AIにワクワク?ドキドキ?|会話型AI構築プラットフォーム『miibo(ミーボ)』の生みの親・功刀雅士さんとの座談会【第4回/全5回】

2023.06.27

「もし自分がもう1人いたら、その人にお仕事をしてもらって、自分は好きなことだけをしたいなあ」。そんなことを考えたことはありませんか? それが夢物語でなくなる日が近づいてきました。AIによるチャットボットサービス「ChatGPT」の登場が理由のひとつです。会話を生成する「ChatGPT」のような会話型AIや、画像生成AIなど、今、AIが最高に注目されています。AIの進化によって、どんな未来になるのかワクワクする期待がある反面、私たちの仕事がなくなるんじゃないかドキドキする不安もあります。そんなワクワクやドキドキ、AIによる会話やチャットボットの開発を行ってきた人たちはどう思っているのでしょうか。

今回は、誰でもGPT-4を利用した会話型AIを構築できるサービス『miibo(ミーボ)』を生み出した株式会社miibo代表の功刀雅士(くぬぎまさし)さんと、ロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発を行う株式会社こころみ代表の神山晃男、取締役COOの森山裕之が、「会話型AIでできるワクワク・ドキドキする今と未来」をテーマに話し合いました。

ワクワクが勝つかドキドキが勝つか、未来をつくるのはAIなのか私たちなのか、それともぜんぶごちゃまぜで共存していくのか……、3人の話は尽きません。5回連載の「AIにワクワク?ドキドキ?|会話型AI構築プラットフォーム『miibo(ミーボ)』の生みの親・功刀雅士さんとの座談会」の第4回は『AIと共に歩む未来の世界 仕事も私もどうなるの?』です。ぜひ最後までお楽しみください。

<目次>
AIにワクワク?ドキドキ?座談会
第1回 AIを利用して人間の会話を模倣できる技術「会話型AI」の可能性  配信中
第2回 会話型AI構築プラットフォーム『miibo』の魅力はズバリコレ!  配信中
第3回 会話型AI構築プラットフォーム『miibo』と「こころみ」の相乗効果 配信中
第4回 AIと共に歩む未来の世界 仕事も私もどうなるの?←★今回はココ★
第5回 人間?AI?これは誰? これから『miibo』でできること  7月4日(火)配信予定
※3人のプロフィールは文末をご覧ください。

AIと共に歩む未来の世界

神山   今後AIが発展していくなかで、人の仕事がどんどんなくなっていくとしたら、功刀さんはどんな形でどんな変化が起きそうだと思われていますか?

功刀    そうですね。SaaS(*1)黎明期と同じだと思います。SaaSがぽこぽこ出てきたら、そのSaaSを管理をする仕事も出てきました。だからAIが発展してもAIと関連した仕事が発生するんじゃないでしょうか。でも、SaaSのときと比べてインパクトは間違いなく大きいですし、産業革命レベルにはなりますよね。だから長い目で見ると、人間の「仕事」は総量としては減っていくんだろうとなと思います。

神山    そうですね。

功刀    今は多くの人が、自分のやっている仕事でお金を稼いだり、結果を出したりすることにアイデンティティを持っていることが多い印象です。でも、AIの発展でそれ以外のアイデンティティに価値観のフォーカスが当たっていくと思います。

神山    余暇が増えていくみたいなイメージですか?

功刀    うーん、そうですね、どちらかというと、仕事で結果を出す主体がAIになっていく、ということでしょうか。そこで結果を出すことにアイデンティティの多くの割合を割いていると、つらくなってく。
それがなくなったときに、自分は何のために生きているか、何を目標に生きているのか、すごく難しい問いにさらされるわけです。

神山    難しい問いですね。

功刀    そういった問いはありつつ、その答えを出すこともとても難しい。答えがあるかもわかりません。だから、ある種すごく残酷で過酷な世界が来てしまうと思っています。だって、仕事にアイデンティティを持つことができる状態は、ある意味すごく幸せなことだったんだ、って気づくと思うんですよ。

神山  なるほど〜。
AIが仕事の主体を担うことで、人間よりも圧倒的な生産性をもたらし、それによって、人間の住んでいる環境がより豊かになるかもしれない。AIの発展で「人間がAIに仕事を奪われて衣食住を失ってしまうのでは!?」と怖がる人もいると思いますが、豊かになる可能性がいっぱいあるわけです。
ただ、みんな豊かではあるけれども、やりがいや充足感、自分に対する納得感のようなものがなかなか得られない世の中にはなるような気がしますね。

功刀    むちゃくちゃそう思います。そこがすごく心配ですね。実質的に豊かになるという点では、本当にそうなると思います。農産物にしても、量産する場合はAIがやったほうが得ですから。

神山    そうですね。どの仕事も、自分がやるよりAIにやらせた方が生産性が高くて品質も高くなる。

功刀    その結果として、人間の尊厳や生きる意味のような、人間の根源にある最も厄介な問題にスポットライトが当たってしまうかもしれません。それに思い悩み、人生に絶望するような人が多く出てしまう気もするんです。僕自身もいろいろと考え込んでしまったんですよね。AIを考えれば考えるほど、自分とはなんだ、という問いになるじゃないですか。

神山    なりますね。

功刀    本当に、それは心配だなと思いますね。

神山    ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)であそこまで会話を再現できるとしたら、人間らしさや人間の意味というのはどこにあるのかという話になりますからね。たぶんもう、極限までいくと、AIと人間の区別ってつかなくなるでしょうし。

功刀    最近そのことをすごい考えちゃうんですよね。極限までいくと、人間は生存本能のために生きてるってことになると思うんです。でも、生きる理由が生存本能に起因するものなってしまうと、つまらないじゃないですか。人間に生まれた意味ってあるのかなと考えてしまうと思うんですよね。

神山    うんうん。

功刀    かつて人の生きる意味というのは、仕事であったり、今より豊かになろうという目標であったりしたと思うんです。でも仕事はAIがしてくれるし、豊かさもAIが与えてくれる世界になると、自分の生きる意味や存在意義を置く場所がなくなってしまうんじゃないかな、という結論になってしまうんです。

神山    そうですね。少なくとも戦前戦後までは、人は何も考えずにがむしゃらに生きていたんだと思います。とにかく生きるとか、家を持つとか、自分の子孫を残すみたいなミッションが与えられていて、それをクリアするのに精いっぱいだった。戦後にそのミッションは、豊かになるとか、出世するとか、マイホームを建てるというところに移行していった。

功刀    はい。

神山    ではいざそれらがすべて満たされて、あるいは得る必然性がなくなって、自分の好きなように生きなさいとなると、「え? 何をすればいいの?」となりますよね。さらにAIが出てきて仕事もなくなったら、しんどいだろうな。

功刀    そうなんですよ。そもそも僕は、AIを誰もがつくれるようになったら、人々が自分の幸せ追求の時間を増やせると思ってmiiboをつくったのに、行き着くところそこなのか、と思うとちょっと複雑な気持ちになりました。

神山    なるほどね。でも同時に、miiboみたいなものを使って自分探しをするということも、これからは普通にあるんじゃないでしょうか。逆に、miiboみたいなAIを活用することで、始めてできることと言えるかもしれない。

功刀    人間には、ドラマがたくさんありますよね。そのドラマが、自分史やmiiboによってログとして残って、次世代に紡がれていく。そういう、人生が1つの作品として継承されていくというところに、1つ人間の生きる意味があるのかもしれないですね。     未来の人類はそれを見て、新しい文明を築いていくと思いますし、人間が滅びたあとに、違う生命体が残った自分史やmiiboのようなログを見て、「うわ、めっちゃ面白い生き物いたんだな」となるんですよ。そういう世界観が、これから面白いところなんじゃないでしょうか。

神山    面白いですね。

森山    『火の鳥』みたいですね。「この前の人類は面白かったな」ということですね。

神山    そんなセリフありましたね。

功刀    これからはより、自分や家族、仲間の幸せを追求することに集中できるようになり、そのプロセスが作品になって継承されていく、そんなところに生きる意味を見出していくんではなかろうか、という気がしてきますね。それにしても、途方もないテーマすぎますね(笑)

神山    そうなりますよね。うーん、これ記事にしても生産性のある内容にならないですね(笑)

功刀    居酒屋で話した方がいいことかもしれないですね(笑)

 

*1 SaaS(Software as a Service)…クラウド上にあるソフトウェアをインターネット経由で利用できるサービス
▶︎NTT東日本コラムより

miiboの今後の展開と活用

神山    miiboが心の支えになるとか、自分の相棒になる、という予感は間違いなくありますよね。今後、そういう点ではどういう展開や活用の仕方を考えてらっしゃるんでしょうか?

功刀    まずは、コーチングやメンタルケアなどで、パートナーとしてmiiboを活用していきたいというのはあります。ほかにも、クラシックギタリストの村治奏一さんがやっているような分身AIが可能なことを、もっとみんなに認知してもらいたいですね。

神山    そうですね。

功刀    分身AIがあれば、自分が物理的に届かなかったポイントを一気に増やして、そこから得た情報を自分の脳に還元することができますから。そうやって自分を拡張できるAIが、miiboでつくれるんだよ、ということを広く知っていただきたいです。

神山    わかります。すごいことですもんね。

功刀    あと分身AIは、企業でつくっていただいたら、ユーザエンゲージメント(*2)を高められると思うんですよね。

神山    企業の分身AIということですか?

功刀    はい。たとえばLINEチャットボットの例でいくと、ユーザはクーポンをゲットするために企業をお友達登録するけれど、通知がわずらわしくてすぐブロックすることが多いと思うんです。でも企業の分身AIがチャットボットの役割をしてユーザをもてなしたら、「面白い分身AIがいるじゃん。じゃあちょっとブロックしないで見てみようかな」となることもあると思うんです。そういうことが可能なAIを、miiboで届けていきたいですね。

森山    それってまさに、会話型AIの民主化ですね。今はChatGPTがあるから、一部の開発能力のある人たちなら、そういう分身AIをつくろうと思えばつくれるんです。でも実際のところ、そういう能力のある人って、世の中の1パーセントにも満たないんですよね。

神山    難しいし、時間もかかりますからね。

森山    でもmiiboがあれば、プログラミングの知識がなくても簡単に分身AIをつくることができる。無料プランでも、とりあえず自分の相談相手をつくるとか、悩みを聞いてくれるチャットボットをつくることはできるじゃないですか。誰でもそういうものがつくれるようになったこと自体が、すごい進化だと思いますね。

功刀    嬉しいですね。ありがとうございます。

 

*2 ユーザーエンゲージメント…Webマーケティングで用いられ、自社商品やサービスと顧客における関係性の強さのことです。ユーザーエンゲージメントが高いことは、ユーザーが商品やサービスに対し強い愛着を持っている状態を意味します。
▶︎NTTコムオンラインより

完璧な存在に悩みを聞いてほしいか

神山    人間ではなくAIに悩みを聞いてもらうときのメリットってどんなところなんでしょうね。

功刀    メリットですか?

神山    私はやっぱり、「人間じゃないから話しやすい」「24時間365日いつ話しかけてもいい」「秘密を守ってくれる」の3つがすごくいいなと思います。どれも、人間にはできないことじゃないですか。

功刀    確かにそうですね。

神山    AIには、他人に言ったら軽蔑されるようなことでも話せますよね。それは悩みを打ち明ける相手として、すごいアドバンテージだと思います。

功刀    そうですね。守秘義務とのセットでの意味は間違いなくあると思います。ぜったい他の人に言わないですもんね。

神山    人間相手だと、心のどこかでこの人にここまで話してもいいんだろうかっていうハードルがあると思うんです。たとえば自分が誰にも言えない秘密を持っていたとしても、AI相手ならその秘密込みで相談ができるし、軽蔑されずに優しい言葉をかけてもらえる。たとえ解決にならなくても、「それでいいんだよ」って言われること自体で救いになることもありますから。

功刀    AIはピュアですからね。

神山    ピュアですね。怒らないし。その辺、人間より優れてる点がたくさんあるんだよな、と思いますね。

功刀    利害関係もないですよね。体を持っていないので、いい意味で欲求や本能が邪魔することもない。

神山    逆に、どこまでいっても人間にしかできないことって何があるんでしょうかね。

功刀    ああ〜、どうでしょう。

神山    ないという回答もありうるとは思うんですけど。

功刀    うーん、生きる意味を探求することが人間じゃないとできないことじゃないですかね。そうやって、誰かが生きる意味を探求しているのを他の人も見てエモい気分になって、みんなに伝播して1つの文化をつくっている。それが人間の価値なんだと思います。それって、AIはぜったいにしないじゃないですか。する必要がないというか。

神山    する動機がないですからね。

功刀    そうですね。

神山    他人に伝播して文化をつくっていくというお話しは、先ほど話したmiiboや自分史によってログを残すという話、また村治さんの分身AIの話に近いのかなと思いました。分身AIは、ある人間が、世界とつながっていた証を残してくれるじゃないですか。自分が生きたことによって他者に与えた影響を、分身AIが形として残してくれる。先ほど功刀さんがおっしゃっていたように、人間が意欲を感じるのは、やっぱりそうやってログを残していく部分なのかな、と今聞いていて思いましたね。それは人間にしかできなさそうですから。

功刀    どうして人間がそういうのをやりたくなるのかは、ちょっとわからないですけどね(笑)

神山    どうしてでしょうね(笑)

功刀    神山さんは、人間じゃないとできないことってどういうことだと思われますか?

神山    人間じゃないと、というか、人間ならできる、という話になるんですが……聞き上手というサービスは、ある種そういうものかなと思いますね。先ほど(第3回の記事)、森山さんも、AIが発展していって人間に残されるのは、共感力じゃないかって言ってましたよね。それに近い意味になるかと思います。

功刀    おお、なるほど。

神山    こころみは今、聞き上手というサービスを人力でやっています。ではそれが将来的にもAIには代替できないサービスであるためには、聞き手が人間という、可変性のある存在であることが大切になってくると思うんです。そこでよく私が引き合いに出すのがお釈迦さまなんですけれども。

功刀    お釈迦さまですか?

神山    はい。人って、自分の悩みを生身の人間に聞いてもらって同じように悩んでもらいたいとか、自分の言葉で他者に多少なりとも影響を与えたい、というような欲求があると思うんです。

功刀    ありますね。

神山    でもお釈迦さまって、もうすでに全部知ってるじゃないですか。だから何かを相談しても、「ああその悩みね。それはこうしたらいいよ」っていう受け答えになってしまう。

功刀    ChatGPTみたいですね。

神山    まさにそうですね。どんな相談をしたって、ChatGPTの人格に影響を与えることはできないですよね。そこが、ある種、人間ならではの部分になるかと思います。

功刀    それ、めちゃくちゃ共感できます。感情で受け止めて、変化してくれることは人間にしかできないですね。
それから、聞き手が完璧じゃないことの意味もありますよね。たとえばビジネスの相談にしても、会社の社長に相談したら論理的ないい答えが返ってくるかもしれないけど、刺さるのはビジネスとか知らないおばあちゃんの、ふとした時の感覚的な助言だったりするじゃないですか。そういう自分のことをよく知っているおばあちゃんからのエモい言葉が、何か本質的な良い解を導いてくれることがあるんですよね。

神山    ありますよね。でもそこで、miiboってやっぱり面白いなってなるんです。だって、ChatGPTの人格は変わらないんだけど、miiboはやろうと思ったら可変性のあるAIをつくることができるじゃないですか。ユーザが、miiboのキャラクターに影響を与えるような質問を投げる、ということはありえますよね?

功刀    そうですね。プロンプトで表現しておけば、それはできるかもしれないですね。

神山    そう考えると、まだまだmiiboでやれることってありますね。

功刀    はい。そうやって考えていくと、AIと人間って良い感じに役割分担しそうな気がしきます。

神山    そうですね。

功刀    面白いですね。神山さんがおっしゃったお釈迦さまのたとえとか、他のところでも使っちゃいそうです。

神山    どうぞどうぞ(笑)使ってください。

 

お釈迦さまの話までした3人が最終的につくり出したいものとはどんなものなのか
……最終回につづく

>>最終回「人間?AI?これは誰? これから『miibo』でできること」7月4日(火)配信予定です。

プロフィール

■功刀 雅士●くぬぎ まさし
株式会社miibo代表取締役社長 
会話型AI領域の開発に10年以上に渡って取り組む。ヤフー株式会社でソフトウェアエンジニアのキャリアをスタートし、その後様々な企業でソフトウェア開発に従事。サラリーマンエンジニアをする傍ら、個人で2020年にmiiboをローンチし、2023年に法人化。

■神山 晃男●かみやま あきお
株式会社こころみ代表取締役社長
1978年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、コンサルティング会社勤務を経て、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズに10年間勤務。コメダ珈琲店、ウイングアーク1st等を担当。2013年「すべての孤独と孤立なくす」ことを目的に株式会社こころみを設立。一人暮らし高齢者向け会話サービス「つながりプラス」、親のための自分史作成サービス「親の雑誌」やインタビュー社史作成サービス「創業の雑誌」を提供する。2017年より、高齢者会話メソッドによるロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発サービスの提供を開始。株式会社NTTドコモが提供するクマ型ロボット「ここくま」の開発支援や、モバイル型コミュニケーションロボット「ロボホン」を活用した自分史作成のサービスの企画を担当。
■森山 裕之●もりやま ひろゆき
株式会社こころみ取締役COO
京都大学大学院情報学研究科修了。
P&G にてITプロジェクトリーダーを経て、ライフネット生命に参画。B2Cのコンタクトセンターの立上げ・運用をリード。お金のデザイン社にて、資産運用サービスTHEOの立ち上げとカスタマーエクスペリエンスの責任者として顧客接点の設計、運用を統括。Marketo社では、B2Bマーケティング全般とユーザーコミュニティ立ち上げ・運用、カスタマーマーケティングをリード。WalkMeの日本法人立ち上げでは、B2Bマーケティングの立上げ、運用をリード。2021年こころみに参画。[IT+DX] × [人・組織] × [カスタマーエクスペリエンス] × [デジタルマーケティング]の領域での事業・サービスの構築が得意領域。