そらみさんの普段のお仕事のことをもっと聞きたいと思うんですけど、普段は脚本家というのがメインになるんですかね。

そらみ  そうですね。脚本家と演出家をやってるんですけど、ロボットに関しては脚本家部分を特に使っているかな。神山さんは、脚本家って何やってると思われますか?

神山  なんか、ある原作を元に、テレビやドラマ、映画などで撮れるようにセリフやト書き(セリフ以外の登場人物の動作や行動、心情などを示した文章)を書く人っていうイメージなんですけど。

そらみ  そうですね。
そうなんですけど、意外に「なぜその作品をつくるのか」を深めていくのが脚本家の仕事として大きいなと思うんです。そこはロボットとも共通している部分ですかね。原作があるときはその原作選びの段階で、今の時代の人にどの原作がいいだろうとか、どのテーマがいいだろうとかを、探したりリサーチしたりするのにすごく長い時間をかけます。

神山  へぇ〜。

そらみ  それでそのときに、単純に面白いものを探そうという感じよりは、今の社会の膿ってなんだろうとか、どういうところに人は今寂しさを感じてるんだろうとか、大袈裟に言えば社会課題みたいなものを探すんですね。

神山  うんうん。

そらみ  それで、今こういう社会課題があって、水面下でそれを感じている人が多いだろうから、この作品をつくることに意義があるんじゃないか、みたいな。この作品を作れば、見た人が明日もちょっと頑張ろうと思うんじゃないか、救われる人がいるんじゃないか、っていうところから、テーマだとかそれにあった原作を探してみたりするんです。

神山  社会課題を見つけるのが先なんですね。

そらみ  逆もありますよ。いい原作を見つけて、どうしてそれがいいのかと考えたときに、社会課題に気づくこともあります。たとえば高校時代に読んでめっちゃよかった本も、今読んですごい刺さるかっていったらそうじゃなかったりするじゃないですか。

神山  あ〜、それはそうですね。

そらみ  私、ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』を思春期時代は「ヤベェ最高」と思ってたんですけど、今だとかったるくて読んでいられないと思うんですよ。

神山  そうかもそうかも。「こんな悩みどうでもよくない?」みたいなね。

そらみ  そうなんですよ。どんな人間もこんな瞬間だからこれが刺さるとか救われるっていうのがあるのと同じように、今のこの時代だから、この原作をいいなと思ったっていうのがあるんです。もちろん、社会課題からオリジナルの作品を作っていくということもありますしね。

神山  そうなんですね。

そらみ  社会課題っていうとすごく大きいけど、ぜんぜん小さいのもありますよ。たとえば、今って結婚したくない人って増えてますよね。でも「特定の誰かと生きていく」という選択をしない人生のある種寂しさを、どう受け入れてて生きていくかっていうことに悩んでいる人も多い。じゃあ結婚をしない女や男の話を作ろう、とかですね。そういうものを題材とすることもあります。

神山  そうやって考えると、そらみさんは2018年に、太宰治の小説をドラマ化した「グッド・バイ」の脚本を担当されていたじゃないですか。太宰治みたいな昔の話が、なんで今の社会課題に合ったんでしょうか?

そらみ  はいはい、すごく面白いですね! あのドラマは、太宰治の原作をまんまじゃなくって、原作を1回漫画化したものをドラマ化したものだったんですよ。

神山  あ、そうなんですね。

そらみ  太宰治の原作は、お妾さんがいて当然だよねっていう時代において、お妾さんたちとの関係みたいなのを書いた小説なんですけど……今って、不倫は絶対ダメだし、これしちゃダメあれしちゃダメとかルールがんじがらめじゃないですか。でもちょっと昔ってそういうルールも曖昧というか、マーブルなものだったよね、という発想があったんです。だったらその今絶対ダメっていわれているものが、何がいけないのっていう問題提起してもいいんじゃないかな、みたいなところから、太宰治っていうと違う価値観のものを持ってきたんですね。

神山  なるほど。今の悩みというか、今当たり前のようにこうしなさいっていわれているものに対する疑問をぶつけるために、昔の考え方をひっぱってきてぶつけてみると。

そらみ  そうなんです。だって太宰もこう言ってるよ、みたいなね。

神山  教科書に載ってる人がこう言ってるんだよ、ってね。

そらみ  今の常識って思ってることって、本当にそんなに絶対的なものですか? っていうことを暗に言えるのが、脚本家の、たぶん一番大事な部分なんじゃないかな。でも道徳の教科書を作りたいわけではないんです。道徳の教科書を作っても読んだ人みんなが、「はっ、そうかも!」と思うわけではぜんぜんないから。

神山  そりゃそうですね。

そらみ  だからそれを楽しみながら、共感しながら見てもらうためには、どういう人物たちがいて、どういうテンポ感の作品にしたら楽しいんだろうという、その作品の人や場所や世界観を考えていくのが脚本家の仕事の大きなところで、それを最終的にセリフとかト書きに起こしています。

神山  なるほど。深いんですね。

ロボットと脚本のシナリオは全然違う???

神山  今の話を聞くと、お芝居などの脚本とロボットの会話シナリオをつくるって、ぜんぜん違うことという感じがするけど、どうなんでしょう?
社会課題を解決するためのロボットなのか、というと違う気がするし。ロボットは、道徳感に対してチャレンジするわけじゃないわけですから。

そらみ  あれ? でもめっちゃ同じような過程を踏んでいるような気持ちで私はやってますよ。

神山  あ、そこは同じような感じなんですね。脚本書く作業とロボットつくる作業は。

そらみ  はい、そこはすごく似ていると思っています。もしかしてビジネスとそうじゃない畑の人間の違いもあるのかな。

神山  詳しく聞いていいですか?

そらみ  特に、今私たちがかかわるのは介護用や高齢者向けのロボットですよね。その分野で製品をつくるっていうことは、何かしらの社会課題があるからなのかな、って思うんです。介護用のロボットの場合は、たとえば高齢者1人の方の寂しさをどうにかしたいとか、人と喋るようなリハビリって必要だよね、みたいな社会課題から出発してるような気がしてますね。その心に寄り添えるロボットってどんなのだろう、みたいな。

神山  ああ、なるほど。それはそうですね。確かにそこはわれわれも、高齢者のお話し相手をつくりましょう、というだけではないです。高齢者の方が求めているお話し相手はどんな存在なのかとか、退職して子どもたちが全員巣立って1人残った人が何を求めているのか、ということを考えるところから出発している。それは脚本と同じですね。

そらみ  そうですね。似ている気がします。それと、私は、ロボットの話し相手になってくださるユーザさんを、一種の視聴者みたいに思ってるみたいです。

神山  視聴者ですか。

そらみ  はい。それでその人たちに、どういう存在を届けたら一番楽しんでもらえるのか、どうしたらちょっとした行動につながるような受け取り方をしてもらえるのか、っていうことをいつも考えてます。

神山  わかります。

そらみ  そんなふうに、ユーザーさんが行動を起こしたり自己変革を感じるほど、深く食い込むためには、やっぱり飽きさせないことが大切なんですよね。だから、先ほど言ったようなわんぱく何パーセントとか静かなの何パーセントとか、いろんなケースに分けるというのも、いろいろな展開を考えて長く楽しんでもらう工夫なんです。

神山  なるほど。

ロボットが話すのは普通のセリフに見えるけれども……

そらみ 神山さんが先ほどおっしゃっていたように、脚本家とロボット製作が違うように感じたのってどういうことなんですか?

神山  そうですね。たとえば脚本をつくるときっていうのは、今の社会課題はこうで、今人々はこういう悩みを抱えてますよねっていうところに対して、問いを投げかけたり、共感を覚えてもらったりするわけですよね。

そらみ  はい。

神山  でもロボットのシナリオは、「おはよう」とか「おやすみ」とかの普通の会話です。そこで、今まで考えもしなかった常識を打ち破る行為とか、ユーザーの持っている常識に疑問を投げかけるとかは、決してやらない。

そらみ  なるほど〜。

神山  それは脚本家とロボットシナリオ制作では違うなと思って。

そらみ  そう言われればそうなんですけど、私はロボットを作っているときも、もっと大層な気持ちになっていますね(笑)

神山  ロボットが話すのはただの会話だけれども、ものすごいことをしていると。

そらみ  そうです。私たちよく「ユーザーさんに、行動とか想像力を起こさせたいよね」って話しているじゃないですか。

神山  言いますね。

そらみ  私は、それがすごくポイントだと思っています。ロボットが普通に「おはよう」と言うときも、続けて「今日の天気はどんなかな? 窓の外を見てみて」みたいなことを言わせるとする。そのときに、ユーザーさんがふと窓の外を見てみることって多いと思うんですよね。これって、ものすごい行動を起こさせてると思うんです。

神山  動かしてるんですもんね。人の体を。

そらみ  そう。特に高齢者の、たとえば認知症の方とかって、窓の外を1回でも見る毎日か、1回も見ない毎日か、というだけで、ものすごく違うものがあると思うんです。外に関心を向けるっていうきっかけになるかもしれないし、半径30センチの自分の周囲だけじゃなくて遠い何かを見るっていうのが、実際に脳神経とか視神経を刺激するかもしれない。さらに、自分が窓の外を見て確認した天気を、ロボットに「今日こっちは晴れだよ」とか伝えてくれる方もいるじゃないですか。

神山  そうですね、言ってくれますね。

そらみ  そういう、誰かに用意されたことを言っているのではなくて、自分で今日晴れてるな、と思ってそれを伝える。自分の感覚を信じた上で発言する行為を導いてることは、すごい大事だと思っています。だって、「今日は晴れだな」っていうのを見たのは自分の目で、判断したのも自分で、それを自ら発語して、っていうのは、ただの「おはよう」というあいさつ以上の行為じゃないですか? それを起こさせていくって、すごいことをしているなって。

神山  なるほど。

そらみ  さらに、「ここくま」は、たとえばさきほどの天気の話をした後に、「なになにさんが修学旅行に行ったとき天気はどうだったの?」っていう展開にしたと思うんですけど、そうすると、昔のことを思い出す。しかもなんとなく思い出すんじゃなくて、1回外を見て、視覚や脳神経が刺激されてるわけだから……。

神山  思い出しやすくなるわけですね。

そらみ  そうそう。1回脳を準備運動させておくことによって、昔のことも、手触りを持ったものとして自分の中で思い出せる。だから私は、ロボットを通していろんな神経や感覚を刺激させてもらっているつもりではいますね。たんなる会話だけど、深くその人に入り込んで動かしているなって、これは大きなリハビリにつながるなって、そんな大層なことをやっている気持ちになります。

神山  影響力が大きいってことですかね。普通の会話よりも、もたらすものが大きいということでしょうか。

そらみ  そうですね。そういう、バリエーションを作れたらいいなって思ってやってますね。

神山  確かにそうですね。特に今、ユカイ工学さんとやってるプロジェクトなんかは、かなり行動変容を目指してやってますから。しかもあれは、他のテクノロジーとリンクさせるものなので、うまくいけば、かなりでかい。

そらみ  めちゃくちゃでかいですよね。私は脚本家であり演出家なんですが、ロボット制作の中で特に演出家的だなと思うのは、言葉が身体と絶対的に結びついたものであるというところなんです。

神山  言葉が、身体と結びついている?

そらみ  はい。行動を起こすとマインドが変わるってよく言われますけど、実際そういうことって多いと思うんです。会話によって行動が促されたら、それは単なる会話っていうより、人生の一部になるような気がしています。ユカイ工学さんとのお仕事では、会話によって身体を接触させたりだとか、身体に刺激を与えることで、感情まで変わるところまでやれていますから、とても楽しいですね。

……つづく

>>第2回「ロボットの会話の失敗と成功」は11月22日(火)配信予定です。

プロフィール

■舘 そらみ●だて そらみ
脚本家。劇団「ガレキの太鼓」、青年団演出部所属
東京都生まれ。幼少期よりトルコとコスタリカで暮らす。慶應義塾大学在学中に演劇を始め、大学時代にバックパッカーとして世界一周。卒業後、一般企業での就職を経て、劇団「ガレキの太鼓」を立ち上げる。一般の住居を使った「のぞき見公演」など実験的な上演を重ねて、その作風は新聞に「徹底して無責任で刹那的」と評された。映画脚本「私たちのハァハァ」(2015年公開)はゆうばり国際ファンタスティック映画祭2冠を受賞。テレビドラマ脚本、コラム連載も手がけ、全国の小中高生への演劇ワークショップも多数実施するなど活動は多岐に渡る。現在は、住居や活動拠点を1箇所に決めずに、日本各地、海外など各地を転々とする生活を送っている。秋から冬にかけて、2本の連続ドラマが放送中。「私のシてくれないフェロモン彼氏(TBS)」と「恋と弾丸(MBS)」。
■神山 晃男●かみやま あきお
株式会社こころみ代表取締役社長
1978年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、コンサルティング会社勤務を経て、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズに10年間勤務。コメダ珈琲店、ウイングアーク1st等を担当。2013年「すべての孤独と孤立なくす」ことを目的に株式会社こころみを設立。一人暮らし高齢者向け会話サービス「つながりプラス」、親のための自分史作成サービス「親の雑誌」やインタビュー社史作成サービス「創業の雑誌」を提供する。
2017年より、高齢者会話メソッドによるロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発サービスの提供を開始。株式会社NTTドコモが提供するクマ型ロボット「ここくま」の開発支援や、モバイル型コミュニケーションロボット「ロボホン」を活用した自分史作成のサービスの企画を担当。